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8の扉 デヴァイ

支度

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そうして、次に目覚めた時。

思ったよりも、整っていた支度に私は驚く事に、なった。

そう、もう全ての準備は、整っていて。
後は、「私が目覚めるだけ」と、なっていたのである。



「…………。」

朝?

視界に入るは、見慣れたシャツ、たっぷりとしたドレープの皺。

安心する匂い、いつもの温度、慣れ親しんだその感覚に小さく息を吐いて再び、目を閉じた。


「依る?」

ん?

あ れ ??

何も違和感を感じなかったから、再び自然と閉じた瞼。

しかし。

これ…………?

あの人、だよね…………。


そう、確信が持てるその温度は慣れ親しんだ、あの金色の温度と匂いだ。

しかし。
今、私達は?
別々、の?

うん? あれ?  私

 結局  ん?  シン ???


「えっ、うん?帰って、来たんだよね………?で、なんで??」

はっきりと開かない瞼で金色の瞳を探す。

しかし、何故だか「スポン」と私を取り出した彼は、舐める様に私を検分し始めた。


あれ…………??

別に?なに、も??
いや、されなかった訳 じゃ ない  うん???


多分、姫様に交代してから。

いつもの様に、記憶は、無い。


一緒に自分を確認し出した私をチラリと見る、金の瞳。
しかし無言でチェックを続ける様だ。

それなら、と私も自分の髪や、手足、服装を確認し始める。
アザは、濃くも薄くも、なっていない。

うん?
なら??

「あ」

思い出して、ふと胸に手を当てた。

しかし、心臓は。
見える訳では、ない。

「うーん?」

粗方チェックをし終わったのか、その私の様子を無言で見ていた、金色は。
いきなり、私の胸に手を当て、じっとそこを見つめ始めた。


え ち  ちょ?

 ちょっと??  気焔  さん???


曲がりなりにも、年頃の乙女の、胸である。


 え?  無いの? 恥じらいとか 

 私は ある けど  ???


確かに、「そこ」は。

「胸」ではなく、「真ん中」では、あるけれど。

感覚を集中していた自分の顔が、どんどん熱くなってくるのが、分かる。

彼の手の熱さ、指の位置、その細部が感じられると共に、汗が出てきた。

いやいや
ちょ
待って?

おかしい  よね ???


「気焔、さん???」

「…………む? ああ」

えっ

「ああ」って、なによ、「ああ」って!

事も無げに、手を離した彼は満足そうにこう言った。

「うむ。」

「へっ?」

えっ?ちょっと??

何の確認???
それ位は、教えてもらう権利、あると思うけど???


「だって年頃の乙女のそこを触っておいて「うむ」とか「ああ」とか、無くない???それはやはり許されない事であってきっとハーシェルお父さんなんかに言った日には大変なことに………」

「なにを…………いや、すまなかった。」

うん?

すまなかった、じゃないんですけど???
この、私の乙女心をどうしてくれるんですかね………。


しかし。

恥ずかしくて、金色の胸に顔を埋めながら愚痴っていた私に、説得力は何故だか無い。

嫌な訳じゃ、ない。
駄目な訳でも、無いんだけど。

……………いや?駄目か??


「すまなかった。」

「ポン」と取り出され、優しい色で、そう言われてしまったら。

「…………うーーーん。うん。」

そう、言うしか無かった。


多分、金色が「確かめたかった」理由も、解るし。

私も「何もされなかった」訳じゃ、ないと思っている。
触れられては、いないけれど。

きっと「内側」に干渉された事は、分かるからだ。
それを内緒にされた、ならば。


まあ、嫌だよね…………。


静かに凪ぐ、金の焔をじっと見つめていた。

確認が済んだからなのか、落ち着いた色を浮かべた瞳、いつもの様に私の髪を梳く、手。

ああ
眠く、なっちゃうな…………


ぅん?

