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2章:運送テイマー(仮)

70話:~ラーダの独白~

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 私は山羊人族のラーダ。今は山羊人族と言われているけど、サテュロスという種族名もあります。

 私たちは人族よりも優れた脚力と瞬発力で動き、誇るべき剛脚で敵を屠り、高い魔法適性を持ち合わせていた強き存在でした。
 
 しかし、今は人族の数の力に敗れ、最果ての森、ワールドエンドと呼ばれる森で、森の強者たちから隠れるように生きています。

 この森はワールドエンドと呼ばれる森だけあって、普通の森よりも魔物が凶悪で強すぎる場所です。
 
 生活が安定するまで、私たちは何人もの仲間を失ってきました。
 ですがそれ故に、人族は森の中までは入ってこられないので、安住の地を見つけられれば、この森ほど安全な場所もありません。

 命からがら生き残っていた私たちは、大精霊のノーム様に助けられて、魔物が寄り付かない結界を張ってもらい、安住の地を手に入れることができたのです。
 
 私たちはノーム様を敬い、貢物を送り、崇めて生活をしていました。

 ある日のことです。仲間たちと一緒に、貢物となる魔物を狩りに出ていたときのこと。
 異常に強い大型のゴブリンに襲われ、私たちは囚われ、男たちは殺されてしまいました。

 ゴブリンに囚われた私たちは、ゴブリンの巣に運ばれて、次々にゴブリンの子を生む母体ととして連れ出されていったのです。
 
 絶望に打ちひしがれ、次は私の番だと覚悟を決めたところで、信じられないことに、大精霊のウンディーネ様がお供を連れて現れて、私たちを助けて下さりました。
 そのお供の力は見ただけで分かるほど強力で、どれと対峙しても死を覚悟するほどの強さです。

 しかもそのウンディーネ様は、ありえないことに人族にテイムされていて、その人族は異世界からやってきたというではないですか。

 その人族は、キョータローと名乗るテイマーでした。

 そしてそのキョータローなる人物が、ウンディーネ様を含む、ここにいる魔物たち全てをテイムして、従魔にしているようでした。

 異世界人であっても人族に対して憎しみを持つ私ですが、どうしようもありません。今だけはその憎しみを忘れて、助けられたことを素直に感謝します。

 そうして助けられた私たちは、ダークエルフの村に連れてこられました。
 この村は一緒に捕まっていたダークエルフたちの村のようです。

 道中で天災のヴリトラと出逢ったときは死を覚悟しましたが、ウンディーネ様がヴリトラを抑え、またもありえないことに、キョータローはあのヴリトラをテイムしたのです。

 天災のヴリトラはその名の通り天災であり、ただの人がどうにかできる存在ではありません。

 しかし倒したのは水の女神の眷属であるウンディーネ様で、それを従魔にしている人族のキョータローです。彼をただの人族と見るのは危険かもしれません。
 
 そのキョータローたちが、ダークエルフたちに事情を説明してくれたおかげで、私たち獣人族は、一時的にこの村で保護されることになりました。
 このまま危険な森に放り出されることなく大助かりです。

 それから私たちはダークエルフの村の手伝いをして、生活を始めていきました。

 住む場所はダークエルフたちが提供してくれましたし、食べる物はキョータローの従魔たちが狩ってきてくれているようです。

 何故人族であるキョータローが、私たち獣人族のためにそこまでしてくれるのか、理解ができませんでした。

 人族は獣人族を奴隷や家畜のように扱う下劣な種族です。
 しかしキョータローは私の知っている人族とは違い、誰であろうと分け隔てなく接してくれている様子でした。
 
 それはキョータローが異世界からきた人族だからでしょうか?

 もしキョータローのような人族ばかりの世界なら、私たち獣人族は苦しむことなく、豊かに生きていくことができるのかもしれないと思い、この頃から少しキョータローに興味を持ち始めたのです。

 キョータローの世界に行ってみたい――あるいは、キョータローが治めるこの世界を見てみたい、と。

 ウンディーネ様や赤蜘蛛、アサルトヒポポタマス、クイーンノーブルビーとアルゲンタヴィスがいれば、国の一つを亡ぼすことも容易なのでは……そう考えることもありました。
 しかしキョータローは、自分のいた世界に戻ることを第一に考えているという話を聞き、それなら私も一緒に、その世界を見てみたいと思うようになりました。

