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8の扉 デヴァイ

反応

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「え?で、結局。私のまじないなら、大丈夫そうって事なんですか?」

「まあ、そうだな。」
「なんで??」

頭の中には「???」がいっぱいだ。


朝からサラダを突きながら、口を尖らせている私の事をおかしな目で見ているのは勿論本部長で、ある。

昨日の件で、朝イチ質問したのだが。
案の定「何故分からんのだ」的な目で、見ているのである。

あの………みんながみんな、あなたみたいな脳みそ持ってないんですけど………?


反対にジトっとした目で見ていたら、溜息を吐いてパンを置いた本部長。
どうやら説明する気になった様である。

「て、言うか私、本人なんだから教えて下さいよ。また何かに「使う」んでしょう?」

「まぁな。その祭祀で降らせるガラスに込める、まじないはお前のまじないだ。それが、だという話だ。」

「だから。なんで、ですか???」

「言ったろう、千里が。「純度が高い」んだよ。お前のまじないは。」


だからさ…………

解っていない私の顔を見て、少し考えている茶の瞳。

きっとそれなりに分かりやすく言おうとは、思っているのだろう。
いや、そう思いたい。うん。


「何というか、お前のまじないは。「色」が、まず多いこと。それに、その一つ一つが独立して純度が高く、しかし「混ざらない」訳でも、ないんだ。」

「はい。」

よく、分かんないけど。

「ヨークの所で試したんだろう?まじないが「反応」する、と。だから降らせれば、其々の色と反応して光る、筈だ。だがしかし。」

「お前以外のまじないだと、難しいだろうな。そういう事だ。」

「えっ。」

ちょ、本題は?
なんで、難しいの??

そこへ横から返事が、来た。
隣の椅子にいつの間にか座っている極彩色だ。

「混じり気があると、濁るからな。最悪反応しないだろうし、なにしろお前の「色」は。純度が高いから、美しく「反応」するだろうよ。」

「…………混じり気の無い………反応。」

なんか。

それは、分かる気がする。

絵の具とか。
やっぱり、「色」って、ことだよね??


なんとなく、まじないには色があって当然だと思っている私。
勿論、それを研究しているウエストファリアの様な人もいるし、「まじないの色」はこの世界だって重要だ。

でも。

を。

個性、とか「その人自身の色」と、捉えているかと、言えば。

「なんっか、違う気がするんだよね………。なんだろうか。」

うーむ。

が。違うのだ、ろうよ。お前は独特だからな。」

「………そうなの?」

石から、見ても??

なんだか納得している本部長、いつの間にかその隣にいる朝も、頷いている。

「依るは、ねぇ。なんて、言うか。まあ、素直なのよね。」
「まあ、単純とも、言うな?」

「しかしが、一番だ。」

「えっ、うん、はい。ありがとう?」

褒められてるのか貶されてるのか。
よく、分からないけどとりあえず頷いておいた。

でも、結局。

「純度」って、どういうことだろうか。


席を立った本部長と朝、目の前の動く気配は感じていたけれど。

私の真ん中は「純度」について、もっと掘り下げろと、言っている気がして。

そのまま、シリーが運んで来てくれたお茶の支度を見ながらじっと考え込んでいた。



少し燻んだ草の香り、これはイストリアのハーブティーだろう。

白いシンプルなカップに映える、色。
薄茶のあの瞳に似た色を眺めながら、腕組みをしていた。

「冷めるぞ。」

「えっ、うん。うん?」

珍しいな?
この人がまだ、ここに居るなんて。

未だ隣に座る極彩色を見て、少し驚いた。
用が済めば、さっさと何処かへ消えていく事が多い、この狐は。

何故未だに私の隣に座っているのだろうか。


ちょっと、訊いてもいいって、こと………?

チラリと紫の瞳を確認する。

ふむ。
きっと答えるつもりはあるのだろう。

まだここに、座っていることだし?

そうして自分の中のモヤモヤを、口に出してみる事にした。


「ねえ。その、「純度」ってやつだけど。「純粋」とも、ちょっと違うし?なんか、「強くて綺麗」みたいなイメージなんだけど、なんて言うか…うん、なんだ、ろう??」

行方不明の終着点、自分でも何が訊きたいのか。
迷子になった私に、再びこう言う極彩色。

「また余計な事を考えているのか?いいんだよ、お前は。そのままで。それに、…………そうだな。」

うん?

「「お前の純度」と、「俺の純度」はどう思う?「純度が高い」と、定義する時。その時、その基準は?」

「はっ?!?…うん?」

確かに??

違う、な?