小さく響く音と、振動。

「………皆、待っている。」
「うん?」

自分のお腹の音で、ハッとした私にそう言う金色。
恥ずかしくない訳では無いが、いつもの事だと諦め、普通に疑問をポロリと漏らす。

「待ってる?シリー?」

ご飯の支度をしてくれているのかと。
そんな軽い気分で、訊いた。

へ、行ってから。三日も寝ていたのだぞ?」

「は?みっか???」

仕方の無い目を、久しぶりに見ながらも驚いてパッと離れた。

道理で。
目が、パッチリ開かない訳だわ…………。


「も~~~!早くそれ言ってよ………。」

とりあえずスルリとベッドから降り、着替えをつかんで緑の扉を押す。

「…………ありがとう。覗くなよ?」

そうして、久しぶりのセリフを言って。

とりあえずはスッキリする為に、森のお風呂へ入って行った。





「成る程、だから金色あの人がああして、うん………。」


「いっぱい」「満ちてる」
「いいね」「美味しい」「ふふふ」

青縞の廊下を、静かに歩きながら独り言を言っていると調度品達の声が聴こえてくる。

そう、お腹は空いて、いるけれど。

きっと「あの色」に満たされていた、私は星屑を撒き散らしながら歩いていた。
食堂までの、道中ずっと。

「喜ばしい」、調度品達とスピリットの褒め言葉を聴きながらテクテクと歩いていたのである。


「おはようございます………。」

そうっと、食堂の扉を開ける。

「ああ、待っていたよ。」
「え!イストリアさん!!なんで??やだ!お風呂見ますか???」

いきなりテンションの上がった私を呆れた目で見ている本部長、しれっとしている狐、静かに壁際にいる金色と、イストリアの隣に座る朝。

なんだか食堂には、みんなが勢揃いしている。

「うん?なんか、あるんですか?」

いい香りがするスープをシリーが運んで来るのが見えて、いつもの席に座った。
ウキウキしながら、「何の楽しい話題か」と身構えて。


「準備が出来たんだ。」

「えっ。」

瞬時に萎んだ、心。

眉が下がり、仕方の無い様に細まる薄茶の瞳に、体勢を立て直して顔を上げる。

なにも「今すぐ」に。
行く訳では、ないのだ。

自分にそう言い聞かせて、あれこれと内部を確認してみる。
心配事は、粗方解決した筈なのだ。

きっと、今できる事は殆どやりきったし………。


いやいやいや 別に?
帰って、来るし??

それに、シンに「あれ」もしてもらったから大丈夫だし………

あの「心臓の奥スペース」って。
結局、なんなんだろうか。

うん、でも多分、は「行けば解る」系の話だね………。

それで?


「………うん?結局、私と………」

そう、次の扉へ行くのは。

誰なのか。

まだ、私は聞いていない。
意見を言っても、いないのだ。

でも、きっと。


チラリと視線を紫へ投げる。

意味深に私を見つめる、その深い色はやはり「そうだ」と、言っていて。

「それ」が指し示す事は「私達以外は 入れない」と、いう事である。

…………まあ。

そう、だよね………。


そもそも「長しか入れない」と、言われているのだ。
なんたって、「海底墓地」でも、ある。

自分一人と、石達ならばなんとかなるかと、思えるけれど。
「普通の人間」が、入ってどうなるのかは。

やはり、私も予測ができないのだ。


まあ、私も「普通の人間」ですけどね………。
うん。

チラリと白衣に視線を飛ばすと、珍しくこちらを見ている茶の瞳と目が合った。

「そもそも、アリスから。「お前一人で」とは、言われているんだ。」

「あ、やっぱり。そうなんですね…。」

解っていたが、些かしょんぼりするのは許して欲しい。
みんなで行く訳にいかないのは、分かるけど。


………でも、いつか。
みんなで「海ピクニック」とか。

行けたら、楽しいよね………??

「お前が寝ている間に、打診があった。だろう、と。まあ、俺達に出来る準備など、ほぼほぼ無いからな。とりあえずは…。」

「これを、用意したよ。君ならば。が、いいかと思う。と、言うか「海底」なんて言われて、思い浮かばなかったのも、あるけどね?しかし、何処でも。これならば君の力にはなってくれるだろう。」

ウイントフークの言葉を引き継いで、イストリアが差し出しているのは水色の小袋だ。

あの、私が持っている臙脂の袋に、似ている。

「………これって…?」

チラリとその、水色と二人の髪色を見比べてみた。

どう見ても。
同じ、色だったからだ。

「そうだな、アレと同じ様なものだ。」

「私達からの餞別だ。なに、大したものじゃないがね。君が「ここだ」と思った時に、開けるといい。」

「…………ありがとう、ございます。」


手のひらに乗る、大きさ、無地の水色。
素朴な生地で作られたそれは、イストリアの店にある生地に似たシンプルなものだが少しだけ刺繍が入っている。

何かの、文字の様な紋様の様な。

読めないけれど。
質問するのは、止めにしておいた。
きっと「お守り」にも、近いんだろう。

二人からはそんな空気が流れていたし、聞いたら泣いてしまいそうだったからだ。


「なにしろ。行って、帰って、おいで?なに、不老不死など無ければ無いで、いいんだ。長が守っているという「その場所」を、見て、帰って来るといい。」

わざとだろう、気軽にそう言うイストリアに頷いて、視線を滑らせる。

「入れそうなら、後で行くのもいいな。」

そんな事を言うのは勿論、本部長である。
確かに。
「海底墓地」なんて素敵な言葉だけ、聞けばこの人は絶対に行きたいに違いない。

「ていうか。海、って…………?」

「ああ、無いな。」
「勿論、無いよ。」

「えっ!…………ですよね、じゃあ、うん、頑張ります。」


二人の変わらぬ様子を見て、ポワリと温かくなった胸。

そのまま、イストリアが示してくれたお皿にスプーンを入れお腹も温かくなってきた。
やはり、お腹は空いていた様だ。


ゆっくりと喉から胃へ伝う温かさと、素朴なスープの旨味。

少しずつ、それを身体に入れながら話しているみんなを、見ていた。

もう、みんなは関係無い話を賑やかにしていてなんだか面白い。
造船所や子供達の話、この後イストリアがこの区画を見回る計画など、楽しそうな話題だ。

それなら?

準備も兼ねて、私が案内した方がいいな??


暗くなる様な、事じゃない。

私達は、大丈夫。

チラリと視線を投げた、金色と目が合って「大丈夫」と合図をすると朝とも目が合った。

きっと私が寂しがっていると、思っているのだろう。
少しだけ心配の色を含んだその瞳にも、頷いておく。

「大丈夫、ちゃんと無事、帰って来るよ」そんな気分でウインクまで、したら。

なんだか溜息を吐かれたけど、安心したのだろう。
くるりと椅子の上で丸くなった。


「さ、イストリアさん、どこから見ます??」

そうして、出発前の元気をチャージするべく。

青の空間探検と洒落込む事に、したのであった。







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