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1章 棄てられたテイマー
9話:エクスペリメンタルエネルギー
しおりを挟む「よし、出発の準備もできたし行くか」
食事などを済ませて、取っておいたテイムミート二個をカバンにしまった。
これで不測の事態が起きてもなんとかできるだろう。
準備も整ったし、ダークエルフたちの住まう場所へ出発だ。
アトラが寝ている間に進化したのは助かるが、進化する場面を見逃してしまったのは残念だな。
記念すべき最初の進化だというのに、それを見られなかったのは勿体なさすぎる。
次に進化するときはちゃんと見てやりたいところだ。
「キ」
アトラが脚で自分の頭を指しているが……。
「ん? 上に乗れって?」
「キ」
「……いや、ベヒーモスに……いや、そうだな。せっかくだしアトラの上に乗せてもらおうか」
「キ!」
「ベヒーモスは仕事を奪われてしまったな」
「ブモ」
なんだかベヒーモスに悪い気がしてきたぞ……。
「……」
「……」
ベヒーモスと目が合うが、特に気にしている様子はなさそうどころか、理解していると言わんばかりに頷いた。
昨日から思っていたんだが、もしかしてベヒーモスもかなり知能が高い?
アトラもそうだ。魔物は人間を襲うことしか考えていない、知能が無い生き物だと思っていたが、この世界ではそういうわけでもなさそうだ。
いや、この二匹が特別なのか?
……まぁ今こんなことを考えても仕方ないな。アトラの背に乗せてもらおう。
「よっと……よし、じゃあ出発だ」
「キ!」
俺の号令とともにアトラが動き出した。
凄いな、視線がほとんどブレないし、揺れもなく快適に移動している。
やはり多脚は伊達じゃないか。
▽ ▽ ▽
あれから結構移動したと思うんだが……。
「ブモォ」
「ハァッ!」
「キ!」
ベヒーモスの体当たりで吹っ飛ばされた灰色のゴブリンが動かなくなり、霞の腰の入ったストレートが灰色のゴブリンの頭を破裂させ、アトラの闇魔法<ダークブレイド>が、ゴブリンたちをまとめて惨殺していき、黄色い光の玉がアトラたちに吸収されていく。
魔法名は霞が教えてくれた。剣の形をした紫色のエネルギー体みたいな刃が現れ、敵を切り刻んだり、突き刺す魔法だ。
「近くにゴブリンの巣があるのかもしれんな」
「キ」
返り血は霞の水魔法で洗い流し、清潔な状態に元通りだ。便利な魔法だな。
とまぁこんな感じで、襲い掛かってくる魔物たちを瞬殺して進行している。
ゴブリンとは緑色の肌と小さい体、尖った耳に醜悪な体を持つ魔物という認識なのだが、この世界のゴブリンは灰色のようだ。いや、もしかしたらアトラと同じ変異種という可能性もありそうだな。
……違うか。変異種なら霞が教えてくれるか。
魔物たちをテイムしていないのは、食料事情や維持を考えてのことだ。
無駄に数を増やしても、移動の足枷になったり、食料を調達するのも問題になる。
だからどうしても必要だと感じる魔物以外は、なるべくテイムしないようにしているのだが、こんだけ出てくるならテイムしてもいいんじゃないかとも思う。
戦力の増強もしたいが……迷うな。
ゴブリン部隊とかロマン溢れる部隊を作ってみたいんだよなぁ。
ゲームでもそうだったが、最弱モンスターを最強モンスター軍団にするのは一つの憧れた。
「キキ」
「あ、ああ、これをテイムミートにすればいいんだな――スキル<クリエイト・テイムミート>」
アトラの解体速度も上がり、肉をテイムミートにする作業もあっという間だ。
解体光景は……だいぶ慣れてはきたが、まだキツイな……。
「……ん、やはりテイムミートは美味いな。少量だが、体力や魔力の回復効果もあるようだ」
どうやらテイムミートには、体力や魔力を回復する効果があるらしい。少量ということだし、これだけで賄えるわけではないだろう。
だが、アトラたちの食料事情に今のところ困ることはないので、弱い魔物ならどんどん出てきて欲しいところだな。
……人間の俺が食っても大丈夫なのか? いや、ドッグフードやキャットフードを食べるようなものじゃないか……? やめておこう。
「キ!」
「ん? どうした?」
「……なるほど。主、向こうからノーブルビーの群れが襲いにきたようだ」
のーぶるびー……ノーブル、ビー? 高貴な蜂か? 蜂の群れが襲いに来た……?!
