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2章:運送テイマー(仮)

68話:黒幕の正体

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 今回の騒動の時期と、俺がこの世界に召喚された時期が一致している。

 つまり、俺よりも先に召喚されて、この森に棄てられた地球人が起こした、という可能性が出てきた。
 
 召喚されたのが俺と同じ地球人なのかは定かではないがな。もしかしたら別の異世界人、という可能性もある。

 なんにせよ、俺と同じ相手を従わせる能力を持ったやつが、憑き物を従わせて引き起こしたのではないかと、一つの可能性に行き当たったわけだ。
 
「……確かに、主と同じような特別なスキルを持った者なら、憑き物を操ることも可能かもしれないな」

「召喚された腹いせに暴れているのかねぇ」

「そうかもな。俺もあの国には一泡吹かせてやろうなんて考えてたくらいだ」
 霞と疾風の言う通りかもしれないが、もっとも、今はそんなことよりも帰る方法を探すのが最優先だ。
 悪いがこの世界の危機にそこまで深入りするつもりはない。
 どうせ勇者が召喚されて解決でもするだろうさ。
 
 帰る方法を見つけたその次くらいに暇があれば、お礼参りに行ってもいいかもしれないな。
 と言っても、アトラや霞たち従魔や、ジェニスや世話になったダークエルフたちがこれ以上危険にさらされるなら、俺もやれるだけはやらないとダメなんだよな。
 
「でもよぉ、主さんと同じってことなら、相当厄介な相手なんじゃないか?」

「大将みたいに強力な憑き物を従魔にして、それをたくさん連れているかもしれないってことか……」
 疾風とジェニスの言う可能性も十分ある。
 俺はウンディーネやシルフ、天災のヴリトラなどを従魔にしているが、転移者のチート能力によって、憑き物として強化された魔物は、これらを優に凌ぐかもしれない……。

「確かにそれは厄介だな」

「…………」
 面倒くせぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!

 相対した場合、あの憑き物地竜以上の戦力と戦うことになるかもしれないっ、てことだろ?
 無理だ無理。馬鹿らしい、戦ってられるか。

 ……なんて言ってられない状況なんだよな。俺が戦わなければ被害が更に広がる。

 正直戦いたくはないし、逃げたい気分だが、俺が逃げた後のことを考えれば、逃げるなんてことはできない。だが逃げたい。許されるなら逃げて逃げて帰る手段を探したい。

 ――だが俺の心の一部が痛み、それを許さない。

「んふふふ、何が出てこようと私が殺すから関係ないわぁ」
 アトラは相変わらず俺の腕に抱きついたまま不穏なことを言う。
 少し慢心しているような気がするから、ここで少し注意しておくか。

「アトラ」

「なぁにぃ?」

「転移者をナメるな。俺と同じように常識外の力を持ってるかもしれないんだぞ。いくらお前でも無傷で相手を倒せるとは考えるな」

「……」
 アトラは真剣な表情で俺を見つめ、話を聞いている。
 俺の言葉をどう受け取っているかはわからないが、とりあえず油断させないようにしておきたい。

「だから油断せず、常に相手は自分よりも格上だという可能性を捨てるな……俺は、お前たちに死んでほしくないんだよ」

「……キョータローがそこまで言うならわかったわよぉ」
 それまで真剣な表情だったアトラだったが、困ったように表情を変化させていた。
 これで少しは気を引き締めてくれればいいんだけどな……。

「ま、俺に出来るのは、敵として遭遇した場合、楽に倒せるくらい戦力を整えておくくらいか」
 もうテイム上限だとか考えるのは無しだ。色々の問題は帰る目途が立ったら真面目に考える。

「戦力の増強か。手っ取り早いのは、私たち大精霊を仲間に引き入れることだが……」

「俺たちみたいな暇な大精霊なんて、そうそういないからな」
 顎に指を当てて思案していた霞が提案するが、疾風が両手をすくめて難しいとぼやく。

 確かにこの森で最上位とされている、女神の眷属である大精霊を仲間にできれば更に楽ができそうだが、それを探す手間を考えると現実的ではないな。

「あの、山の麓まで行って強力な魔物を探すのはどうでしょうか?」
 ラーダの提案だ。確かに地竜やそういった強力な魔物をテイムできれば心強い。

「いや、大将は森を出るんだろ? そうしたらレックスやベヒーモスたちを食わせていくのも大変になるんじゃないか? だからこれ以上魔物を増やしても、維持していくのは難しいと思ったんだけど……」
 そうか……ジェニスの言うことも正しい。この森だから大量にいる魔物を狩って食わせてやられているが、この森の外がどれだけ魔物がいるかも分からない。
 食料が無くて餓死させてしまう、なんていう最悪の未来は避けるべきだ。

「余裕があるならラーダの案も悪くなかったんだが、森の外が未知数だからな……ジェニスの言う通りだ」
 そうなると、今いる仲間を育てて強くしていくのが無難な道か。

 だがアスラで移動中は、アスラ以外誰も経験値を入手できていない状態だし、どこかで集中して育成する期間を考えるべきか?

