上 下
13 / 74
1章 棄てられたテイマー

13話 探索・ゴブリンの巣

しおりを挟む



 アトラに騎乗しているおかげで、俺が足手まといにならずに、サクサク進行できているのは助かる。

 進行中、ゴブリンの他にもキノコ型、ネズミ型、虫型……色々な魔物と遭遇しているが、本当に俺は運が良かったんだな。
 他にも色んな魔物が数多くいるが、そのどれとも、アトラと出会う前に遭遇していなかったからだ。

 霞が、ここで人間が生きていることが面白いと言っていた理由が、改めてよく理解できた。
 フル装備の冒険者でも、一人なら危かなり険な場所だろうなここは……。

 だが、そんな危険な魔物たちをアルとエリザベスが瞬殺するから、苦戦の一つもない。

 多数に急襲されても範囲魔法やスキルで一網打尽だ。

 魔法やスキルが飛んできても、アトラや霞、ベヒーモスの魔法で相殺されるので、飛び道具でやられることもない。

 まさかベヒーモスが土属性の魔法を使って、土壁を作って攻撃を防ぐとは思わなかった。
 これだけの防御力があれば、そうそうやられることはなさそうだが……。
 
 戦場で無防備に体を晒しているというのは、かなり心臓に悪い。ワンミスで死にかねないからな……。
 アトラたちを信用していないわけではない。しかし物事に絶対はないと思っているからだ。
 どこかで運悪くアタリを引いてしまうことは十分有り得る。宝くじを当てた俺なら、そういう極僅かな可能性を引き当ててしまう可能性は高い……。

 ともかくだ。無事に目的地までたどり着けることを祈ろう。



 ▽   ▽   ▽



 ――俺の心配とは裏腹に、無事に目的地に到着、したようだ。
 
 切り立った崖の中に大きな洞窟がある。やはりゴブリンの巣といえば洞窟が定番か?

 ん? もしかしてこの崖って、霞たちと出会った場所と繋がっていたりするのか?
 今はそれを確認してる暇も無いし、それよりも先にゴブリン討伐だ。

「にしても、結構デカイな……」
 幅も高さも普通の洞窟の大きさじゃないな。高さも十メートル以上あるんじゃないか?
 飛行生物のエリザベスとアルが入っても問題なさそうなくらいだ。

「この規模の洞窟なら大量のゴブリンがいるかもしれないな」

「霞はなんでそんなにワクワクしてるんだよ……」
 ノーマルゴブリン以上の存在は間違いなくいると考えるべきだろう。
 メジャーなところだと、体の大きなホブゴブリンや、魔法を扱うゴブリンメイジ、狼に乗ったゴブリンライダーなんてのもいたな。
 
 規模によっては、ゴブリンキングやゴブリンロードなんてのもいるかもしれない。
 ここにくるまではノーマルゴブリンとしか遭遇しなかったが……気を引き締めていくぞ。

「主、どうする?」

「陣形はベヒーモスを前衛にして進むか。アルは俺の上を頼む」

「ブモ」

「クエッ」
 アルが上に飛んでも余裕があるほど広い洞窟だからな、上からの急襲にも警戒だ。
 前方からの攻撃は、一番装甲の厚いベヒーモスで受けて様子を見るのが無難か。
 霞曰く、ベヒーモスなら滅多なことじゃ装甲を貫かれないらしい。

「アトラ、文字通り俺はお荷物だ。すまないがお守りを頼む」
「キキ!」
 いくらアトラたちが魔物を倒しても、俺にはエクスペリメンタルエネルギーもとい経験値が入らない。
 少しでも入っていれば――……入っていればどうなったんだ? レベルアップでもするのか?
 
 ……気になるところだが、今は捕まったダークエルフを救出するのが先決だ。
 
「それじゃ行くぞ!」



 ▽   ▽   ▽



 やはり――というか多すぎだろ。洞窟内の崖上から、ゴブリンたちが投石攻撃をしかけてきやがる。
 
 今のところ全部アルが風魔法で防いで迎撃しているが、それにしても数が多い。そして臭い。
 糞尿や何かが腐ったような異臭がする……。

 正直なところ、やっぱ俺はアトラと外で待ってるべきだったかもしれないな……。
 なんで死の危険があるところに、わざわざ自ら足を踏み入れてしまったのか。

 ……それは俺が、仲間だけを危険な場所に送り出し、俺だけが安全な場所で待っているという罪悪感に耐えられないからだ。

 絶対に俺は日本に帰らなければいけない。だが仲間となった魔物たちを雑に扱って、その結果死なせてしまえば、戻ったとしても一生心の傷として残り続ける。
 だから俺は自分の心の平穏のため、仲間たちと危険な場所にやってきた。
 何度もそう自分に言い聞かせているが、これで何度目だろうな……帰りたい。