「そういう事だ。別に余計な事は考えなくて、いい。まあ、どうせすぐまた戻るのだろうが。お前は「お前の純度」を高めればいいんだよ。余計な事はしてくれるな。」

「余計…………。」

「そうだ。結局、他の事や他人ひとの事に口を出したり手を出したりするから。「純度」は落ちる。いいんだよ、「それそのもの」で在れば。そういう意味で、言えば。」

「今の気焔あいつは。「いい」んだろうな。」

そう言い残して、ヒョイと椅子を降りた極彩色。

その、去って行く毛並みをボーッと、眺めながら。

酷く、納得している自分が、いたのだ。






どこをどう、歩いて来たのか覚えてないけれど私は今バーガンディーに沈み込んで唸って、いる。

あの後「一人で考えたい」と、思って。
魔女部屋へ行こうと、思い立った所までは覚えているのだけど。


「うーーーむ。深い。」

きっとボーッとしながら歩いて来たのだろうと、自分を納得させると再び唸り、深く沈み込む馴染んだ色。

一人掛けには大きい、そのバーガンディーに沈み込みながら深みの増した皮の色を愛で、手触りも楽しむ。

 
 それそのものの 色

 素材  経過してゆく 時間

 在る ということ

 ありのまま そのままで  在る


   存在   もの  ひと  生き物


窓辺の花達に、ふと目をやった。

今日もいいお天気の窓、外を舞う鳥達は日によって色が違い今日は青い子が多い。

その色を見てまた姦しくお喋りをするハーブ達、揺れる小花。
窓は開かないけれど。

あれは、花達が自分で揺れているのだろうか。

まあ、そうだよね…………。

「生きてる」んだから。



 それそのもので在ること

 純度  その 度合い

 私 千里  金色


ぐるりと部屋の中を見渡して。

沢山の、「色」を目に映してゆく。

「くっ、あの狐、いいこと言うな…………。」

確かに、よく解るのだ。

「純度が高い」と、いうことは。

純粋である事とも少し違い、「それそのもの」である事に対して、どれだけの。

「在り方」で、あるか。


「真っ直ぐ」「目的」「進む」

 「余計なことをしない」「混ぜない 混ざらない」

 「それその一色で 在り得ること」

そんな感じだろうか。


私が私であること と

千里が千里であること

金色が 金色で。  ある こと


それ 即ち 


「うむ…………深い。」

全く違う、それぞれの「在り方」。

でも、違うからこそ、良くて。

「魅力的」なのだと、思うのだ。


「確かにの様に、在れたなら。まあ、かなり素敵………美しい、よね。」

私がいつも漏らしてしまう、「美しいな」という言葉。

あれは、心からの言葉で、自然に漏れ出してくる、ものだから。
だからこそ、本当に。

「うーーーーむ。」


「フゥ」と大きく、息を吐く。

顔を上げた私の目に、飛び込んできたのはキラリと光るテーブルのスフィアだ。

虹を映す、それは。

「貴女はどうなの?」と、問い掛けている様で。


「あ、そうだ。「私の純度」を、考えるんだった。」

振り出しに戻って、一旦頭を落ち着ける。
あの二人の「色」は、脇に寄せて。

「私の色」を、どう高めるか。

「それ」を、考えるんだっけな………?


うーーん?
しかし?

「高める」?
「上げる」…………。

「研ぎ澄ませる」うーーん。

なんだろう ?

いや、「どうしたいか」で。
いいんじゃ、ない?


そう、私は。

もっともっと、自分に自信だって、持ちたいし。

芯だって 通したい

真っ直ぐ進める ようになりたい

ぐるぐるしないで あ してもいいのか

迷わず 間違わず  いや?間違ってもいいんだ


 そう 「駄目なこと」なんて、無くて。


全部が全部、オッケーなんだって。

思ったんだ。

なら?
あ、そうそう「受け入れる」よ。

丸っと、全部、自分を、受け入れて。

そのまま、進む。

祈る  謳う  たまに 踊る?

フフッ


      


そして。

 を  高める?


「高める」って。

なんだ、ろうか。

「追求」?まあ、そうかも。

「真っ直ぐ進む」 それも、そうね。

「上げる」うーん、なんだろ上げるって。


 もっと もっと?

 なにか   やること  やって いること を?


 真摯に?  一生懸命?

いや、「頑張る」とは、ちょっと違うな………。

なんだろうか。

真っ直ぐ なんだけど。

緩やかに 軽やかに  フワリと。


 そこに  在る   みたいな。


「柔軟」

あー それもね。


 「他のこと」「他人ひとのこと」


あー はいはい  首を突っ込むな、と。


 「それぞれの 道」 「自由」

   「鮮やかに 進むこと 」


成る程。そんな感じで?

いい、かな???



いつの間にか。

私は、「自分の真ん中」と、会話していて。

いや、実際喋っている訳では、ないのだけど。
私の「問い」に対して「真ん中」が「ポン」と返事を投げて返して、来る様な。

そんな感じが、していた。

そう、あの「愛」が降って来た時みたいに。


 自然に自分の中から、「こたえ」が湧き上がって来ることに、気が付いて、いたのだ。



「うーーーーーーーん。これぞ、自問自答?違う??」

「なに、言ってんのよ。で?見つかったの?着地点。」

「えっ。いつからいたの?」

私の独り言に、普通に応えたのは朝だ。

いつものあのソファーに丸くなっているその姿は、ここで昼寝をしていた事を示している。

「ずっと居たわよ。気付かなかっただけでしょ。」

「まあ、うん、そうだね?」

確かにいつもの事では、ある。

「それで?大丈夫そう?」

「うん、大丈夫………?」

その朝の様子からして、きっとラピスから帰って来た私の事を心配していたのだろう。

確かに、昨日は。
朝から目が、腫れ気味だったし。

その朝の思いにまたジンとして、フワリと蝶が、出た。


「あらあら。まあ、とりあえずゆっくり話してよ。」

「うん。…………ありがと、朝。」

「なによ気持ち悪いわね。」

うん、そのいつもの返事も、いいよ………。


今なら何を聞いても、蝶が出るかもしれない。

そう、思いながらも。

ヒラヒラと舞う蝶、窓辺の揺れる花達を目に映しつつ。

ゆっくりと、自分の中身を整理し始めたのであった。

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