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8の扉 デヴァイ 再

「その」後

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「ねえ、あの子は?大丈夫なの?」

「…………。ああ。まだ、眠っている。」

「…?眠ってる?まあ、そうなんでしょうけど。」

なんか。
怪しい。



あの日、突然気焔が帰って来て。

しれっと「してきた」とは、言わなかったけど「致してきた」感満載で、しかも一人で戻って来た、この男は。

「大丈夫だ。」

という、謎の宣言をしたまま、とりあえずここフェアバンクスの空間で普通に過ごして、いる。

私達は、始めに聞いたセリフを「忘れたフリ」「知らないフリ」をして、ここ何日か過ごしていたけれど。


「ねえ、なんだと思う?怪しいわよね??でも絶対訊いても教えてくれないだろうしさ………。」

「まあ、放っておくしかないだろう。「大丈夫」、なんだろう?」

そう言ってウイントフークが問い掛けたのは紫の狐だ。

くるりと振り返ってニヤついているあいつは、なんだか楽しそうにこう言ったけどね。

「まあ、また変化するんだろうよ。俺としてはどう出るか、気になっていたがこれは…まあ、想定外だな。それがあいつ依るの面白い所だよな…。」

「えっ。でも、大丈夫なんでしょう?」

「ああ。、問題無いだろう。」

えっ……………。


なんだか満足そうにそう言って寝そべる狐はもう喋る気は無いらしい。
まあ、私もそんな根掘り葉掘り、聞くつもりもないんだけど。

なんだか、なあ………。

イストリアのとこでも、行けばいいかしら?



