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8の扉 デヴァイ

生贄の定義

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「て言うか、結局。どうなったんですか?ガラスは?女の人達、喜んでました??」

明くる日の食堂にて。

ピッタリと金色に付き添われたままの私は、サラダをモクモクと頬張りながら隣のテーブルの白衣を見ていた。


何故だか来るなり隣のテーブルへ座ったウイントフークは、何か突っ込まれたくない事があるのだろうか。

いつもの様に、向かい側に座った狐と共に軽い朝食をマシロに頼んでいる。


あの後、結局千里にメモの内容は訊いていない。
多分、訊いても教えてくれない系の、やつだ。
あの、書き方は。

すっかり狐の行動をマスターしたつもりの私は、しかし。
しっかりとジットリとした目を向けながら、極彩色の毛並みを眺めつつ再び口を開いた。

あれはとりあえず、仕方無い?として………畑は、流石に潤いましたよね?」

「まあ、そうだな。」

歯切れ良い返事はしかし、キッパリとそこで終わり何故だか詳細を教えてくれない本部長。
いよいよもって、「なにかあったのか」と心配になってきた。

しかし私のソワソワが伝わったのか、何やら狐が尻尾で合図をすると。
顔を上げた本部長は、仕方無さそうに話し始めた。

「そう、心配する様な事は何も、無い。」

「ただ、星が降って畑は戻り、光も降って。畑が元通り以上に成長して、子供達が喜んだ、だけだ。」

「えっ。」

「それに。女達は、家にもよるが畑へ行ける様になった。まだ、少ないだろうがな。しかしその所為でこちらが騒ついているのも、事実だ。疲れているだろうし、暫くは大人しくしてろ。」


????

既にこちらを見てすらいない、白衣から珍しい言葉が出て来て、思わず目が、丸くなった。

狐がこっちを見て、ニヤニヤしているけれど。

「えっ、なんか。ありましたよね、それ。」

確実に、おかしい。

しかし、もう一度大きな溜息を吐いたウイントフークはいきなり変化球を投げて来た。

「お前。この間、ラピスへ帰った時「なりたいもの」の、話をして。「ただ在り 祈ること」と、言ったのだって?」

「えっ?………うん、まあ、はい。………そう、ですけど………?」

 それが なに か???

「いけませんでしたか」的な顔の私を見ながら、一言一言を、ゆっくりと発する眼鏡の奥の。
茶の瞳が、なんだか怖い。


「この、世界では。「お前を長の代わりにする」事を、狙っている奴がいる事は知っているな?」

「長がしている役目、が何なのか。分かるか、お前は。」

、やってをしているのかは、知らんが。多分、お前が意図している事と、近いものだと。」

「俺は、考えている。しかも、「ヨルお前」だしな。」


「うん?……………………えっ??」

直ぐには落ちて来ない、その意味。

しかし、徐々に滲みてくる言葉の意味は。


「長の代わり」「祈り」「ただ在る」

「生贄」「この世界の 軸」


「えっ?………えっ??そんな、こと?あり、ます???」

「???」顔のまま、その眼鏡の奥を見つめてみるけれど。

「お前が、、言ったんじゃないか。」

「えっ。……………まあ。そう、かも。」


シン、とする食堂、奥からカチカチと茶器を揃える音だけが、聴こえて来て。

思わず、金の瞳を確認した。


 えっ やっぱり  私?

 まあ   言った わ


しかし、金の瞳の中に咎めの色は見当たらない。
それを見て、少しはホッとし小さく息を吐いた。


そうして。

額に手を当て溜息を吐いたウイントフークは、そのまま食堂を出て行った。

「とりあえずこれ以上誰にも、言うな」そう、言い残して。






「そう言えばすっかり忘れてたわ………私、「生贄」にされそうにも、なってるんだったわ………。」

「まあ、それはあいつらがさせないでしょうけどね?とりあえず人間は、まだいるでしょうね。」

「だよね…………。」

朝を付き添いに魔女部屋へやってきた私には、未だ「お目付役」が付いている。

あれから特に、異常は無いのだけれど。

この「生贄」宣言の所為なのか、祭祀の所為なのか、はたまたガラス関係か。

心当たりが有りすぎる私は、特にそれについて文句を言うこともなくのんびりと過ごしていた。

なんだかんだ、いつも誰かが側に居ることは。
特段、おかしな事でもないし。

それに大概、一緒に居るのは朝か、あの極彩色だ。
ある意味いつも通りの生活だが、廊下でも、お風呂でも。

猫がいるか、狐がいるかの違いなのである。

ま、あの狐はお風呂には流石に来ないけどね………。


ブツブツと呟きながら、文机の上に乗る小さな石達を眺める。

なんとなく今日はバーガンディーではなく、机の前に座ったのだが。
多分、自分の中では「ガラスがどうなったのか」、気になっているのだろう。

カラフルな小石を弄びながら、いつもの様に朝に独り言を漏らす。
聴いているのか、いないのか、既にソファーで丸くなる灰色の背中を眺めながら、とりあえず自分の頭の中を確かめる様に、順番に並べていった。


「ガラスは………とりあえずフリジアさんとメルリナイトに任せた方が、いいかな…」
「畑はイストリアさんで、いいでしょう?」

「光も大体、繋いだし?デヴァイここも、少しずつ明るくなる、かなぁ………。」
「…………いやいや、でも。あそこ銀の区画はまだ…流石にブラッドのお父さんを光に………いやいやいや。そういやベオ様、帰ってこないな??レナと話したかな??」

「………?でも?………その、「生贄」の件が解決しないと?移動できない、って事は………まあ、無いか。」

そこまで言って。

やはり、自分が「まだ移動」のが、分かる。


「だって、さあ。なんにも解決?してないし、貴石の事もそうだけど、結局?「世界」を?「繋いで」??…………うん???」

自分で自分の想像に、こんがらがった、所で。

タイミング良く、返事が来た。

「別に誰も。ここの連中は、あんたに解決してもらおうとは、思ってないわよ。だから、「依る自分がどうしたいのか」考えなさい?」

「…………だよね…。」

確かに。

誰一人と、して。

「私に」、ここに留まれとは言っていないし、この世界間の問題も「俺達の問題だ」と。
以前からずっと、言われているのだ。


その時、パッとあのアイギルの美しい紺色の瞳が 過ぎった。

「…………うーーーん。でも、別に。私、生贄になるつもり、無いしなぁ…。て、言うか長に会わなきゃ?シンは??てか、世界が繋がれば、解決しちゃわないの、これは。」

「まあ、そうかもだけど。でも、ウイントフークが言いたかったのは「そいつらの目的」と「あんたの目的」が、被ってるって事でしょ?」

「………まあ、そうだね??」

「まあなにしろ何処でをやるにしても。依るの目的はその前に姫様を探す事。その後は…………どうなんでしょうね。」

「…………。」

なんだか、答えようの、無い。

微妙でしかし、核心を突いたその朝の言葉。


私がぐるぐるの沼に嵌るのが分かっている朝は、そのまま静かに背中を上下させている。

その、ふんわりとした灰色の毛並みを、ボーッと目に映しながら。

私の頭は、予想通り自分の「なか」へスポンと落ちて行ったのだ。








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