11 / 74
1章 棄てられたテイマー
11話:アル
しおりを挟むノーブルビーの女王、クイーンノーブルビーのエリザベスを新たに仲間に加えた俺たちだったが、さっそく問題が起きている。
空に索敵として飛ばせていたエリザベスが、大きな鳥に追われて戻ってきた……。
戻ってきたエリザベスは涙目になってるじゃないか。可哀そうに。
エリザベスを追っている鳥、あれは……まさかアルゲンタヴィスか?
アルゲンタヴィスは古代に存在した大きな鳥で有名だったから、真っ先にその名前が出てきたが……ただの巨大な鷲のようにも見える……。
「ほう、アルゲンタヴィス種か。こんなところにいるなんて珍しいが……そうか」
霞もアルゲンタヴィスって言ってるな。なんで地球の古代生物と名前が同じなんだ?
まぁ異世界だし……ファンタジーだしな……深く考えても仕方ないか……。
あ、大鳥がアトラの吐いた網で捕獲された。あんなデカイ網も吐けるのか。
網で地面に張り付けられて身動きが取れないようだな。
空を飛べる魔物をテイムできる絶好のチャンスだ。
さっそく口元にテイムミートを投げてみるが、どうだ……?
「どうだ? 俺たちの仲間にならないか? 飯ならその肉を毎日食わせてやれるかもしれないぞ」
「…………」
俺たちを見渡しているが、品定めでもしているのか?
「…………」
横にいる霞とベヒーモスを見て固まっている。
霞はニヤニヤして、ベヒーモスはアルゲンタヴィスを見つめたまま動かない。
お、アルゲンタヴィスが肉を食べ始めた。どうやら仲間になってくれるようだ。
まぁ断った瞬間に殺されると考えれば、大抵は受け入れるだろうな……。
プライドの高い魔物とかだったら、そのまま死を選ぶか?
こうしてさっきの今で、新たに大鳥アルゲンタヴィスが仲間になった。
「ということで、お前の名前は今日からアルだ。よろしくな」
「クエッ」
アルゲンタヴィスはクエッて鳴くのか。地球にいたとされるアルゲンタヴィスも、こんな風に鳴いていたのか?
体のサイズはアルが一番大きいか。その次にベヒーモス、アトラ、エリザベス、霞といった感じだ。
アルの高さは平屋くらいありそうだし、やっぱアルゲンタヴィスは大きかったんだな……と思ったが、ここは異世界で。地球にいた種と比べるのはおかしいか。
▽ ▽ ▽
アルに仲間の紹介も終わったし、エリザベスと一緒に空からの索敵をしてもらおう。
「ところで霞、アルはどのくらいの強さなんだ?」
「アトラ殿と同じ中位種の存在だ。風魔法を得意とし、空から獲物を強襲して喰らうぞ」
「同格なのに簡単に捕まってたな」
「相性の問題だ。下位種のままだったら逆だったが、今のアトラ殿はアルゲンタヴィス種にとって天敵なのだ」
「そうなのか。どちらかというと、アルがアトラの天敵というイメージなんだがな」
「飛んできたところを丈夫な巣や網で捕らえ喰らう。それだけグラットンスパイダーの糸は強力なのだ」
「……ん? グラットンスパイダー?」
「言ってなかったか? アトラ殿はシャドウスパイダーからグラットンスパイダーに進化していたのだ」
「聞いてないぞ……」
「はっはっはっ、そうだったか。それはすまなかった」
楽しそうに笑っている霞に教えてもらったが、アトラの今の種族名はグラットンスパイダーなのか。
グラットンの意味は確か――謙虚……いや違うな。そうだ、大食いだ。大食いか……。
大食いとなると、これは食費に苦労することになるのか?
「アトラ、グラットンスパイダーだったんだな」
「キキ」
「よしよし」
なんにせよだ。なんであれ、アトラが進化していたのは良かった。
俺と出会ってから割と早い段階で進化したってことは、出会う前に大量に敵を狩っていたんだろうか?
そうなると次の進化までが遠そうだが……。
「キ?」
「あぁ、もっと強くなろうな」
「キキ」
俺が元の世界に帰るために。俺が消えてもアトラがこの世界で満足に生きていけるために。
▽ ▽ ▽
「クェーーーー!!」
「なんだ?」
空から索敵してるアルが突然鳴き出したが……敵か?!
「――あれはレイジングボアだな。こっちに向かってきている」
「レイジングボア?」
ボアってことはイノシシ系の魔物か? 突進攻撃が怖いが、アトラの網なら抑えられるか?
「オイオイ……大丈夫か? なんか滅茶苦茶木が倒れる音が聞こえるんだが……」
ヤバイな、あの巨木をなぎ倒す勢いの突進って、俺がくらったらミンチになりそうだぞ……。
「問題ない。アルがもう向かった」
空にはエリザベスだけだ。いつの間に……。
「グモォォォォォォォォォォォ!!!!」
低音の断末魔が聞こえたが、一体何が起きた?
アルがレイジングボアを倒したのか?
木々の茂る先で何かが起きたことは分かるが、木々が邪魔で先が見えず、何が起きたか分からない。
ばっさばっさと空からアルが戻ってきた。自分と同じくらいのサイズのレイジングボアを掴んで。
「クェーー!」
「でっか……マジかよ……」
一鳴きしたと思ったらレイジングボアを俺の前に落としてくれたが……デカすぎだろ。
ドォンって落下音がしたぞ。地面の揺れた気がするし、どんだけ重いんだこれ。そしてそれを運んできたアルは凄いな。
レイジングボアのほうは……茶色の毛並みに白い牙が四本生えてる、まぁイノシシだな。
この牙で獲物を串刺しにするのか?
この体と質量だ。体当たりだけで人間がハジけそうだ。
全体的に見ても、ベヒーモスよりも大きいんじゃないか? 本当に大きいな。
「よくやったぞアル。アトラ殿、さっそく血抜きをしようか」
「キ」
「血抜き? コイツを食べるのか?」
「ああ。主、コイツの肉は美味いらしいぞ」
霞が興奮気味に話してるが、それだけ美味いのか……?
「あ、あぁ、アルもよくやってくれたな。凄いな、自分より体の大きな獲物を仕留めて運んでくるなんて」
「クエ」
俺が褒めてもアルは無表情だ。当然のことをしたまでと言わんばかりのような、クールな仕事人という感じだな。カッコイイぞ。
「キ」
いつの間にかレイジングボアはアトラの糸で宙づりにされ、血を抜かれていた。手際がいいな。
霞の作った水の枠に、アトラの糸を引っ掛けている形だが……どっちも凄い耐久性だ。
トンはありそうなイノシシを吊って、壊れない、千切れないなんてな。
これが人に向けられれば、人間には対処しようのない一種の暴力だと思うが、俺がテイマースキルを持っているんだから、他のクラスも対抗できるようなスキルを持っていると考えるべきか。そう考えるとやはりこの異世界は油断はできない。
ん……? そう言えば食うにしても、火はどうするんだ?
0
お気に入りに追加
1,061
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。
家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長
ハーーナ殿下
ファンタジー
貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。
しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。
これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる