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2章:運送テイマー(仮)
49話:難しい年頃の女の子
しおりを挟む朝飯にジェニスの作り置きしてくれていた肉料理を食べたが、柑橘系のサッパリした味付けだったからか、楽に食えたのが良かったな。欲を言えば白米が欲しいが、我儘は言えまい。
ジェニス……ゴブリンに捕まっていたところを救出して以来、俺にやたら懐くようになってしまった。料理について話したのが原因だな。
ダークエルフのジェニスは料理が得意で、元の世界の洗練された料理に慣れた俺でも、この世界で美味いと思える料理を作れる腕前だ。
今では村を出て、知らない料理を教えてやれるかもしれないと言ってしまった俺の拠点で、無防備に寝泊まりするほど、料理に対する情熱は強い。
ジェニスの父親に会ったが、婿としてロックオンされてしまっている。ジェニス自身はまだ俺よりも料理のほうが興味が強い。そのあいだになんとかしないとな……。
食事や身支度を済ませ、ダークエルフの村の様子を見に行こうと思ったんだが……。
「そういえばお前の名前をまだ決めていなかったか……」
赤い地竜――その見た目は古代に存在した恐竜、ティラノサウルスによく似ている。
その姿を見た瞬間から、コイツにつける名前は決まっていた。
「お前は今日からレックスだ」
レックスが軽く頷いたってことは、名前を受け入れてくれたようだ。
ティーレックスというところから持ってきた、なんの捻りのない名前かもしれないが、レックスが人型に進化したとき、結構似合う名前になるんじゃないかと思っている。先を見越した名付けってやつだな。
レックスに乗って移動……と考えていたが、乗るのが大変だし、鞍もないから乗りづらいだろうな……。
そもそも結界のあるこの先や、街には入れない。
「どうしたもんか」
「ブモォ」
移動手段について悩んでいると、後ろからベヒーモスがやってきた。
大きいな……普通のトラックくらいの大きさじゃないか?
流石に大きすぎてベヒーモスは家の中には入れなかった。
だるんとしていたあの体は筋肉質の塊のように引き締まり、ムキムキの体に変化している。
頭から二本の角とか生えてるし、まんまアレのベヒーモスに酷似してるんだよなぁ……。
俺の記憶に引っ張られてしまったのか?
「主様よ、どうしたかえ?」
アスラが帰ってきたか。
アスラが地竜と戦ったときは、薙刀を振るって倒したらしいが、今は持っていないようだ。魔力で作り出した武器かなんかだろう。
「いや、ダークエルフの村までの移動手段をどうするか考えてたんだ」
従魔は結界を通れないからな……歩いていくしかないか。
「それならいつも通りわらわに乗ればいいであろう?」
「蛇姿ならそれで良かったんだがな」
今のアスラは人間の女性の姿をしている。
その背中に乗るのは流石にな……。
「ふむ……待っておるがよい」
「ん?!」
アスラが何か言った瞬間、アスラの体が光だしたんだが、何をするつもりだ……?
「ほれ、これなら今まで通り乗れるだろう?」
光が収まったと思ったら、アスラが大蛇の姿に戻ったんだが?
蛇姿のままでも喋れるのも驚きだ。どうやって声出してるんだ?
「……進化したのに、戻れたのか?」
「わらわは進化ではなく変化じゃ。言ったじゃろう。自由に姿を変えることができるぞ」
へんげ……なるほどな、そういうことか。
蛇は神の御使いとしても有名な話だ。そこから考えると、あれだけの立派な白い大蛇が人の姿に変化しても、特におかしくはないかもしれないな。
今まで変化できなかった理由は分からないが、変化できるようになったのは俺のスキルの影響だろう。
なんにせよ、移動に困らないならそれでいい。
「そうか、助かる。これからも大移動するときは乗らせてもらいたいんだが、いいか?」
意思疎通が難しかった魔物姿のときならともかく、こうして言葉が交わせるならしっかり相手の意思を聞いておきたい。
「わらわは主様の従魔じゃ。主様がそれを望むならわらわは拒む理由もないぞえ」
……まぁそうなるよな。従魔である魔物が、主人の命令に背くなんてできないか。
個人の意思を尊重したいが、この様子じゃそれも難しそうだ。
「それに神聖の性質を得たわらわなら、結界の中にも入ることができるからの。これからどんどんわらわを使うとよいぞ」
「それは凄いな。それじゃあダークエルフの村まで頼む」
結界の中でも動ける従魔というのは貴重なんじゃないか?
これはかなり移動が楽になりそうだ。
「うむ、頼まれよう」
俺が乗りやすいように、尻尾で段差を作ってくれてる嬉しい気遣いだ。
上に登って座りやすい場所を確認して、よし――と思ったら、玄関に前に立っていたアトラが凄い目つきでこっちを睨んでる。
「ちょっとぉ……?」
今まで俺を乗せて運ぶ役割はアトラだったしな……その役割をアスラに取られたのが面白くないんだろ。
何かしらフォローをしないと機嫌を損ねそうだな……。
そうなると結界以外での移動はアトラに頼むのが良さそうだ。
あまり関係を悪くするのは俺の望むところではない。
アトラとアスラの関係が悪くなるのもダメだ。
みんな仲良く良好な関係を気づいていけるようにするのも、テイマーである俺の仕事かもしれない。
「……そうだ、アトラも一緒に行くか?」
何が契機になったのかわからないが、アトラも結界を通れるようになっていた。
進化して上半身が人の姿になり、言葉を話すようになったからか?
「行くわぁ!」
アトラが蜘蛛の脚力を活かして飛びかかってきたが、まるでハエトリクモみたいな動きだな……。
「おっと」
「んふふふ」
アスラの上まで飛んできたアトラは、俺に抱き着いたまま離れない。
ペットにじゃれつかれてると思えば可愛いもんだが、アラクネのアトラはペットなんて生易しいものじゃない。
「もうよいか?」
「あ、あぁ、出発してくれ……それじゃあ行ってくる!」
「ブモォ」
「グォン」
未だ結界に入れないベヒーモスとレックスに見送られて、俺とアスラはダークエルフの村へと出発した。
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