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1章 棄てられたテイマー

33話:ジェニスのスキル

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 俺たちを歓迎する宴が開かれたようだが、俺たちに関係なくダークエルフたちが騒いでいるんだが……まぁこんなもんだろ。俺もそっちのほうが気が楽で良い。
 異世界には娯楽が少ないイメージだから、こういう酒飲んで騒ぐのは、数少ない娯楽なんだろうな。
 
 霞は隣でダークエルフたちに貢物を捧げられているが、ここはツインテウンディーネの管轄だろ。いいのかあれ。

「大将、オレの考えた肉団子のたれかけ、良かったら食ってくれよ!」
 ジェニスが料理を持ってきたが……丸めた肉団子を焼いて、その上に粘り気のあるタレがかけられている?
 
 これはもしかしてあんかけか? あんかけに必要な材料は、片栗粉、醤油、砂糖、酢、水だったと思うが、酒から取れる酢はともかく、片栗粉や醤油、貴重そうな砂糖はどこで確保したんだ?
 いや、向こうとこっちの世界のレシピは違うかもしれない。そもそもなんでジェニスがこんな凄い料理を作れるのかも気になる。聞いてみるか……。

「凄いな。これ、本当にジェニスが作ったのか?」

「ああ、オレが作ったんだぜ! 美味いから食ってみてくれよ!」
 木の皿ごと受け取り、添えられている木のフォークで肉を切り崩してみると、しっかり中まで火が通されている。焼き加減は問題なさそうだ。
 
 表面の見た目は、焦げ茶色の肉団子の表面と、そこにかけられている茶色いあんだ。

 俺の脳内でイメージしている甘いあんの味と一致するか不安だが、とにかく食べてみないことには分からない。
 切り崩した部分をフォークで刺して、恐る恐る口に運ぶ……。

 ――これはッ?!

「……ん、美味いなコレ」

「おぉ! 大将の口にあって良かったぜ!」
 肉のほのかな甘みと溢れんばかりの肉汁、更に甘いあんが混ざり合って最良の味を生み出している。

 表面の焼き具合から少し焦げた味を想像していたが、そんなことはなかった。
 まさか異世界でこんな美味い物が食えるとはな……。いや、ジェニスが凄いのか?

 前の焼いた肉もそうだが、ジェニスは料理が上手い。これは間違いないだろう。
 だが上手いだけでは説明がつかない。

「色々聞きたいことがあるんだが、まずそうだな、このあん……いや、タレは何を使ってるんだ?」

「よくぞ聞いてくれたぜ大将! それはだな、水、酢、ハチミツ、エルフソースだぜ!」

「…………エルフソース?」
 砂糖の代わりにハチミツを使ったであろうことはなんとなく想像していた。だが醤油の代わりに、エルフソース……?

「エルフソースってのは、エルフたちが作った豆を使って作った黒いソースだぜ。作り方を聞いてオレも作ってみたんだ」

「なるほどな……」
 エルフたちの作った豆というのが、おそらく大豆みたいな物なんだろう。
 ということは、味噌もありそうだな。確か醤油は味噌を作る過程で生まれるはずだ。
 どういう過程で生み出されたのかが気になるが……。

 だがそれよりも、どうしてジェニスはそれらを組み合わせて料理を作ろうと思ったのか、そこが一番気になるところだ。

「……ジェニスはどうしてこの料理を作ろうと思ったんだ?」
 聞き方に注意しないと、ジェニスに失礼だったり傷つけてしまいそうだな。

「それはな、スキルのおかげなんだぜ!」

「スキル?」

「キョータロー殿、ジェニスにはクッキングシェフというスキルが備わっているのだ」
 横から族長がとんでもないことを教えてくれたな……。
 クッキングシェフというスキルか。その名前から、料理ならなんでも作れそうなスキルだな。

「スキルのおかげで、料理に使える食材の判別ができたり、加工方法もわかるから、あとはそこから試行錯誤して料理を作ってるぜ」

「そりゃあ便利なスキルだな」

「でもそこまで便利ってわけでもないないんだよ」

「どうしてだ?」

「なんて説明したらいいんだろうな、食材と食材を近づけると光ったり光らなかったりするんだけど、その光ってる組み合わせを使って、美味く食えるようにするまで大変なんだぜ……」
「なるほどな……」

「でも成功したときが最高だからな! 楽しいから作り続けてるぜ!」
 料理として適している、使える食材の判別はできるが、それを美味しく料理するのは本人の腕が問われているのか。
 便利そうに聞こえるスキルだが、そこまで甘くはないようだな。

 だがそれでも、ここまでの料理を仕上げたジェニスの腕は確かだろう。ここまで作るのにどれだけの苦労をしたのやら。
 
 探求心や向上心が高いようだし、本人も楽しめているなら、天職なのかもしれないな。

「どれ、私も貰おうか」
 崇められていた霞が戻ってきて肉団子を手掴みで食べた。

「……ほう、これはいいな。気に入ったぞ」

「おお、霞様にも気に入ってもらえて光栄です!」
 手掴みで食べるから手にあんが付いているが、霞はそれを舐めてとっていく。
 フォークを使えば汚れることもないだろうに。

「料理か……俺も少しは心得があるから、もしかしたら何か教えることができるかもしれないな」

「本当かッ!?」
 ジェニスが物凄い勢いで寄ってきたな……顔が近いぞ。

「あ、あぁ。もしかしたら既にジェニスが知っている物しかないかもしれないが、暇なときにでもこっちにくれば、何か話してやれると思うぞ」

「わかった!!」
 そう言ってジェニスは走ってどこかに消えていってしまった……早まったかもしれないな。

 それにしてもジェニスにクッキングシェフなんていうスキルがあったとはな。道理で料理が美味い訳だ。

 ……いや待てよ、もしかしてダークエルフの村に、スキルを調べるアイテムがあるんじゃないか?

「……族長、もしかして村にスキルを調べる道具があったりしませんか?」

「うむ。スキルオーブなら我が家にあるぞ」
 やはりか! これで俺のスキルを調べさせれば、どんなスキルがあるのか判明できるぞ!

「でしたら、俺のスキルを調べてもらいたいのですが、良いですか?」

「ああ、構わない。では明日、再び我が家に来てもらおうか」

「わかりました」
 よし、約束は取り付けた。あとは明日になるのを待つだけだ。
 この約束を取り付けられただけでも、この宴に参加した甲斐はあったな。
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