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8の扉 デヴァイ

それが発する なにか

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「いや、ごめんごめん。」

「………えっ、駄目でした??」

「いや違うんだ。やはり君は凄いな、と思ったんだがその提案と君の説明のなんというか、うん、とりあえず面白かったんだ。」

イストリアは、そう言うけれど。

なんだか腑に落ちないのは気の所為だろうか。
しかし、この人に全く悪気がないのは分かる。

だからとりあえず、続きを説明する事にした。


「もしかしたら、デヴァイ向こうでは光らないかも知れない、って言うのも分かるんです。それに、ウキウキしないかもだし?でも、多分側にで。なんか、いい効果みたいなものがあると思うんですよね………あの、なんか、花とか癒し石みたいな。」

「ああ、確かに。はあるだろうね。」

お茶を一口飲んだイストリアは、冷めている事に気付いてお代わりの支度を始めた。
その手元を見ながら、ふと思い付いたことを口にする。

「イストリアさんは。例えば、ガラスに力を込めたとして。石と同じ様に、使う………と言うかこの世界で言う「石の代わり」に、なると思いますか?」

意外と、返事が降って来なくて。

手元にある視線を、垂れ下がる水色の髪へと移してゆく。
辿り着いたイストリアの顔は、ただ優しく微笑んでいるだけで、そのままポットにティーコゼを被せると。

ストンと座って、私の顔を、見た。


「ふむ。君は、その根底を覆す質問を、してしまうかね?」

少し揶揄う様な、困った様な。
複雑な色を宿した瞳が私にそう問い掛ける。

しかし、私に隠すつもりはなかった。

「公にしてはいけないこと」なのかも、知れないけど。

あの、白の区画で。

「全部、隠さなくていい」と。

とりあえずあるものを全部、明るみに出して。

その上で「選択」して行くことが、大切だと思ったから。


「問題が無いとは、言えないけど。でも、「本当のこと」だし。「争いが起きるから」とか、色々理由はあると思うんです。でも、実際「ガラス」じゃなくたって。「チカラ」を持つものはあると思うし、本当は全部だとも、思うし。」

「どれでも何でも、程度の差はあれど力を持っていて、また、力を込めれば石の様にもなって。人も同じで、みんなが力は受け取れるし。世界のチカラは偉大で、きっと足りない事なんか、無くて。ただ、方法が分からないとか気付いてないとか、隠されてる?いや、ずっと誤魔化されて忘れちゃったのかな………うん?こんがらがってきた………。」

言いたいことが行方不明になって、頭を抱える。

しかし、流石イストリアである。
大体、私の言いたい事は伝わっていた様だ。

「確かに。君を見てると「そうだろうな」と、思うよ。」

「しかし、それをどう、やるかだよな………まあそれはこちらの仕事でも、あるんだが。」

ゆっくりと椅子に凭れながら、カップを手に取る、その手を見つめていた。

とりあえず、私の言いたい事は言い切ったから。

それについてきっと、意見を述べてくれるであろうこの人の口が開くのを、待っていたのだ。



まったりとした光が降りる、中。
両手で持ったカップ、丁度いい温度のお茶を一口飲む。

テーブルの小花達が揺れ、ふと顔を上げるといつの間にか見られていた事に気が付いた。

「しかしきっと、やはり素材の持つ力というものも、無視できまい。君はが、何だと思う?」

私の視線を受け、ゆっくりと口が開かれる。

「素材の持つ、力………。」

「そう。石、ガラス、それ以外にも言うなれば木や花、人の作った物でも。きっと力を持つものはあると、………君は思っているのだよね?」

「はい。………なんかウイントフークさんにも、そんな様なこと訊かれました。」

「うん?あの子もか?………フフッ、それで君は何と、答えた?」

優しく微笑む顔がまた、「お母さん」の顔になって私の胸も温かくなる。
あの人ウイントフークは、私の前ではあまり笑わないけど。

やはり、笑顔も似ているのだろう。

「うーーん、その時は「私の世界」との違い、みたいな話をしていて。私の世界は、自然も多いし太陽も月も、あって。かなぁと、思ったんですけど………。」

うん?