「お待たせ!」
 そんなことを考えていたら、あのノームの少女が戻ってきた。
 大精霊はいきなり現れるか心臓に悪い。
 アトラやエリサベス、アルの警戒が存在しないかのようにやってくるのはな……。

「今みんなこっちに向かってるから、もうちょっとだけ待っててね」

「あぁ、わかった」
 みんなって、どれだけの人数がくるんだ?
 俺たちも俺たちで食料を用意したほうがいいかもしれないな。

「そうだ、君たちは結界の中に入ったほうがいいよね。アタシのところまできて」
 ノームがラーダたち獣人に結界内に入るように促すが、思っていたよりも近くだった。

「あれっ、ヴリトラは?」

「目の前にいるぞ」

「えっ?」
 ノームの少女は霞の言うことが理解できていないようだ。

「その白髪の女がヴリトラだよ」

「えーーーーー!? うそうそ?! ほんとーーーー!?」
 信じられないとばかりに、アスラの周りをブンブン飛び回っている。
 鬱陶しそうだな……。

「え、なんでなんで?? なんであのヴリトラが人族になったの??」

「……今のわらわは主様の忠実なる従魔じゃ。それ以上でも以下でもない」

「ふーん。天災のヴリトラがこんな美人さんだったなんてビックリだね!」
 アスラは素っ気なくノームに答えたな。それで納得したのか、ノームはアスラから離れたが、あれだけ興味深そうだったのにアッサリ離れたな。やはりいまいち掴みどころがないやつだ。

「みんながくるまでもうちょっとかかりそうだからさ、少しお話しようよ!」

「話って、何を話すんだ?」
 俺から聞きたいことは色々あるが、このノームからの話となると、全く想像ができない。


「キミは憑き物を操ってる人族に出会ったことある?」


 いきなりブッ込んできやがったな……。
 人族か。ダークエルフ族ならあるが、人族?

「いや、憑き物と同化していたようなダークエルフ族となら、戦ったことはある」
 カシウスのことだが、ノームが言っている人物には当てはまらないだろうな。

「あ、キミもそっちのやつには出会っていたんだね」

「キミも?」

「アタシも憑き物に同化させられた獣人族を見つけたけど、それをやった人族がいるみたいなんだよね」

「!」
 やはり黒幕が存在していたのか……それも人族。そうなると俺の予想は当たっていたのかもしれない。

「いや、なんで人族って知ってるんだ?」
 どこでその情報を手に入れたのか気になるな。

「憑き物と同化させられた獣人族の子がね、最期に教えてくれたんだよ」

「……そういうことか」
 今際の言葉ってやつか。値千金の言葉を残してくれたみたいだな。ご冥福をお祈りしておく。名も知らぬ獣人族。

「でさ、その顔は何か知ってるって顔だよね?」
 一瞬の表情の揺れを見られたか。ほんと見た目に反して可愛くないやつだ。

「……いや、知っている、というより予想なんだが、その人族は俺と同じ異世界人じゃないか?」

「あっ、そっかぁ。それなら憑き物を手なずけることもできるかな?」
 俺が霞やアスラ、アトラをテイムし、スキルで人の姿に進化させるという信じられない力を持っているんだから、同じように憑き物を手なずける、信じられない力を持った異世界人がいてもんら不思議ではない。

「それならその人族のクラスはテイマーかな? キミとは違うテイム方法で憑き物をテイムしたのかもね」

「俺と同じテイマーか……」

「最初はキミが憑き物を使って暴れさせてる人族だと思ったんだけど、どうやら違ったみたいだね」

「俺も憑き物に襲われた被害者だ」
 だからノームの最初の態度がああだったのか。
 誤解が解けたのならいいが、コイツは無邪気に笑顔でうっかりと、相手を殺しそうな危うさを感じる。
 あまり関わり合いになりたくないタイプだ。

「……」
 アトラもそれを感じているのか、俺の横にピッタリくっついたまま、無言でノームを見据えている。
 おそらく霞やアスラたち全員も同じ状態かもしれない。憑き物ゴブリンキングや憑き物地竜とは違った緊張感があるな……。

 はぁ、飯はまだか……。
 
 空を見上げると、濃い青色が広がり、星々が煌めき始め、日が暮れ始めている。

 星が綺麗だ。
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