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2章:運送テイマー(仮)
55話:ダークエルフをテイム
しおりを挟むテイムできたブラウンゴート二匹には、メルルとモルダという名前を付けた。
雌がメルルで雄がモルダだ。雄もモルルにしようと思ったが、人化して成長したとき、イカツイ見た目でモルルという名前はな……。
二匹は結界を通れないので、ベヒーモス、レックスと一緒にお留守番だ。
ベヒーモスとレックスを見た瞬間、慌ててアルの後ろに隠れたのは面白かったが、早く慣れるといいが……。
そして今、素材を渡しに行っていたアスラと合流して、怪我人が収容されている建物までやってきている。
相変わらず痛ましい惨状だ。
「あの、キョータロー様……」
全員の意見を聞いてきてくれと頼んだダークエルフの女が戻ってきた。
果たして何人が良しとするかだな……。
「結果はどうだった?」
「……全員、受け入れるとのことです」
「そうか……」
霞に問いに、ダークエルフの女は全員が受け入れると答えた。
全員受け入れるのか。一人くらいは反対するやつがいると思ったが、取り返しのつかない大怪我が完治するなら……俺も受け入れてるだろうな。
別にダークエルフを悪く言うつもりじゃないが、これが誇り高い種族とかだったら、死を選ばれていたかもしれない。
「よし」
なんにせよ、全員受け入れると決めたんだ。それならやることは決まっている。
「まずは……そうだな、そこのアンタ、食ってみてくれるか?」
怪我人の中でも比較的元気そうなやつを選んで、用意していた物を試しに食べさせてみる。
頭に包帯のような布を巻き、あちこちに擦り傷を負っている状態だな。
見た目からして俺よりも年上に見える。人間的に見るなら三十後半か四十手前くらいか。
「……分かりました」
ダークエルフの男は真剣な表情で頷いてくれたようだ。
これは人体実験だ。何が起きてもおかしくない。その説明は既にしている。
テーブルの上に置かれている木皿を手に取り、ダークエルフの男に手渡す。
肉の方は、流石に味付け無しでは食べるのも辛いだろうから、とりあえず塩だけだが味付けはしてある。
本当に上質な肉は、塩で食べるのが良いらしいが、そもそも良い肉と言う物を元の世界で食ったことがないから、真偽のほどは分からない。
「…………」
無言の間が続いたが、やはり従魔化してしまうというのは躊躇うか。
事が事だけに早くしろなんて言葉は――
「ちょっとぉ、早く食べなさいよぉ」
「……」
早くしろなんて責めるようなことは言えない、と思っていた矢先に、アトラが威圧するように催促してしまった。
「アトラ、あまり焦らせるようなことは言わないでくれ。アンタも焦らなくていいから」
「……はい。いえ、いきます」
覚悟を決めたダークエルフの男が木のフォークで恐る恐る肉を刺す。
木のフォークでもすんなりと刺せた肉からは、僅かに肉汁が溢れだして、それだけでも食欲をそそられるな。
その場の全員が注目する中、ダークエルフの男がサイコロ状の肉を口に運び、一回、二回と咀嚼を始めた。
どうだ……? いけるか……?
咀嚼を終えた男は肉を飲み込み――
「うっ……」
「う?」
ダメだったのか? ダークエルフの男の体が震えている、マズイな、何か良くない症状が体に出てきたか?
「美味いッッッッ!!!!」
「……は?」
なんだ……ガツガツと肉食ってるし、美味くて感動してたってことか……お約束過ぎるリアクションだろ。
「そんなに美味いなら、やはりあとで私にも作ってもらおうか」
霞はどんだけ食べたいんだよ……。
そうこうしている内にダークエルフの男が全ての肉を食べ終えたようだ。
そして体が緑色に発光し、みるみる傷が治っていく。効果アリだな。
「おぉ……怪我が治った……」
「体に変なところとかないか? 気分が悪くなったりしてないか?」
これで俺は、このダークエルフの男をテイムした状態になったわけだ。
霞やアスラたちを見ている限りでは、洗脳やそういった類の症状は出ていないようだが、人である種族にテイムミートを食わせたんだ。どんな異常が出てもおかしくない。
「いえ、特に異常は感じられません。いつも通りです。いや、いつも以上に体に力の漲りを感じます。ただ――」
特に異常も無いようだが、漲っているのか。まぁこれなら全員に食わせても問題なさそうだが、時間経過で何かが起こる可能性もある。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホォッ……!」
「しっかりして!」
「だ、だいじょうぶ……」
咳き込んでいた一人が吐血した……!
他の症状が重そうな奴らもいつどうなるかわからない。待っている時間はないってことだ。
「よし、手の空いている奴は肉を配ってくれ。一人で食えない奴には手を貸してやってくれ」
手の空いている全員が顔を合わせ頷き合った。これでとりあえずは大丈夫だろう。
……このまま見てるのもな俺たちも手伝うか。
「霞、アスラ、お前たちも手伝ってくれ」
「了解した」
「うむ」
この決断が正しいのか間違っているのか、考えるのはやめだ。
俺の能力で誰かを助けられるなら助ける。
責任は……取れるだけ取る。
「ふぅー…………」
先々の事を考えると頭が痛くなってくるが、今はとにかく、この場にいる全員を回復させることに集中だ。
そういえばさっき、ダークエルフの男が何か言いかけていた気がするが……あとで聞いておこう。
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