どう、だろうな??
でも。

こちらの世界でも。
大きな、力を持つものはきっと、あると思う。

あの石柱だって、そうだ。
この島の、核となるもの。

大きな、大きな石窟だ。

「素材」

それは「元」となるもので。
「器」に、近いんだろう。

「チカラ」を込める、込もる、という点で言えば。
やはり、「私達のコップ」にも、近いもので。


「ん?………でも、そうするとやっぱりチカラは人に溜められる…えっ、いやいや、今その話じゃなくて…でも。」

顔を上げ、薄茶の瞳を真っ直ぐ、見た。

「人でも、物でも。チカラを受け取り、それを溜める?持つ?ことは、やっぱり可能で。その、「容量」?「許容範囲」?「限界」の、違い…なの、か…………???」


私の視線はピタリと留まったまま。

薄茶の瞳は緩く開閉し、様々な色を映している。

多分。

イストリアも、考えている事は一緒なのだろう。


この世界で言う、「力を溜めている人間」「軸」

そう、人でも、物でも。
が指す事は。


くるりと変化した瞳が閉じて、私も頭を切り替えることにする。
いや、今この話は。
少し脇に、置いておいた方が、いい。

この話は今解決できる内容では、ないし。

そもそも、色んなことの「大元」でもこのある内容はしかしきっと、この祭祀を経てまた変化するのだろう。

「力のあり方」「それぞれの色」

これまでにあまり省みられなかった内容が、きっと変化する。
そう思っているであろう事が、イストリアの瞳からも感じ取れたから。


一旦頭を振り、大きく息を吐いた。

薄茶の瞳をもう一度見て、その色を受け取って続きを考える。
今の私の仕事は「素材の持つ力」を、考えることだからだ。


うん?
しかし。でも?

「素材の持つ力」?

「うーーーーーーーん。」

 石 大きさ

     透明度   希少性

   ガラス    陶器   工房の 作品

 白の礼拝堂   精巧な彫刻

    絵  カード   加工されたハーブ


どれも、素敵なものでチカラは込もるし、込められるとも、思う。

でも。
やっぱり?

「大きい」「固い」「純粋なもの」

そんなものの方が、蓄えられそうな気はする。

「やっぱり、「石」なのかなぁ。大きさ?容量?で、言えば。」

唸りながらもそう、呟くと静かに返事が返ってくる。

「ならば、石は石でも。どんな石が、沢山力を持つと思う?何が違うんだろうか。大きさなのか、透明度か。君の世界、こちらの世界。あの子と話した時は、違った?」

「………なに、が。」


あの時?
私は結局、なんて答えたんだっけ??

確か。

    自然があるから  お日様

  山 川    空   宇宙?

  
「ああ、「源」だ。源があるから?なんだって、言ったんだっけ??ん?」

「源?」

「?」顔をしているイストリアの顔を見ながら、私も首を傾げる。

あの、時は?

千里が話を引き継いだんだっけ??
私はどうして。

「源」へ、行き着いた?

そんな話の流れだったっけな…………???


少しぐるぐると考えていたけど、思い当たらない。

でも、私の多分「なかみ」「真ん中」が答えたのだろう。

「源」とは、具体的には全く説明できる気がしないけれど。

その、答えが。

「合っている」事だけは、解るのだ。


 私の「真ん中」は。 それだと、言っている。


「んーーー?でも多分。源って、なんか、全ての始まりと言うかなんにも無い様に見えて、全部あるところ、みたいな??そんな、イメージです。私的には。」

さっぱり要領は得ないけれど。
これ以上の説明は、できる気がしない。

しかし流石はイストリアである。

私の説明である程度は予測できた様で、深く頷いてはいるけれど。

再び黙ったまま、私の事をじっと見つめていたのである。








 
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