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一章 純愛…ルート

休みって嬉しいものなのに

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あれから、あの事を考えないようにしてる。
好きな人との幸せを一つでも覚えていたいから…。
僕って弱虫だな…。


「もうすぐ連休だね。ライアン様は一度家に帰ったりするんですか?」

「あぁ、シャルは?」

「はい、僕も一度家に帰ります。」

僕達はもうすぐ三年生になる。
二年最後の試験も終わり問題なく進級が決まった。
僕を含めた生徒達皆、安堵の空気に包まれた。
二週間程の休みが与えられ、多くの生徒は一度家に戻る。

僕もそうすることになっている。

何故ならお父様から手紙が届き、お母様が会いたいと言っていると…。
「帰らない」という選択肢、僕には無かった。
シャルマンの両親に初めて会うと思うと緊張する。

僕が偽物とバレるのではないだろうかと不安だ。

ライアン様とは昼休みに食堂で一緒にご飯を共にしたが、その後は別行動をした。
もうすぐ連休なので、今まで長いこと借りていた本を返さないといけなかったから。
図書館に行った帰り彼に会った。

「フィンコック様」

振り向くと大きな身体の人。

「あっえっと…レノック エルマー様?」

「はい、覚えてくださっていたんですね。」

ギリギリです…けど。
なんとか。

「婚約者になってくれませんか?」

「あっ」

直球できた。
前もそうだった、彼の人柄が出ている気がする。

僕と違って強いな…。

忘れてた訳じゃないけど、ライアン様の事で彼の事は後回しにしてしまっていた。

「あの…ごめんなさい…あの時はいえませんでしたが、僕も…婚約したい方がいるんです。」

前回の時にちゃんと断っていたら…。
もしかして、彼に期待を持たせちゃったかな…。

「俺は愛人でも構いません。」

「えっ…ぁぃ…じん?」

愛人という考えは日本育ちの僕には簡単には受け入れられず、学生の口から真剣な思いの告白の言葉としては強烈だった。
こんなにも当たり前に愛人、第二夫人という考えがあるのに驚く。
国が変われば常識も変わる。
僕はこの国に順応出来るか不安だ。

「側にいるだけで良いんです、貴方の側にいさせてください。」

「………」

その気持ちは僕にもわかる…。
だからと言って彼を受け入れて良いとは思ってない。
ごめんなさいって断っても断れない時って何て言えば良いんだろう?
男の人の告白を断るなんて贅沢なこと前世で体験したこと無いからわからないよ。
どうすれば、彼を傷付けずに諦めてくれるの?

「……エルマー様はまだ一年生ですよね?急いで決めなくても…。」

「フィンコック様は二年ですよね?いくら急いでも年齢縮めることが出来ません、俺はフィンコック様がいいんです。」

胸がトクンとした。
前世だったり、ライアン様に出会う前なら喜んでいたと思う。
だけど、今の僕は…。

「…ごめんなさい。」

「…どうしてもダメですか?」

「………」

「…どうしてフィンコック様のが泣きそうなんですか?」

「………」

僕も同じ気持ちだから。
応えられないことが苦しい。
僕なんかを好きになってくれて凄く嬉しいのに…。

「そんな顔されたら、余計に無理です。」

首を振るしか出来ない。

ダメ…。
どうして…。
僕なんかを…。

「…僕より…素敵な人は沢山いるから…。」

「フィンコック様が良いです。」 

「……ダメ…だよ…。」

「何でダメなんですか?婚約者はいないって言って……俺が男爵家だからですか?」

「爵位は…関係ないです。」

爵位なんて…。

「なら、俺が好みじゃないってことですか?」

好み?
彼はとても大きくて逞しい、髪と瞳の色はダークブラウンでとても落ち着いている彼。
顔も男らしく彫り深いエキゾチックな雰囲気がある。
好きか嫌いかで言えば好き。
だけど日本育ちの僕にはお互いを思い合う関係が理想で、二股や愛人はどうしても抵抗がある。

「……もし…僕が卒業して…エルマー様が卒業するまでに僕以上に婚約したい人が現れ無かったら…僕が良いって想いが消えなかったら…。」

こういう感情は、きっと時間が解決してくれる…。

「愛人にしてくれますか?」

「……また…考えま…」

「俺の気持ちは変わりません。」 

それは今だけで…ペアを経験していけば僕の事なんて忘るはず。

「………」

「俺、卒業と同時に必ず会いに行きます。」

「………」

「ありがとうございます、フィンコック様。愛してます…チュッ」

去り際に頬にキスをされた。
あんな男前な人、モテないはずがない。
愛人じゃなく旦那様になって欲しいと思う人がいるはず…今はまだでも必ず現れるから、きっと僕との約束なんて二年後には忘れていると思う。
一日でも早く僕を思い出にして、彼には幸せになって欲しい。

頬のキスは僕にとってもいい思い出にしますから、どうか彼も幸せになれる人を見つけてください。
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