ぶっちゃけ今回、気焔が帰って来てから「そうなる」のは時間の問題だと、思っていた。

依るは依るでレナと何か話していたし、あの子も成長してる。
それに、あの石が消えた理由もなんとなく解っていたから。

まあ、あの子があそこまで「変化」「成長」したならば。

あいつもうかうかしていられないって、事よね………。



「やあ。、なのかい?」

「あっ!丁度良いところに。」

「ああ。」
「後で様子を聞いてみてくれ。イストリアからの方が、あいつも何か喋るかも知れん。」

「分かったよ。」

クスクスと笑うイストリアは、約束をしていたのか、ウイントフークに呼び出されたのか。

依るがいたら「お母さんって呼んで下さいよ」と言いそうな雰囲気の中、気不味いのかウイントフークはそのまま食堂を出て行った。

代わりにイストリアがニコニコしながら、座って。

シリーがお茶を持って来たから、なんだか女子会みたいになったわ。

「君の分も持って来なさい。」

「あ、いいえ、私は………。」

「いや、なに。君も心配だろう。君にとってヨルは妹みたいなものだろう?」

「…………はい。では失礼しますね。」

そう言って静かに茶器を取りに行ったシリー、遠慮の素振りは見えたが心配が勝ったのだろう。

ニッコリと、髪を耳に掛けながら私を見ているイストリアは、私の事も「依るの姉」だと思っているに違いない。


「まあ、心配は心配だけど。心配ないのも、解るのよ。」

「まあ、そうだろうね。それについてはあまり心配してはいないが、なにしろ畑が五月蝿いんだ。花達が騒めいていた。これは「外」にも影響があるのだろうね………。」

ちょっとだけ遠い目をしたイストリア、しかしパッとその瞳は楽しそうな色に変化してシリーにもお茶を注ぎ始めた。


「で?外は、どうなってるの?そんなに凄いの?」

私の質問に、ニヤリとするイストリアはあの眼鏡の奥の瞳とそっくりである。
そう、あの「面白いものを見つけた」時の、目だ。

「いやぁ、私もあれほどとは。思って、いなかったよ。外の畑も見に行ったけど、あちらはまあ、まあ。しかしね、私の畑は、なんと言うか………。」

え。
イストリアが 怖いんですけど………。

クスクスと笑い始めたイストリアに釣られて、シリーも笑い出した。

「良かった、きっと心配する事無いですね。まあ、あの方がいれば大丈夫だとは思ってましたけど…?」

「カチリ」と、音がして。
振り向いたシリーの視線の先にいたのは噂のあの男だ。
ウイントフークに言われて来たのだろう。

イストリアの顔を見て、なんとも言えない表情をしている。
多分、あいつはこの人が苦手?なのかも知れない。
だって、逃げられないからね。

なんでなんだろうか…まあ、面白いからいいけど。


「おや、いらっしゃい。まあ、座りなさい。」

言われるがままに示された椅子に座る気焔、何故かイストリアがここの主人の様に振る舞うのがまた面白い。

私はとりあえず、この石が。
この人になら吐くのかと、興味津々で横から見て、いた。
うん、なんならすぐ逃げられる様にね。


「それで?「こと」は、成ったのだろう?」

「まあ。」

普通にそう訊くイストリアは流石である。
シリーはどうしていいのか分からず、私に向かって困った顔をしているけど。
とりあえず、「大丈夫よ」と目配せしておいた。
この頃ずっと一緒だから、大抵の事は通じるから。


「君は君の都合で「いなかった」のだろうけど。これからは、あの子の側にいるのだよね?」

「そうなるな。」

「それならいいんだ。きっと安定するのに時間が掛かるだろう。いや、君達ならば。それもあまり関係無いのかな………」

その時、再びなにかが動いた気がして、ふと顔を上げた。

扉の方から風を感じたからだ。


「あら。」

白い。 真っ白ね?

「おや?」
「わぁ。」

「  」

ん?ちょっと 大丈夫???


「ガタン」と音がして、気焔が勢いよく立ち上がりあの子を連れてパッと消えた。

そう、私が顔を上げると依るが入り口に立っていて。

まず、あの子は「真っ白」だった。

多分、いつもあの子が言ってた「ディディエライト」みたいな感じ?
髪も全身、服も白くて、瞳だけが金色っぽく光ってた。
青かったかも知れないけど、よく分かんない。

で、イストリアが声を発した時に彼女を見つけた依るはほんのりピンクになって。
嬉しかったんでしょうね。
それから私を見て、まあ私がいる事は想定内、シリーも見て喜んで、体が上気している感じ。

それから。

あの、男に気付いてから。

「ピンク」からパッと「美しい紫」に変わったあの子はどんどん「それ」が、濃くなって。

「鮮やかな赤紫」みたいになってきて、それから急に真っ赤になりその後青くなった。

なに?
あの子はカメレオンになっちゃったワケ???


そうして多分「まずい」という事が解ったんでしょう、あいつがあの子を抱えて飛んで。
どっかに行ったわ。
どこ行ったのかしら?

まあ、いいけど。
とりあえずあいつが「なんとか」、するんでしょ………。


「それは覗いちゃいけないやつね…。」

「まあ、そうだろうね。フフ、でも元気そうで良かった。」

「そうですね。」

「アレを「元気」と、言うならね………。」

クスクスと笑う二人、私は今更ながらシリーは大物じゃないかと思っていたけれど。
うん。
流石だわ。

結局「あの子が なんなのか」、その話は訊かれた事も、した事も無いけれど。


「まあ、人には恵まれてるのよね。」

「そうだろうね。それもあの子の人徳なのだろうけど。しかし、彼と「そうなって」。少しは、「受け取る」事も、学ぶといいね。」

「そうなのかもね………。」

確かに。
あの子はなんでも一人でやろうとする癖が、ある。

小さな頃から。
兄姉とは年が離れてた所為もあると思うけど、家に家族が不在の中「迷惑かけないように」している節が、あった。

「一人でできる」それが、当たり前の様に。
あの子から「寂しい」なんて言葉は聞いた事がないし、要領も良かったからそれなりになんでもこなしてたしね。


「まあ、良い機会なのかもね………。」

「そうなんだろうね。あの子を崩せるのは、彼だけなのだろうし。まあ、これもまた運命の輪の内か。なにしろ、楽しみだね?そういや新しい石があると聞いたのだけど?」

「それなら書斎へ寄って行ったら?」
「あの子が嫌がるかと思って。」

「でも、本当は喜んでますよ、きっと。」
「私もそう思う。まあ、いい年して言えないんでしょうけど。」


嬉しそうに勧めるシリーに、悪戯顔のイストリア。
何故だかこっそり、突撃する事にしたらしい。

面白いから、ついて行こう。

「じゃ、とりあえず行こうか。」

「はーい。」

そうしてシリーは片付けを請け負い、私達は書斎へ。
あの子達はどこ行ったのか、また暫く帰って来ないのかしらね??

そんな事を思いいつも。
イストリアと静かに、廊下を進んで行ったわ。

フフフ。




☆☆☆☆









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