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8の扉 デヴァイ
実際問題
しおりを挟む「てかさ。思うんだけど、私的に。「不老不死」って、「死なない」んじゃなくて、「死ねない」んだと、思うんだけど…。」
「まあ、そうね。」
それって。
「いいもの」なんだ、ろうか。
諦めた様に体を起こした朝は、欠伸をしながらそう答える。
「ヨルは。不老不死に、なったらどう、する?」
そう、突然私に尋ねたのは、緑の瞳の大きい子。
いつの間に起きたのか、隣にいるフォーレストだ。
「え?うーーん?でも、私の場合だと………「魂は死なない」?「無くならない」?…「繋がってる」って、知ってるからなぁ………だから??うん?でも…………。」
「死ぬ」のと「終わりがくる」のは、違う。
なんとなく、そう思った。
「魂」は、死なないけれど。
「終わり」は。
来るのでは、ないだろうか。
スポン、と堕ちた自分の「なか」。
沢山の「色」、「重い色」も「軽い色」も様々な種類、重さ、厚さと匂い、沢山の「私」が渦となり「今の私」の周りをぐるぐると廻っている。
どれも、これも。
もう、「充分」「やりきった」、色だ。
「だって、…………私は、もう…………。」
繰り返さない って。
これ で お終い だ と。
思った 筈なんだ
決めた 筈なんだ。
もう、次へ。
進む、べきなのだと。
この輪を、抜けて。
あの、光の元へ 還りたい の だと。
何処で?
思ったんだ、っけ……… ? ?
その時、キラリと上の方で何かが光り、意識を外へ向ける。
目にパッと映るは、スフィアの虹。
あれが光ったのだろう、反射的に窓へ滑る、視線。
そこへチラリと見えた、鳥達の色の名残を見つめていると、段々と思考が戻って来た。
「…………えっ。なん、か。とりあえず不老不死は、要らないかも。」
「そうだろうね。」
静かな魔女部屋、少し斜めに入る様になった光。
その角度の違いに目を細めながらも、照らされているカードを見つめる。
白い箱の装飾が、光を受けまたキラリと、光って。
空間に 過ぎる 光
何か が 閃く 瞬間
………これかな?
あの「違和感」。
さっきウイントフークに言われて、意外だったのも、あるけど。
私 は
「このままの私」で。
あの人と
ずっと ずっと
いたい訳じゃ ない な ???
なんでだ、ろうか。
「ずっと一緒にいたい」のは、そうなんだけど。
「なにか」が、違うのは、分かる。
うーーーん。
でもな…………とりあえず、そのうち?
わかる、かぁ…………? ? ?
腕組みをして、ウンウン唸り出した私を他所に朝が気になる事を言い始めた。
私を構っていたら、全く話が進まない事が解っているからだろう。
「でも、そもそも何の為に。それが、欲しいのかしらね?ここだって、そう長くない事は解ってる訳でしょ?あの爺どもが「自分達でやる」とかそんな愁傷な事、考えてるとは思えないんだけど。」
「まあ。そう、思う?やっぱり??」
やはり朝も、私と同じ様な事を考えている事が分かる。
長老達は、「私達がやる」と言っていた、ここの力のこと。
「維持」なのか、「繋げる」のか。
それとも「長の代わり」を、誰かがやるのか。
それは分からないけれど、そもそも「不老不死になったから」って。
長の様に、ここの「軸」に?
なれるものなのだろうか。
それと、これって。
違うんじゃ、ないの???
「でも。私にその目的を教えてくれるのか、分かんないよね………聞く権利だけは、あると思うんだけど。てかさ、目的がない不死なんて、ある意味罰ゲームみたいなものだと思うんだけど。それも、とびきりの。」
「まぁね。ずっとこのまま、贅沢三昧できると思ってるのよ。いつの世も、耄碌した為政者はそう思うらしいわよ。」
「ふぅん。…………ずっとずっと、続く事なんて。あり得ないし、それじゃ楽しく、ないのにねぇ…。」
「まあね。」
「でもさ。なんで?結局、そういう人って「変わらない」と思ってるんだろう?だって、自分だって子供から大人になったし、周りだって勿論、変わってく。自分だけ、そのままなワケ、なくない??非現実的だよね??なに、みんなが不老不死になればいいの??え?自分だけなりたいんだよね??………意味がわかんない…………。」
ぐるぐると頭を抱え始めた私を見て、溜め息を吐く朝。
呆れた様な声を出しているのは、何故だろうか??
「あんた。…………まあ、仕方が無いのかも知れないわね。ずっと前にも言ったけれど。」
うん?
私の記憶力を侮っている様だ、朝は。
ずっと前の事なんて。
覚えている訳が、ない。
「現実を見る、「勇気」が無いんでしょうね。」
「成る程」を、顔に貼り付けている私を見ながら、話は進む。
「ずっと、目を逸らし続けてきて。今更、現実なんて見れないのよ。目を開けれないの。だってやっぱり、「本当のこと」は優しくないし、ここも滅びに向かっている。「震え」の事だって。そうだって、言われてるでしょう?でも現実的な対策なんて、してないし、きっと思い付かないんだろうけど。」
「そうしてずっとずっと、誤魔化し続けて。「得られるもの」って、何なんでしょうね。………挙句に、「不老不死」でしょう?なんか、もう、とりあえず………次、行きましょうか………。」
パタリと転ぶ様に寝転んだ、その灰色の毛並みを見て。
くるりと緑の瞳と目を、合わせた。
うん。
気持ちは。
解るよ、朝…………。
「ねえ、でも。現実問題、あの人達って。ここを、なんとかできると思う?」
解っていて、訊くこの質問。
しかし緑の瞳は、静かに私の意図に対して肯定を映しているだけだ。
やはり。
あの人達は。
「なんとかするつもりがない」し、「なんともできない」んだろう。
「えーー。でもさ、それなら不老不死になっても、この世界が滅ぶんじゃ…意味、無い…………」
ふと、思い浮かぶはあの、船。
え?
ウソでしょ??
いやいやいやいや、でもまだ完成しない予定…………
いや?
バレて? ない? よね ???
「ちょ、ちょっと書斎………!!」
「 」
朝が何か、言った気がしたけれど。
とりあえず「嫌な予感」を打ち消すべく、勢いよく扉を開け走って、いた。
青のホールを無言で横切り、調度品達も無視してあの白い扉を目指す。
背後にフワフワの気配を、感じながら。
フォーレストも意外と足が速いな、と思う余裕はあったけれど。
なにしろ子供達の無事を確認するべく、勢いよく扉を開け放ったのだ。
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