70 / 74
2章:運送テイマー(仮)
70話:~ラーダの独白~
しおりを挟む私は山羊人族のラーダ。今は山羊人族と言われているけど、サテュロスという種族名もあります。
私たちは人族よりも優れた脚力と瞬発力で動き、誇るべき剛脚で敵を屠り、高い魔法適性を持ち合わせていた強き存在でした。
しかし、今は人族の数の力に敗れ、最果ての森、ワールドエンドと呼ばれる森で、森の強者たちから隠れるように生きています。
この森はワールドエンドと呼ばれる森だけあって、普通の森よりも魔物が凶悪で強すぎる場所です。
生活が安定するまで、私たちは何人もの仲間を失ってきました。
ですがそれ故に、人族は森の中までは入ってこられないので、安住の地を見つけられれば、この森ほど安全な場所もありません。
命からがら生き残っていた私たちは、大精霊のノーム様に助けられて、魔物が寄り付かない結界を張ってもらい、安住の地を手に入れることができたのです。
私たちはノーム様を敬い、貢物を送り、崇めて生活をしていました。
ある日のことです。仲間たちと一緒に、貢物となる魔物を狩りに出ていたときのこと。
異常に強い大型のゴブリンに襲われ、私たちは囚われ、男たちは殺されてしまいました。
ゴブリンに囚われた私たちは、ゴブリンの巣に運ばれて、次々にゴブリンの子を生む母体ととして連れ出されていったのです。
絶望に打ちひしがれ、次は私の番だと覚悟を決めたところで、信じられないことに、大精霊のウンディーネ様がお供を連れて現れて、私たちを助けて下さりました。
そのお供の力は見ただけで分かるほど強力で、どれと対峙しても死を覚悟するほどの強さです。
しかもそのウンディーネ様は、ありえないことに人族にテイムされていて、その人族は異世界からやってきたというではないですか。
その人族は、キョータローと名乗るテイマーでした。
そしてそのキョータローなる人物が、ウンディーネ様を含む、ここにいる魔物たち全てをテイムして、従魔にしているようでした。
異世界人であっても人族に対して憎しみを持つ私ですが、どうしようもありません。今だけはその憎しみを忘れて、助けられたことを素直に感謝します。
そうして助けられた私たちは、ダークエルフの村に連れてこられました。
この村は一緒に捕まっていたダークエルフたちの村のようです。
道中で天災のヴリトラと出逢ったときは死を覚悟しましたが、ウンディーネ様がヴリトラを抑え、またもありえないことに、キョータローはあのヴリトラをテイムしたのです。
天災のヴリトラはその名の通り天災であり、ただの人がどうにかできる存在ではありません。
しかし倒したのは水の女神の眷属であるウンディーネ様で、それを従魔にしている人族のキョータローです。彼をただの人族と見るのは危険かもしれません。
そのキョータローたちが、ダークエルフたちに事情を説明してくれたおかげで、私たち獣人族は、一時的にこの村で保護されることになりました。
このまま危険な森に放り出されることなく大助かりです。
それから私たちはダークエルフの村の手伝いをして、生活を始めていきました。
住む場所はダークエルフたちが提供してくれましたし、食べる物はキョータローの従魔たちが狩ってきてくれているようです。
何故人族であるキョータローが、私たち獣人族のためにそこまでしてくれるのか、理解ができませんでした。
人族は獣人族を奴隷や家畜のように扱う下劣な種族です。
しかしキョータローは私の知っている人族とは違い、誰であろうと分け隔てなく接してくれている様子でした。
それはキョータローが異世界からきた人族だからでしょうか?
