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2章:運送テイマー(仮)

64話:チャラいシルフの男

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 中央付近にあるベンチで一休。

 色々周ってわかったのは、この村には貨幣制度や金を扱った経済的なものが無いことだ。

 狩りをする者、料理をする者、加工する者、耕す者……といった感じで、村人全員にそれぞれの役割が与えられ、全員が全員のために働いているようだ。

 子供たちも大人に仕事のやり方を教わり、小さいながらもしっかりと働いている。
 育児も家庭に縛られず、子持ちが集まって助け合っていた。
 ここは村一つが大きな家族みたいなもんだな。

 トップの村長が私腹を肥やしてるという感じもないし、あのシルフがそれを許すはずもないだろう。
 他種族が入り乱れている中でこのシステムが機能してるのは面白い。

 まぁ今は平時ではないし、シルフという、獣人たちからすれば絶対的な力を持つ者が上にいるんだ、争ったり悪事を働く余裕なんてないだろうし、今はまだ問題なさそうだが……。
 いつまでコレが平和に続くか気になるところだが、俺はいつまでもここにいるわけにはいかない。

 それから飯の時間になって呼ばれて、俺たちは端でひっそりと飯を頂いた。

 黒いパンに野菜と肉の入ったスープがメニューだ。

 スープは鶏ガラや野菜を煮込んで使ったものなのか、なかなか美味く、ジェニスも興味を持っていた。

 黒いパンは……硬いし美味いとは言い難いが、食えるだけでありがたい。

 そうして昼飯を終え、半分ほどの獣人たちとここで別れて、シルフの村から出発した。

 残り十三人の獣人たちを連れ、シルフの話していた南へと向かっている最中だ。
 空は曇ってきているな……雨が降らなければいいが。

「この先が話していたシルフの領域になります」
 ラーダのナビでやってきたが……暫く進んだところで景色が変化した。

「この辺りも酷い有様だな」
 霞の言う通り、木々は乱雑に倒れ、黒ずみになった物が目立つ。
 この先にシルフがいるらしいが、本当にいるのか……?

「本当にいるのかしらぁ?」
 アトラが怪訝そうにしているが、いるなこれ。少し進んだ先は何事もないように綺麗だ。
 見えない壁に守られているように被害を受けていない。ということは……。

「どうやらこの先は結界があるようだ。ベヒーモスたちはまたここで待機だな」

「ブモ」
 見えない壁の向こうには奇麗な草原が広がっている。
 人の気配は無さそうだが、村はないのか?

「エリザベスはまたベヒーモスたちを頼む。アスラ、進んでくれ」
 とりあえず進んで何があるかを確かめよう。
 
 見渡す限り広い草原だ。遠くでは動物が草を食べたり寛いでいる。
 平和なエリアだが、それはつまり……この平和を作り出している強者がいるってことだ。
 それがここにいるシルフなんだろう。

「なんだかおかしな場所だな」

「おかしな場所?」

「魔力が濃いというのか、辺り一面濃い魔力が飛び回っている」

「そうなのか。俺には全くわからん」
 霞はああ言っているが、俺には何が変わったのか全然分からない。
 濃い魔力が飛び回っているっていうのは気になるところだな……。

「主」

「あぁ……」
 霞の視線の先に、寝ている何かがいた。

 俺たちに気づいたのか、起き上がってこっちを見ている。

 それは空を飛んで近づいてきた。体つきからして男のシルフのようだ。

 肌が関西弁シルフと同じ黄緑色で、蒼い髪のロンゲ野郎だな。
 一目見て分かった。こいつはチャラ男だ。

「ふぅん、お前さんたちイイね。俺と遊ばないかい?」

「はぁ?」
 アトラの言葉には苛立ちが含まれている。
 剣呑な雰囲気だが、こういう場合の遊ぶは間違いなく戦闘――きたっ!!

 シルフの指先から丸い何かが発射された――が、霞が水の壁で防いだか。

 すかさずアルが風の魔法を放ったが、シルフの男はひらりとかわした。

 続けざまにアルが魔法を放つが、あたる気配はない。

「あのシルフ、動きが早いな」
 霞の言う通り、アルの攻撃を余裕でかわしてやがる。まるで遊ばれてるみたいだな。

「へぇ、お前さんたちやるねぇ! それじゃあこれはどうかな!?」
 シルフが両手を前に出して大きな縦向きの風の刃を発射したが、あの程度ならアルも容易にかわせるはずだ。

 一直線に飛んでくる風の刃をアルは横に飛んで避けた――が、

「……くっ!?」
 風の刃を確かに避けたはずだ、なんでアルが吹き飛ばされた!?

「厄介だな。風魔法は見えない空気を操ることもある。つまり刃は囮で、本命は見えない攻撃のほうだったということだ」

「マジかよ……」
 霞の解説で何が起きたのかを理解した。
 見えない攻撃なんて避けようがないだろ。どう攻略すればいいんだ……待てよ?

「見えない攻撃でも、それが魔法なら魔力を帯びてたりしないのか?」

「主は冴えているな。そうだ、魔力を感知していれば避けることも容易だ。アルもそれはわかっているだろう」

「……わかっていて避けられてないってのか?」

「そのようだ。あの一帯にシルフは魔力を漂わせている。その魔力は常に高速で動き続け、攻撃との区別ができていない」
 さっき霞が言っていた、濃い魔力が飛び回ってるというのはこういうことか……!
 
 アルが右に左に、上に下にと縦横無尽に飛ばされ続けている……。

「なんだお前さん、大したことないな!!」

「ぐうッッ……」
 クソッ、どうすればいい……?
 何の策もなく霞を向かわせても同じ目に遭うかもしれない。

 遠距離攻撃で援護させた場合、アルを盾にされる可能性がある。
 
 ……決戦スキルを使うべきか? いや、ここは使うべきタイミングではない。だが――

「そろそろか」
「いつまで遊んでるのかしらねぇ」

「は?」
 霞とアトラは何を言ってるんだ? そろそろ? 遊んでる?

「――遊びは終わらせてもらう!!」
 アルの言葉と共に、シルフの周囲に無数の剣が現れた……?
 
「へぇっ!」
 その無数の剣にシルフが襲われ、身動きが取れなくなっている。

 あれは……魔力で作った風の剣か?
 
 数えきれないほどの無数の風の剣に襲われているシルフは、身動きができないまま体を切り刻まれていく。

「散々好き放題してくれたな……今度はこちらの番だ!」

「ま、待った、降参、降参だ! そこのお前さん! 助けてくれ!!」
 シルフが降参を口にしながらこっちに助けを求めている?

「勝負ありだな。アル、そこまでにしてやれ」

「はっ!」
 霞が全てを理解しているような口ぶりだが……こうなることを見越していたのか?

 シルフの様子からも、まだまだ余力を残してるように見えるが、意外とアッサリと引いたな。
 やはり油断はできない相手だ。
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