 正直愚かな考えだとは思っている。だが霞たちが止めないことからも、危険はそこまで高くないと踏んで突入してる。これもこの世界を学ぶために必要なことだと考え、進んでいく。

 前方からの攻撃はベヒーモスが体で受けて防ぎ、更に正面から現れた狼に乗ったゴブリンはエリザベスが、後ろから不意打ちを仕掛けてくるゴブリンメイジは霞が倒している。
 この鉄壁の布陣を突破できるゴブリンはいないだろう。

 ……本当にゴブリンたちはただ数が多いだけで、圧倒的な質の前には数の暴力も無意味だな。

 想定外だったのが、洞窟内に篝火が置かれて灯りがあることだ。
 あまりデキは良くないように見えるが、それでも篝火という道具を使って、光源を作っているという事実に驚きだな。

「霞、この世界のゴブリンは光源を作れるほど頭がいいのか?」
 俺の知ってるゴブリンだと知能が低いからな、あっても焚火だと思うが。

「下位種のゴブリンは頭が悪いが、おそらく中位種に近いゴブリンが存在しているだろう」

「ホブゴブリンとか、ゴブリンメイジとかか?」

「いや、ゴブリンロードかゴブリンキングだな」

「……ん? それって上位種な存在じゃないのか?」

「いや良くて中位程度の魔物だ」

「じゃあゴブリンの上位種は?」

「見たことはないな」

「……ゴブリンエンペラーとかゴブリンカイザーみたいなやつは?」

「聞いたことはないな」

「……この世界の強さの基準とかがイマイチ理解できないが……上位種は相当な存在だということは分かった」

「私がその上位種だぞ。どうだ、凄いだろう?」
 ……ウンディーネという存在は確かに凄い存在だと思うが、だからといってそこまで強力な存在であるということは、ほとんどない。これは地球にある架空の物語の出来事から得た、俺の経験則にしかすぎないが。
 
 この世界のウンディーネが、水の女神の眷属ということを考えれば、相応に強いのだろう。だがそうなると、水の女神の強さはどうなってるんだ? 型に収まらない規格外ってやつか? いや、そもそも女神イコール神だったな。神の強さを語るのはナンセンスか。
 
 今いるこの異世界は現実で、事実だ。事実は小説より奇なり、とは言うが、それかもしれないな……。

「……あぁ、凄いと思う。これからもずっと頼りにしてもいいか?」
 だが――その上位の存在が、俺に簡単にテイムされて仲間になっているという事実が、どうしても俺には未だにも受け入れがたい事実だ。本当はそこまで凄くないんじゃないか? 自分で言ってるだけで……という考えは逃げだな。

「ああ。私を頼り、私を楽しませてくれるなら、私は主の力となろう」
 後ろでそう言ってくれているが、楽しさの切れ目が縁の切れ目になりそうだな……。
 ま、せいぜい愛想を尽かされないように頑張るか。

 ……しかし気になるな。俺たちが倒していないゴブリンの死骸があちこちに落ちている。それもまだ新しく見えるが、誰がやったんだ? ダークエルフか? その謎は助け出せば解るか。

「……そういえば、この世界のゴブリンの肌の色は灰色なんだな。緑とかいないのか?」

「存在するぞ。他には紫や黒い肌を持ったゴブリンもいると、昔ほかのウンディーネから聞いたことがある」

「肌の色の差はなんだ?」

「戦い方や強さの違いだろう。緑が最弱で、黒が最強だ」

「灰色は?」

「確か黒の次に強いらしいぞ」

「……そうなのか」
 灰色で下位種だって言ってたよな? じゃあそれ以下の緑はどんだけ弱いんだ?

