上 下
8 / 74
1章 棄てられたテイマー

8話:アトラの進化姿

しおりを挟む



「……ん……朝か……」
 ここは……枝の上か。体が痛いな……夢じゃなかったか……。
 
 まだ暗い……時間的には早朝四時とかそんな感じか……?

「主よ、目が覚めたか」
「キキ」

「ああ、二人ともおは――んん!?」
 ウンディーネの霞は覚えている。だが隣の、コタツサイズの赤い蜘蛛は……。
 尻部分も含めるとなかなか大きいぞ。

「まさか、アトラ……なのか?」
「キ!」
 前脚を二本挙げて反応している……アトラなのか。だが何故姿が変わっているんだ?

「ああ、昨日の夜、アリたちが主を襲いにきていてな。アトラ殿が見事に返り討ちにしたぞ」
 俺が寝てる間にそんなことがあったのかよ……冗談じゃないぜ。
 もしアトラと霞がいなかったら、俺は昨日の夜に死んでいたってことか……。
 つくづく自分の運の良さに救われるな。

「……アリを倒して進化したってわけか。まぁ戦力の強化になるなら喜ばしいことだな。アトラ、進化おめでとう」
「キィ!」
 凄く喜んでいるな。進化できたことがそんなに嬉しいか。味方の戦力アップだし俺も嬉しいぞ。

「アトラ殿はこれで下位種から中位種に上がり、その力は下位種の頃と比べ格段に上昇している。しかも……」

「しかも?」

「私の知っている個体よりも、魔力量が桁違いに多く感じる。亜種であることが理由だろうが、それ以上に強く感じる。下手な上位種より強いかもしれないぞ」
 ということはやはりアトラは、特殊個体、あるいは変異体か?
 原因があるとすれば、間違いなく俺が関与してるだろうな。テイマーのスキルか何かだろうか。なんにせよ、強くなったということは素直に喜ばしい。が……。

「大きくなったなぁ。背……いや頭か? そこに俺とかが乗れそうじゃないか?」

「キキ」
 アトラが自分の頭部分を前脚で指している。

「え、乗ってみろって? 大丈夫か?」
「キ!」

「アトラがそこまで言うなら乗ってみるが……不安だな」
 アトラを潰さないように、ゆっくり乗ってやろう……。

「……お? おおお??」

「キキ!」

「座り心地はどうだ、主」

「アトラの毛の肌触りもいいし、座り心地もいいぞ! まるで高級椅子に座っているような感覚だな!」
 毛のおかげなのか、ふかふかで柔らかく、まったく負担を感じさせないクッション性。一体どうなってんだ?
 尻部分が良い感じに背もたれになってるし、浅く座れば寝れそうだ。

「おぉっ」
 アトラが太枝から地面に降りたが、一切の衝撃なく着地した。凄いぞ。

「キキ!」

「……え? ちょっまっ――」
 アトラがそのまま飛び降りやがった!!
 降りたのはこの為か! し、死――

 どのくらいの高さを飛んだかわからないが、わかるのは、背の高い木々を楽々飛び越してるということだ。
 
 ようやく頂点に達したところで、あとは落下する訳だが、俺の心は恐怖に塗りつぶされていた。

 最初はゆっくりと落下を始め、徐々に加速していく。
 落とされないようにアトラに必死にしがみ付きながら、景色がスローになるのを感じた。

 人は危機に瀕すると景色がスロー状態になり、とっさの動きができる、というのは俺は何度も実体験したことがあるので理解できるが、あまり何度も体験したいものじゃない。

 そして高速で地面が近づき――

「…………い、生きてる……」

「キ!」
 落下の衝撃で死ぬかと思ったが、アトラが上手い具合に脚を曲げて、落下の衝撃を吸収したようだ。
 絶叫マシンに乗った気分だったが、アトラに悪気はない。

「ブモ」
 起きていたベヒーモスと目が合う。だが俺は複雑な気分に陥る。

「あぁ、おはよう……」
 ベヒーモスの顔を見て複雑な気分になる理由が、そこら辺に転がっている訳だが……。

「この大量のアリの死骸が、話していたアリか……」
「キキ!」
 目の前に大量のアリの死骸が散乱しているが……これ全部アトラがやったのか。

 体を縦に真っ二つにされた個体と、首を落とされた個体が多い。
 一体どんな戦い方をすればこんな惨状になるんだか……。

 ともあれ、戦って勝利したアトラを労う必要があるだろう。そういうところから信頼関係を築いていくことも、育成には必要なことだ……と思う。

「……よくやった。アトラがいなかったら間違いなく俺は死んでいただろう。助けてくれて感謝しているぞ」
「キィ」
 この大量のアリたちから守ってもらったとなると、アトラには足を向けて寝られないな。
 ヨシヨシと頭を撫でてやろう。

「主、カバンだ」

「あぁ、ありがとう」
 霞が空から降ってきた……落下の衝撃もなく静かに着地するって、どうやってるんだ?
 まぁ大精霊という地球では非常識の存在だ。それに俺の常識を当てはめようとして考えても無意味だろう。

「それでだ、主よ」

「なんだ?」

「この大量のアリの死骸をテイムミートにしてはどうだ?」

「え、アリって肉があるのか……?」

「なければこの体を支えて動かすことはできないだろう?」

「それもそうだが……」
 いや、そうだな。ここは異世界だ。あれだけ大きいアリなら可食できる肉もあるのだろう。
 だがこの数はな……一体どれだけいるんだ?

「キ」
 アトラがさっそくアリの肉を持ってきた。予め解体していたか。
 気になるアリの肉は……コボルトのときの赤い肉ではなく、こっちは黒い肉だな……。

「うぇ……」
 黒い肉というのは見たことがない。アリというのも相まって気持ち悪いが……慣れるしかないな……。
 
 黒い肉か……漫画か何かで高級食材としてあったような気がするが、思い出せない。
 高級食材だと思って作業するか……。

「……ありがとうアトラ。じゃあさっそくテイムミートにしていくぞ」
「キキ」

「――スキル<クリエイト・テイムミート>」
 ……こうして涙目になりながら、片っ端からアリの肉をテイムミートに加工していった。
 理屈は分からないが、黒い肉はスキルで加工すると赤い肉になった。

 仮説の一つとしては、肉自体の性質が変化して、テイムミートというアイテムに置き換わっている可能性だ。
 だからどんな肉だろうと……そう、人の肉だろうとテイムミートに出来てしまうんじゃないかという恐れが出てくる。

 俺は考えることやめて、ひたすら無心にテイムミートにしていった。二十から先は数えていない。勿論そんな数がカバンに入る訳もなく、代わりにアトラと霞とベヒーモスの腹の中に入っていった。

「ふぅ、非常に美味だったぞ主」
「キキ!」
「ブモ」

「そりゃ良かったよ……俺は疲れた……」
 動いていないのにここまで疲労感があるのは、魔力の使い過ぎだろうか。魔力の使い過ぎには注意しないとな。

「ふぅ……」
 一人と二匹は朝から霜降り肉で豪華な朝食だったが、俺は干し肉を齧りながら水を飲んで、朝食終了だ。なんだか格差を感じるような気がするが、気のせいだな。考えすぎだ。

 だが、そろそろまともな飯が食いたいぜ。米が食べたいな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

エノキスルメ
ファンタジー
ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あのクソ親のように卑劣で空虚な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め称える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これはちょっぴり歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載させていただいています

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...