「いやヤバイだろそれ!」
「いや今のアトラ殿なら問題ない」
「即答で言い切ったな……」
「アトラ殿は中位種に進化したからな。下位種の蜂に負ける道理はない」
「キ」
霞はなんかドヤ顔だし、ベヒーモスは動じなさすぎだし、アトラも自信満々の様子だな……。
霞がここまでハッキリ言うということは、上中下の区別はかなり差があるんだろうな。
「……そこまで言うならアトラに任せるが、無理はしないでくれよ?」
「キキ!」
「俺は降りて下がっている。その方が動きやすいだろって……羽音が聞こえてきた」
群れとか言ってたし、本当に大丈夫か……?
くっ……蜂の羽音は苦手なんだよ……体を屈めて様子を見守っているぞ。
「見えてきたな」
「……うわっ、どんだけいるんだよ!」
三十……いやもっとか? 本当にアトラ一人でやれるのか?!
見た目は子供サイズの大きな鉢だ。尻尾の部分は黄色と黒の縞模様の危険カラー。
あんなデカイ蜂に襲われたら一瞬で肉塊にされてしまうぞ……!
「――って、今アトラ地面に消えていかなかったか?」
「今のはスキル<シャドウムーブ>だな。影から影へと移動するスキルだ。アリの群れを殲滅する際にも使っていたぞ」
「そうなのか……あ」
アトラの姿が見えたと思ったら、横に一回転して全方位に<ダークブレイド>をばら撒き、それをくらった蜂たちが真っ二つにされて一気に落ちた。
それ以外の蜂たちは、アトラの吐いた網のような物で、木々にまとめて張り付けにされていってるし、本当に一人で処理しそうだなこれは……。
「そう言えば、魔物を倒したときに出てくる黄色い光の玉ってなんなんだ?」
「主は知らないのか。あれはエクスペリメンタルエネルギーと言って、倒した魔物から排出されるエネルギーの塊だ。おっと、ちょっかいを出した私のほうにもきたな」
「……エクスペリメンタル、ということは経験値か。なるほど、それでアリを大量に倒してゲットしたから、進化したんだな」
なんという安直なネーミング。分かりやすいが長いな、誰が命名したんだ?
「主は察しがいいな。そういうことだ。ただ――」
「テイマーである俺のところにはこないのか?」
「いや、普通は魔物の主であるテイマー自身にも入るらしいのだが……」
「……そうか。多分俺の知らないなんかのスキルが関係してるんじゃないか?」
アトラたちが倒した敵の経験値が俺に入らないとなると、俺は一生レベル1のままだったりするのか……?
……これはかなりマズイだろうな。
経験値というシステムがある。ということが明確になったことは良かったが、俺自身が得るには、俺が魔物を倒すしかない……現状無理だ。
せめて何か武器があれば、アトラに弱らせて、俺がトドメを刺すという作戦でなんとかできそうだが、その武器の入手が、ダークエルフのいる場所まで行かないとどうしようもできない。
アトラたちに倒させて、俺は楽々レベルアップ。という都合の良い展開とまではいかなかったか……。
「それにしてもエクスぺリメンタルエネルギーって長くないか? EXPか経験値って呼んでも良いと思うがな」
「ほう、主はそう呼ぶのか。私も長いとは思っていたが、略称は知らなかった」
「俺の世界のゲームじゃ大体そんな感じだったし、言うときに長いと面倒だし、経験値とかでいいだろ。倒した経験を値として入手できるという意味なら、そこまで間違いでもないだろうしな」
「主がそう呼ぶなら私もそれに合わせよう」
ということで俺たちの中で、エクスペリメンタルエネルギーは経験値と呼ぶことにした。
あくまで俺たちの中での話なので、これをここ以外の他者に押し付けるつもりはない。
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