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2章:運送テイマー(仮)

61話:シルフの村

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 シルフに案内されて、被害を免れた村にやってきた。

 森の中に切り開かれた土地で、ここは家が多い。
 ダークエルフの村よりも多いんじゃんないか?

 ダークエルフの村と違って、木の上よりも地面に家が多いな。

 いや、明らかに新しく建てられたばかりの家が結構目立つな。
 考えられる理由は、他の村の生存者をここで受け入れるために、今も増築中ってところか。
 現に作業しているやつらは種族がバラバラだ。もう既に受け入れてるようだな。

「ここがウチの治めてる村の一つや」
 シルフが胸を張ってああ言っているが、他にも治めてるという村があるのか。
 女神の眷属だしそういう話は既に霞から聞いていたが、このシルフが複数の村を治めてるってのは、なかなか受け入れがたい事実だ。
 
 見た目や言動に騙されそうになるが、こんなナリをしていても女神の眷属ってことだな。心の中で敬っておこう。

「うおー、初めて他の村にきたぜ……」
 ジェニスはキョロキョロと周囲を見渡して感動しているようだ。
 料理関連で他の村に行ってそうだったが、こうやって別の村にくるのは初めてか。
 良い刺激になるといいな。

「ほう、既に難民を受け入れてるのか」
 霞も感心したように作業中の獣人たちを見ている。

 人間がコスプレしたような姿から、動物が二足歩行で歩いているような姿、その中間……更に他種族だ。これらを纏めるのはかなり大変そうだ。

「なんとか生き残りを見つけてなぁ……ここまで連れてくるのに苦労したわ」
 アスラのような大勢を運べる移動手段があればいいが、この森で徒歩での移動は大変だったろうな。

「生き残りを見つけても、ここまで連れてくるのは大変だっただろう」
 霞は腕を組みながら難民たちを見ている。
 いくらシルフでも、あの森の中で難民を守りながら進むのは骨が折れただろうな……。

「ホンマなんなんそのヴリトラ! ずるいやん! 大きいしいっぱい乗れるし移動早いし!」

「私たちの誇るべき仲間だ。どうだ、羨ましいだろう?」
 霞がシルフに勝ち誇ったように振舞っている。
 霞がいつもより生き生きしているように見えるな。良い息抜きになっていればいいが。

「あぁ、そろそろアスラの上に乗ってる獣人たちを降ろしてやってもいいか? もしかしたら家族がいるかもしれないし、探させてやりたい」

「おぉ、せやな。かまへんで」

「アスラ」
 許可を得たことで、アスラに降りやすくなるよう、体を壇上にさせる。

「せや、色々聞きたいこともあるし、今日はここでゆっくりしていくとええで」

「お言葉に甘えさせてもらうか……あ、外にレックスたちを置いてきてるな」

「それならウチが話しておくから任せとき。飯とかも用意しとくから大丈夫やで」

「……えらく気前がいいな?」

「そらもうじーーーーーーーーーーっくり、話を聞かせてもらいたいからなぁ?」
 シルフの顔が悪役染みてるんだが、一体何を聞くつもりなんだ……。

「お母さん!」
「ミュイ!」
 声のしたほうを見ると、どうたら連れてきた獣人たちの一部は、無事に家族と再開できたようだ。

 泣いていた狐人族の女も家族に会えたようだな。
 ちょっとした仕事の達成感のようなものを感じる。

 そして、やはりあるべき場所に帰るのが一番良い。
 帰りたいという気持ちは、俺が一番よく理解しているつもりだからな、他の獣人たちも可能な限り元の居場所に帰してやる。

「……ウチの縄張りのモンはみんな保護したから、ここにいないならもう……」
 悲しそうにシルフが口にしているが――

「万が一生きていれば、他の場所に避難してるかもしれないだろ」

「……それもそうやな」
 霞の言うことも一理ある。
 なんにせよ、なんであれ、俺のやるべきことは順調に進んでいる。
 獣人たちを帰還させるほかに、俺が元の世界に帰るための情報収集も忘れずに行っていこう。

「子供ねぇ……」

「どうしたアトラ」

「ねぇキョータロー」

「いや、無理だ」

「ちょっとぉ、まだ何も言ってないじゃなぁい」

「子供が欲しいとか言うつもりだったんじゃないか?」

「あらぁ、私の言いたいことを理解してくれていたのねぇ。それじゃあ話は早いわぁ」

「だから無理だっての。そんな暇も余裕も何も無い。俺は――」
 元の世界に帰る。これを今アトラに言っていいものなのか。
 アトラの今までの言動から、最悪俺を元の世界に帰さないようにする可能性がある。
 余計なことは言わない方がいいだろう。口は災いの元だ。

「アトラ殿、あとは私たちだけだぞ。主、先に降りてるぞ」
 霞のナイスアシストでなんとか会話と雰囲気は断ち切れた、と思う。

「ま、そういうことだ。行こう」

「んもぉ」
 アトラは不満そうにしているが……正直申し訳ないと思ってる。

 俺と出会わなければ、俺にテイムされなければ、そんな感情を抱くこともなかっただろうに、俺と出会ったばかりに、こんな不自由をさせてしまっている。

 アトラの番の蜘蛛もなかなか見つからないし、見つかっても処理されそうな気がするんだよなぁ……本当に困ったな。

 とりあえずこの問題も先送りにしてしまおう。未来の俺に任せる。



 ▽   ▽   ▽



 シルフに案内され、この村の村長の家の前までやってきた。
 
 移動中に辺りを見渡したが、本当に他種族が多い場所だった。
 あの焼け野原を見たときから思っていたが、やはりかなりの規模で憑き物が暴れていたようだ。
 
 痛ましい出来事……と感傷に浸るにはまだ早いか。もしかしたら倒されずに徘徊している憑き物も、まだ近くにいるかもしれない。

「あれ? ヴリトラどこいった?」

「ここにおるじゃろ」

「誰やお前」

「アスラじゃ」

「ヴリトラどこ行ったんや?」

「目の前におるであろう?」

「は?」
 いつの間にか変化していたアスラだったが、シルフは理解できていない。埒があかなさそうだし、ここは話しておくか。

「シルフも頭が悪いな」

「なんやて!?」
 俺が言う前に霞が前に出た。任せるか。

「お前の目の前にいるアスラがヴリトラだぞ」

「…………は?
 シルフが霞とアスラの顔を何度も見て、お前何言ってんだ? というような顔をしている。
 
「は???」
 シルフの首が九十度傾いてる。精霊だから首の骨は折れないのか?

「アスラは主との従魔の繋がりによって、人の姿に変化できるようになったのだ」

「…………うそやろ?」
 シルフが俺のを顔を信じられないといった感じで見てくる。
 霞はスキルのことを伏せるように話したし、スキルについては俺も伏せておくか。

「……まぁ、本当だよ」

「マジか~……はぁーー……」
 俺から視線を外したシルフは、アスラを見て大きなため息をついている。

 天災のヴリトラの脅威を知っている者からすれば、この変化は受け入れがたいんだろう。この先も似たようなことが起こりそうだな……。

「あー……わかったわかった。それじゃ中に入って色々詳しく聞かせてもらうで」
 シルフが家の扉を開け、俺たちは中へと入っていく。
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