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8の扉 デヴァイ 再

面会

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今日は、うちにブラッドとアリススプリングスが来る。

昨日本部長にそう聞いて、少し楽しみだった私は、ウキウキと青の廊下を歩いていた。

別に「会いたい」とかじゃ、ないんだけど。

とりあえず、「誰にも会えない」訳じゃないのが、嬉しかったのかもしれない。

とりあえずは朝食後、「呼ばれるまで部屋にいろ」という本部長命令を大人しく聞くために、ウエッジウッドブルー目指して歩いていたのである。



「ねえ、なんかとりあえず「こんにちは」とか言って、入って行けばいいのかな?」

「どう、だろうな。」

芳しくない返事をしているのは金色である。

私のエスコート役の彼は、この「顔合わせ」に不満なのだろうか。
いやしかし、必要だという事も、解っているのだろう。

「コンコン」と聴こえたノック、ひょっこりと顔を出したのはあの極彩色である。

案の定、ニヤリと揶揄いの色を浮かべた千里はしかし、金色の顔を見てこう言った。

「喜べ。とりあえずは、小部屋から覗いて、大丈夫そうなら出て行けと。言っていたぞ。」

うん?

話が読めない。

しかしきっと、直接すぐに会うのではなくこっそり覗いてからで、良いという事だろう。


でも 駄目なんて こと  あるの かな ??

そんな事を考えている私が分かるのだろう。
ニヤリとした千里はそのまま扉を閉じ、姿を消した。

なにしろとりあえず。
この人に、飛んでもらえば、いいってことだよね??

チラリと飛ばした視線に頷いた金色は、私の元へとツカツカとやって来ていつもの様に、フワリと抱える。

「むん?」

そうして何故だか一瞬。

ブワリと金色を注がれつつも、フワリと。
すぐそこの、書斎の小部屋へ飛んだので、ある。




「どうだ?」

「うーーーん?多分?大丈夫、そう。」

書斎では、既にあの二人と彷徨いている白衣が見える。

相変わらず、本の山を彷徨く本部長は、「私が帰ってきている」事を報告している様だったけど。

その、話を聞いている二人の様子が変化してきていることに気が付いて、チラリと金の瞳に合図し観察を続ける事にした。


とりあえず見た感じ、私からして不快感は無い。

多分、「行く前」と変わらぬ二人に見える。
そう思って、始めは「大丈夫」と、言ったのだけど。

しかし、「私の話」が始まると。
少しずつ二人の周りが変化してきたのが見え、金の瞳に合図すると共に回された腕をギュッと握っていた。


二人の周囲の、変化。

その、靄の様なものはあのアリススプリングスの屋敷で見たものに、似ている。

以前、二人からは何も見えなかったけれど、やはり私が変化したのだろう。
その靄はアリスのものは薄いがやや渦巻いていて、ブラッドは少し赤い。
しかし、少し燃えている様な動きだ。

「それ」が、何だか分からなくて。

とりあえず、確かめてみたくなった。

だって、「何の色なのか」。

「知りたかった」からだ。


 ああ いけない  いや いけなく ない のか

   どうか  いや  しかし。

 私には。 確かめる 必要が ある な ?


なにしろこの二人ならば、もう私の「存在」自体は知られているのだ。
「確かめる」のならば。

最適だろうし、きっと本部長の狙いも。

そこなのでは、ないだろうか。

朝もそう、言ってたしね………。


斯くして私は金の瞳に合図をし、「行く」「本当にいいのか」「だって行かなきゃ分からない」という会話を目で、繰り広げた後。

溜息を吐いて前に立った金色の背後に隠れて、登場する事にしたのである。


「おや?」

「ああ、久しぶりだな。」

二人が金色に気付き、雰囲気が細かく震え始めたのが分かる。

これは「期待」だ。
多分、「私が背後にいる」のが分かっているから、出たであろうこの変化。

なんとなくその「期待」を感じつつも、いつ顔を出そうかと考えていた。

二人とも、きっと私を待っていてくれたのだろうし。
「不老不死」を持って来れなかった事を、後悔してはいないが謝りたいとは思っていた。

きっと、あの長老達に言い訳をするのは大変だろうから。

 いや、でも一位なら…………?
 大丈夫なの、かな………??