 そんなことを考えていたからでしょうか、ある日、この周辺にはいないはずの魔物、地竜種が群れをなして村を襲ってきたのです。

 ダークエルフや私たち獣人族が抵抗しましたが、なすすべなく村は破壊され、大勢の死者が出ました。
 私も右腕と左足を失う重症を負い、この命も長くはないでしょう……。

 死ぬ前に一度、キョータローの住む世界が見てみたい、そう神様に願い、眠りにつきました。

 そして私を看病してくれていたダークエルフに起こされ、訳も分からずお肉を食べさせられと思ったら、失っていた手足が復活したのです。それどころか体の怪我全てが完治しました。有り得ません。
 
 何が起きたのか聞くと、キョータローの用意したテイムミートを食べさせられたようで、それが原因のようでした。
 そういえば誰かに何かを聞かれ、はい、と頷いた気がしますが……もしかしてこれを食べさせるためだったのかもしれません。

 仲間にもテイマーはいましたが、テイムミートを食べて傷が回復するという話は、今まで一度も聞いたことがありません。
 これもキョータローが異世界からやってきたテイマーだからでしょうか。

 ますますキョータローに惹かれ、その存在が気になるようになりました。

 そしてキョータローが天災のヴリトラを使って、私たち獣人族を元いた村に送ってくれるということなので、私は案内役を申し出て近づくことにしました。

 神の御業のごとく私たちの大怪我を治したキョータローです。アルゲンタヴィスが鳥人に変わっていたことなど、もはや細かいことは気にしません。

 それから様々な大精霊様たちと出会い、ほかの獣人族たちを帰していきました。
 
 一生に一度会えるかわからない大精霊様たちと、こんな連続して出会えるなんて、本当に今回の騒動は異常だったのだと理解します。

 それから移動を続けるも、数々の村が焼き払われ、見るも無残な跡地となっていました。
 この様子では私のいた村も無事ではないでしょう。既に覚悟はできています。
 
 そして……あろうことか、キョータローは風の大精霊様を打ち負かし、従魔としてしまったのです。
 まさか鳥人の男が大精霊様を負かすとは思いもしませんでした。
 流石はキョータローの従魔といったところでしょうか。

 土の大精霊であるノーム様と出会い、人族の街へ行くかどうかの話し合いが始まりました。
 
 大精霊様たちが人族の前に姿を現したら、間違いなく大混乱を引き起こすことになるでしょう。
 私はそれでもいいですし、それで人族の街が消えるなら、願ってもないことです。

 しかしキョータローは騒ぎになることを嫌うようでした。

 確かに、ウンディーネ様を従魔にしているのが、人族のキョータローだと知られれば、間違いなく狙われますね。

 しかしキョータローの力ならば、問題なく相手を蹴散らすこともできるはず。
 私も及ばずながら加勢するつもりです。

 だけど彼はそれをしないみたいです。それならとりあえず話を合わせ、問題点を指摘して、改善していく流れにしましょう。

 話がまとまったところで、行くよりも先に、まず私たちを村に返すことを優先するとキョータローは話していますが、私は村に戻るよりも、可能であればキョータローについていくつもりです。
 
 キョータローなら他の人族とは違いますし、もし奴隷にされたとしても、村で暮らしていたときよりも快適な生活が送れる気がしています。
 
 私たちにも料理やお風呂といった楽しみを教えてくれたキョータローです。奴隷だからといって酷い扱いをさせるとは思えません。
 
 普通なら楽観しすぎていると思われるかもしれませんが、従魔である魔物たちにも人と同じような扱いをしていたのです。私がキョータローを信じる根拠は十分あります。

 私たちサテュロスの繁栄のためにも、是が非でもキョータローの仲間にしてもらう必要があるので、上手く仲間に入れてもらえるよう、タイミングを見つけて話してみたいと思います。

 あわよくば、キョータローの子を授かり、寵愛を受けることで種の繁栄に繋げられればと下心を持っていますが……これは欲張り過ぎですね。

 欲は身を滅ぼします。
 
 あのいつの間にかいたアラクネが、常にキョータローに張り付いているので、下手に近づけば無事では済まないかもしれません。

 そうこうして今日が終わり、私もこれから眠るところです。

 あの丸焼きのお肉、美味しかったですね。
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