 そんなことを考えている間に、大きな広場に出た。

「ギャッギャ!」
「ギャギャ!」
「ギャーーー!」
 崖上には――いやこの形状は、コロッセオか?
 崖上の観客席の位置には、今まで倒した以上の大量の灰色ゴブリンたちが、狂ったように喚き散らしている。

 そして円の中心には、豪華な装飾で着飾った、巨大な灰色のゴブリンがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

松本先生のハードスパンキング パート4

バンビーノ
BL
 ほどなく3年生は家庭訪問で親子面談をさせられることになりました。やって来るのは学年主任の松本先生です。嫌な予感がしましたが、逃げられません。先生は真っ先にわが家を訪問しました。都立高は内申重視なので、母親は学校での僕の様子を知りたがりました。 「他の先生からも聞きましたが、授業態度ははっきり言ってよくない印象です。忘れ物とか宿題をやってこないとか、遅刻とか。2学期が特に大事なので、先日も厳しく叱りました」  母は絶句しましたが、すぐに平静を装い何があったのかと聞きました。 「けがをさせるような体罰はしません。本人も納得しているし、躾の範囲だとご理解ください」 「もちろんです。でもひっぱたくときは、なるべくお尻にしてやってください」  松本先生は大きくうなずきました。  理科だけはちゃんとやらないと。でも染みついた怠け癖はすぐには直りません。5月の連休明けでした。理科の授業で僕は松本先生に指名され、教室の前の黒板に宿題の答えを書くように言われました。僕は忘れたと素直に言えなくて、ノートを持って黒板のところへ行きました。でも答えがすぐ思いつくはずもなく、すっかり動揺していました。松本先生は僕に近づいてくると黙ってノートを取り上げました。宿題はおろか板書もろくに取っていないことがばれました。先生は前の席の女子生徒のノートも取り上げました。先生の表情が穏やかになりました。 「きれいなノートだ」  松本先生は女子生徒にノートを返すと、今度は険しい顔で僕にノートを突き返しました。僕はお仕置きを覚悟しました。 「お母さんの前で約束したよな」  僕は前の黒板の縁に両手をつかされました。松本先生は教室の横の棚から卓球のラケットを持ってきて、僕のすぐ右横に立ちました。その卓球のラケットは素振り用で、普通のラケットよりずっと重いものでした。今度はこれでひっぱたかれるのか。僕は前回よりは素直にお仕置きの姿勢をとりました。松本先生は左手で僕の腰のあたりを押さえつけました。パーン! 「痛え」。ラケットはお尻にズシンときて、僕は反射的にお尻に右手のひらを当てていました。「熱っ」。   

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

エロ垢バレた俺が幼馴染に性処理してもらってるって、マ?

じゅん
BL
「紘汰の性処理は俺がする。」 SNSの裏アカウント“エロアカ”が幼馴染の壮馬に見つかってしまった紘汰。絶交を覚悟した紘汰に、壮馬の提案は斜め上過ぎて――?【R18】 【登場人物】 □榎本紘汰 えのもと こうた 高2  茶髪童顔。小学生の頃に悪戯されて男に興味がわいた。 ■應本壮馬 おうもと そうま 高2  紘汰の幼馴染。黒髪。紘汰のことが好き。 □赤間悠翔 あかま ゆうと 高2  紘汰のクラスメイト。赤髪。同年代に対してコミュ障(紘汰は除く) ■内匠楓馬 たくみ ふうま 高1  紘汰の後輩。黒髪。 ※2024年9月より大幅に加筆修正して、最初から投稿し直しています。 ※ストーリーはエロ多めと、多少のギャグで進んでいきます。重めな描写はあまり無い予定で、基本的に主人公たちはハッピーエンドを目指します。 ※作者未経験のため、お手柔らかに読んでいただけると幸いです。 ※その他お知らせは「近況ボード」に掲載していく予定です。

その言葉たちは未来で芽吹く

西沢きさと
BL
生徒に告白された俺は、彼に手書きのラブレターを書いてほしいと申し出る。翌日、渡された手紙を読み終えてから、俺はひとつの提案をした。 ◆ 素直で物怖じしない高校生×倫理観がしっかりしている教師。 生徒は恋愛対象外、そもそもお酒が飲める年齢になるまでは考えるのもお断り。そんな真っ当な大人が、相手の一途さを見誤る話です。 不格好で必死なラブレターの威力は、大人の方が食らいやすいと思います。

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

虹の欠片【声劇台本】【二人用】

ふわり
ライト文芸
-独りぼっちだった2人が出会い、希望を見つけていく物語- 普通の女子高生だったはずなのに独りぼっちで屋上でお弁当を食べる咲。 そこに現れた亮から毎日弁当を作ってこいと言われ… 毎日一緒にお昼を過ごしていたある日、虹を見て語り始める亮。 二人は似た者同士だった。

処理中です...