「ヨル?」

浮いたブラッドの声。

一瞬、「なにか」に反応した私の「なかみ」、しかしとりあえず横に動いていた私は、きっとブラッドの顔を見れば。

その「何に反応したのか」が、解ると思っていた。

でも。
その考えが、「甘い」事を思い知るのは、一瞬だったけど。


 えっ  嫌 だ

パッと隠れた金色の背中、部屋の空気がピンと張ったのが分かる。

緊張した硬い背中、彷徨くのを止めたウイントフーク。
アリスは口を開いていない。

私の反応を。
見ているのだろうか。


 えっ とりあえず  もう一回?
 見て みないと   

     わかんない  かも。


恐る恐る、目だけを、出す。


 ああ 「あれ」は 駄目
 「あれ」は   いけない


再びパッと隠れる背中、金色の背中を少し押すと、察したのだろう。
そのまま後ろへ下がり、ジリジリと再び小部屋へ戻った私達。

金色はチラリと顔だけ向こうへ出すと、一つ頷いて私を抱え部屋へ飛んだ。

きっとウイントフークも「そう」判断したのだろう。

 「私とは 合わせない方がいい」と。





「なんか、ごめん。」

「いいや。」

そう、キッパリと言って、私を懐に入れたままベッドへ腰掛けた金色。

私は自分の「なか」で「なにが駄目」なのかを、
探そうとしていたけれど。

「それ」は、最近見た事のある「あれ」だったから。

すぐに、思い付いたんだ。

 
 そう  「あれ」は。

 人間ひとが 必ず 持つ

 「本能」だと。

 
 いう ことに。





あの、神域から帰って来た後。

つらつらとベッドで考えていた、灰汁のこと。

「あれ」は。

「想い」の一種だけれど、私が「事実」として「知る」ことはあれど、もう「要らないもの」として流した、「想い」である。

これまでずっと、持っていた、「辛く」「苦しい」「私達」の、「想い」。

それは、きっとそのまま抱えるのではなくて「知る事実」と「感じる想い灰汁」を、分けなければ。

きっとずっと、重く暗く、私にのし掛かるものになるのだろう。

それが、から。

流したんだ。

私の、川に。


そうしてきっと、洗い流され清浄になった「その色灰汁」は、私に「ただの想い」として還って、「色に加わる」のだろう。


その、「持たぬと決めた色」が。

見えたんだ。

 あの ブラッドの 顔を見た 瞬間。



それは。

ある意味「純粋な好意」でも、あると思う。
あの人は悪い人じゃない。

それは、分かるんだ。

でも。

「好意」から派生する「期待」、それが返ってこない時の。


人間ひとが、必ず、持つ。


その、「裏側」「本能」「衝動」「魔が刺す」、様な、こと。

「好意」が翻り 「暴力」に 「言葉」や「腕力」など ある種の「力」に変換する様な こと。

私はそれが、怖い。


そして

「期待」から派生するそれは

「愛」を求めている筈なのに。


最終的には

 見当外れの「物質もの」を 

 「搾取」することに なるのだ


どんなに、「真面目な」人でも。
どんなに「欲望が無さそうな」人でも。


 人間ひとで あるならば

 必ず 併せ持つ  その 本能 


それが一瞬で翻る様を、散々見て来たんだ。

どんな、場所でも。
どんな、時代ときでも。

どんな立場で、何をしていて、その時、どれほど「幸せと言われる」状況で、あっても。


 なのだ 

      人間  とは。


  
  それを 知った 

      思い出したんだ


   あの  「海底墓地」 で。



しっかりと「絶望」と「諦め」を取り込んだ私の中身は、酷く頷いて「もう 繰り返さない」と硬い色を示している。

 「大丈夫」

そう、自分に言い聞かせて。

再び自分の「なか」を浚う作業へ戻る。


今はまだ。
「合わさった」ばかりで不安定な、私の中も。

きっとこうして精査してゆく事で、馴染み落ち着いて行く事は、分かっているのだから。


そうしてくるくると戻る「仕分け作業」、散らばった破片は「もの」「期待」「変化」「色」「執着」、様々だ。

私達人間は。

その、時々で「期待」や「執着」をする「物質もの」は、違うけれど。


そう


 その 「金」や 「身体」


   色々な  「もの」に  

  徐々に  絡みついて ゆき


  どす黒く浸み着く  その   あの


    生々しい 「いろ」  が。


  私は、まだ 「怖い」んだ。



流して、しまったけれど。

まだ、流したばかりだから。

そう、すぐに「忘れ去れる」程、少なくも、なかったから。



でも。

そう

そうなの


 もう  私には  必要が ない

   要らない  経験しない と  


     「決めた」  んだ 。




「……………ふぅ。」

「大丈夫、か。」

「うん…………。」


以前よりは、沼に落ちる感覚が、弱い。

揺らいでいるとは言っても、やはり土台が変わったのだろう。


すぐ側にある、温もりを心底有り難く感じると共に、抱く想い、そうしてふと。

思い、出したんだ。


すっかりと 忘れてしまっていた  こと を。







 



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