もしキョータローのような人族ばかりの世界なら、私たち獣人族は苦しむことなく、豊かに生きていくことができるのかもしれないと思い、この頃から少しキョータローに興味を持ち始めたのです。
キョータローの世界に行ってみたい――あるいは、キョータローが治めるこの世界を見てみたい、と。
ウンディーネ様や赤蜘蛛、アサルトヒポポタマス、クイーンノーブルビーとアルゲンタヴィスがいれば、国の一つを亡ぼすことも容易なのでは……そう考えることもありました。
しかしキョータローは、自分のいた世界に戻ることを第一に考えているという話を聞き、それなら私も一緒に、その世界を見てみたいと思うようになりました。
そんなことを考えていたからでしょうか、ある日、この周辺にはいないはずの魔物、地竜種が群れをなして村を襲ってきたのです。
ダークエルフや私たち獣人族が抵抗しましたが、なすすべなく村は破壊され、大勢の死者が出ました。
私も右腕と左足を失う重症を負い、この命も長くはないでしょう……。
死ぬ前に一度、キョータローの住む世界が見てみたい、そう神様に願い、眠りにつきました。
そして私を看病してくれていたダークエルフに起こされ、訳も分からずお肉を食べさせられと思ったら、失っていた手足が復活したのです。それどころか体の怪我全てが完治しました。有り得ません。
何が起きたのか聞くと、キョータローの用意したテイムミートを食べさせられたようで、それが原因のようでした。
そういえば誰かに何かを聞かれ、はい、と頷いた気がしますが……もしかしてこれを食べさせるためだったのかもしれません。
仲間にもテイマーはいましたが、テイムミートを食べて傷が回復するという話は、今まで一度も聞いたことがありません。
これもキョータローが異世界からやってきたテイマーだからでしょうか。
ますますキョータローに惹かれ、その存在が気になるようになりました。
そしてキョータローが天災のヴリトラを使って、私たち獣人族を元いた村に送ってくれるということなので、私は案内役を申し出て近づくことにしました。
神の御業のごとく私たちの大怪我を治したキョータローです。アルゲンタヴィスが鳥人に変わっていたことなど、もはや細かいことは気にしません。
それから様々な大精霊様たちと出会い、ほかの獣人族たちを帰していきました。
一生に一度会えるかわからない大精霊様たちと、こんな連続して出会えるなんて、本当に今回の騒動は異常だったのだと理解します。
それから移動を続けるも、数々の村が焼き払われ、見るも無残な跡地となっていました。
この様子では私のいた村も無事ではないでしょう。既に覚悟はできています。
そして……あろうことか、キョータローは風の大精霊様を打ち負かし、従魔としてしまったのです。
まさか鳥人の男が大精霊様を負かすとは思いもしませんでした。
流石はキョータローの従魔といったところでしょうか。
土の大精霊であるノーム様と出会い、人族の街へ行くかどうかの話し合いが始まりました。
大精霊様たちが人族の前に姿を現したら、間違いなく大混乱を引き起こすことになるでしょう。
私はそれでもいいですし、それで人族の街が消えるなら、願ってもないことです。
しかしキョータローは騒ぎになることを嫌うようでした。
確かに、ウンディーネ様を従魔にしているのが、人族のキョータローだと知られれば、間違いなく狙われますね。
しかしキョータローの力ならば、問題なく相手を蹴散らすこともできるはず。
私も及ばずながら加勢するつもりです。
だけど彼はそれをしないみたいです。それならとりあえず話を合わせ、問題点を指摘して、改善していく流れにしましょう。
話がまとまったところで、行くよりも先に、まず私たちを村に返すことを優先するとキョータローは話していますが、私は村に戻るよりも、可能であればキョータローについていくつもりです。
キョータローなら他の人族とは違いますし、もし奴隷にされたとしても、村で暮らしていたときよりも快適な生活が送れる気がしています。
私たちにも料理やお風呂といった楽しみを教えてくれたキョータローです。奴隷だからといって酷い扱いをさせるとは思えません。
普通なら楽観しすぎていると思われるかもしれませんが、従魔である魔物たちにも人と同じような扱いをしていたのです。私がキョータローを信じる根拠は十分あります。
私たちサテュロスの繁栄のためにも、是が非でもキョータローの仲間にしてもらう必要があるので、上手く仲間に入れてもらえるよう、タイミングを見つけて話してみたいと思います。
あわよくば、キョータローの子を授かり、寵愛を受けることで種の繁栄に繋げられればと下心を持っていますが……これは欲張り過ぎですね。
欲は身を滅ぼします。
あのいつの間にかいたアラクネが、常にキョータローに張り付いているので、下手に近づけば無事では済まないかもしれません。
そうこうして今日が終わり、私もこれから眠るところです。
あの丸焼きのお肉、美味しかったですね。
1
お気に入りに追加
1,061
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
見よう見まねで生産チート
立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します)
ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。
神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。
もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ
楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。
※基本的に主人公視点で進んでいきます。
※趣味作品ですので不定期投稿となります。
コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界召喚されたのは、『元』勇者です
ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。
それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる