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2章:運送テイマー(仮)

59話:世界の在り方

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 獣人たちをまとめている女獣人、山羊人族のラーダの案内に従い森を移動中だが……暇だな。
 何か話でもして暇を潰すか……情報は多いに越したことはない。

「なぁ、ラーダはどうしてゴブリンに捕まったんだ? 嫌なことを思い出させてしまうかもしれないから、話したくなければ話さなくてもいい」
 嫌なことを思い出させてしまうかもしれないし、無理に聞くことはできないが、話してくれるなら聞いておきたい。

 この森の恐ろしさは身に染みているつもりだ。だからそんな森で暮らす獣人たちが弱いはずがない。いくら普通よりも強いといっても、ここに住んでる獣人なら難なく対処できそうなんだがな。
 
 故に、何故ゴブリン程度に捕まってしまったのかが気がかりになっていた。
 数に押されて負けたか、あるいは……まさかあのゴブリンキングが直々に出てきたのか?
 あのゴブリンキングが表に出てくるとは考えにくいが、出てこないという理由もないか。

「……仲間と狩りに出ていたところを不意を突かれ、ゴブリンたちを倒し切れず、数で負けてしまいました」

「そうか……」
 一緒にいたはずの仲間がここにいないということは、そういうことだ。
 やはりゴブリンとはいえこの森の魔物か。それに数が加われば手が付けられないのも仕方ない。

「キョータロー様には感謝しています。仲間の仇を討ってもらい、こうして私たちを助けてくれましたから」

「……」
 ラーダは無理して笑顔を作っているように見えた。
 本当は吐き出したいことがあるが、俺たちの前でそんなことは言えない、そういう苦しみのようなものを感じる。
 
 ……話を変えよう。

「あー……ラーダたちの村はどんな場所なんだ?」

「はい、ほとんどダークエルフ族の村と同じような感じですよ」

「そうなのか」

「自分たちで家を建てて、畑を耕して作物を作り、狩りや採取でも糧を得る、この森ではみんなそうやって生きていると思います」
 まぁそうだよな。ダークエルフたちを見ると、あまり他の種族とは交流しているようには見えなかった。

 ……あぁ、同種族との交流ならよくあるのか? 最初に族長と会ったときに見かけたあの二人、あの以降から村で見かけていなかったしな。となると、他の村の族長という可能性がある。

 あまり交流が無さそうなのに、族長から貰ったあの紹介状。それが他の村でも通用するって言ってたが、あの族長はどんだけ凄い人物なんだ?
 いや、交流が無さそうというのは俺の偏見だな。考えを改めよう。

 そういえば、醤油に近い調味料の素はエルフ豆だったな。少なくともエルフとの交流はあると見るべきだったか。

「村同士の交流とかはないのか?」

「種族によって得意不得意なことがありますから、それを補うために交流して、物々交換をしたりすることはあります。特に私たちは色んな村と交流していましたので、顔見知りも多いです」

「危険なこの森で移動するって大変だろ」

「はい。私を含め、村の戦士たちを護衛につけて、なんとか移動できるくらいですね」
 仲間にした魔物たちを思い返しても、この森は危険過ぎる場所だ。
 そんな場所で他所との交流のために移動するのは、自殺行為に近い気がする。

 しかしそうしないと生きていけない環境を考えると、やるせないな……。

「そもそもなんだが、どうしてこんな危険な森で生活してるんだ?」
 確かこの森はワールドエンドと呼ばれる、大陸の一番西に位置する危険な森らしい。
 なんでわざわざこんな危険な場所で生活してるんだ?

 それ以上に外が危険なのか、あるいは人族に追いやられたのか……。

「祖父の祖父たちが話していたことらしいのですが、元々あった私たちの国を人族に奪われて、この森に逃げ延びて生きながらえてるらしいです……」

「……やっぱ人ってクソだな」
 やはり追いやられたほうだったか。しかし国を奪われてここにいるってことはだ、他の種族も同じようにやられた可能性がある。
 
 ダークエルフ以外に、ラーダの山羊人族、他の獣人族の姿もあることから、亜人たちの多くの国がやられたんじゃないか?

 で、その生き残りがこの森に住んでるようだが……あの族長のいるダークエルフの村でもあまり多くない住人数だった。
 
 下手したら、一部の亜人は絶滅危惧種かもしれないんじゃないか……?

 とはいえ、それがこの世界の摂理なら、この世界の住人ではない俺が出張るのはお門違いだろうな。

 それはこの世界の問題であって、純然たる流れだ。その歴史の流れが間違っているのか正しいのか、俺には分からない。
 
 感情だけで言えば、まぁ間違っているだろうな。だが、それは俺が異世界の価値観や考えを持っているからそう思えるだけで、この世界の人間からすれば、亜人たちの国を滅ぼし……いや待てよ?

 もしかしたらまだ無事な亜人の国があるんじゃないか?

 もしその国があって、亜人を保護し、人間と敵対しているなら、この森で住んでいる亜人たちの新たな居場所と成り得るんじゃないか?

 ……いや、それは理想を見過ぎか。人間と敵対しているのであれば、間違いなく戦争状態にあるはずだ。そこに難民を受け入れる余裕もないだろうな。無理に行ってもロクな目にしか遭わないだろうしな。
 
 そんな場所にラーダやジェニスたちを出すのか?

 ……ダメだな。それならまだこの森にいたほうがマシだ。

「では主よ、今度は私たちが人族の国を奪うのはどうだ?」

「はっ?」
 少し考える素振りをしてから放った霞の言葉は、実に物騒なもんだ。何考えてんだ。ラーダがドン引きしてるだろ。

「この戦力なら、アスラが出るだけで国一つ落とせると思うぞ?」

「いやいや、もし異世界から召喚された勇者とかいたら、またアスラがやられるかもしれないだろ。そんなリスクがあるのに行かせられるわけないだろ」
 過去にアスラは、異世界から召喚された勇者に子を殺され、アスラ自身も神気と正気を失うほどの重傷を負わされた過去がある。それを繰り返してなるものかよ。

「フン、アスラ一人ならともかく、今は私やアトラ殿、ベヒーモスや地竜もいて、主がいるのだ。勇者が何人現れようが負ける道理はないぞ」
 霞の自信満々な態度は理解できなくもない。これだけの戦力を揃えていれば、この世界に生きる住人ならそう思うのも無理はないだろう。だが――

「だがな、異世界から現れた勇者ってのは、この世界の理から外れたような非常識な力を持っていると考えろ。目の前にいる俺がそうだろ? つまり俺以上の存在がいる、あるいはこれから出てくると考えるべきだ。現にあの国が勇者召喚を繰り返して、召喚した人間を捨てているんだからな。俺みたいに生き残っているやつがいる可能性もある」
 俺がこうして生き残っているということは、同じように生き残っているやつがいてもおかしくない。

 そしてそいつも俺と同様に常識外のスキルを持っていると考えるべきだ。

 俺たちが何かをすればそいつと敵対する可能性がある。

 そいつがもし俺よりも上の存在だったら?

 俺の従魔たちは全滅させられるだろうな。

 そんなことは断じて許さないが。俺が許さなくても現実は非情に進んでいく。

「キョータローは心配性ねぇ。勇者だって絶対の存在ではないでしょう? 何をそんなに恐れているのぉ?」
 アトラが腕に抱きついたまま、上目遣いで心配そうに覘いてきた。

「アトラ、そういう存在は得てして、絶対の存在だったりするんだよ」

「私たちじゃ絶対に勝てないとでも言うつもりぃ?」

「そうだな」

「……」
 それまで余裕の笑みを浮かべていたアトラから笑みが消えた。

「そういう存在を俺は、主人公と呼んでいる」

「キョータローがそこまで言う存在ねぇ。一体どれだけ強いのかしらねぇ……」
 上目遣いから打って変わって、アトラは好戦的な目に変わっていた。
 どれだけ戦いたいんだ……俺としてはそんな存在と戦わせたくない。

 主人公。物語の中で絶対の存在であり、ほぼ死ぬことがない運命づけられた存在。

 俺は自分が主人公だなんて思ってはいない。だから油断すれば簡単に死ぬだろう。

 だが主人公は不思議な力が働いて、役目を終えるまでは決して死なない。

 そんな面倒な存在とやりあうつもりなんて毛頭ないが、こっちがなくてもあっちからやってくる可能性も否定できないのが現状だ。

 現にウンディーネや、天災のヴリトラを従魔にしている俺だ。人族からすれば脅威かもしれない。

 俺を制圧して使役するために、国が勇者を放ってくる可能性もある。

「主よ、不測の事態に備えるのは大事だが、考えすぎてもダメだと思うぞ」
 霞が気を緩めてそう口にした。
 確かに考えすぎてもドツボにはまる場合もある。

 ありもしない幻想に怯え続けるのも、心がすり減っていずれ自滅しそうだな。

「……霞たちがいてくれてよかったよ」

「主もようやく私の良さを認めてくれたか?」
 そう言って霞はヘッドロックをかけてきた。

「そう思うなら放してくれ……」

「ちょっとぉ……?」
「おっと」
 アトラが睨むと霞は飄々と技を解いた。

「あ、そろそろ狐人族の集落に着きます」

「分かった」
 ラーダの案内で頭を切り替える。
 今は獣人族たちを家に帰すことが優先事項だ。

 狐人族の集落か……あまり被害を受けていないといいが……。
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