上 下
626 / 1,636
8の扉 デヴァイ

揺り籠の愛

しおりを挟む

「ねえ?でも、さぁ………?」

コポコポと心地良い音が響く、この、ガラスの様な透明な空間。

遠く、近くに見える私の髪にも似た薄水色、雨の祭祀からは土の色や黄色も含み、時折紅色なんかも奥の方に見える。


なにしろ色数が増えて幻想的な空間から、少しまじないの景色にも似てきたこの、揺り籠の中で。

私は相変わらず、唸っていた。



店を出た後、イストリアとハーブ畑にやって来た私は、やはり疲れていた様だ。

遠くに見える、あの石柱が目に入ってしまってからは。

「あれ………あれに入らなきゃ………」とブツブツと呟く私を、仕方の無い目で見たイストリア。
何故だかみんな、危険の無いこの場所に入る事を推奨はしないらしく、渋々許可を貰いやってきた久しぶりの揺り籠の中。


「ああ……………」

謎の呟き、言葉にもならない声を出し、転がったりふわふわと浮かんでみたり。
そう、ここは浮こうと思えば、浮く事だってできる。
でも「漂う」の方が、正しいかも知れないけれど。


なにしろ頭が思ったよりも疲れていたらしい。

まあ、苦手な話題だったのも、あるし。

正直、難しい話もあった。
いや、難しいというか………?
ややこしい…………のか…………??


「これって………でも、石、なのかな………。」

透けるガラスの様な壁を、ペタペタ触りながら移動して行く。

横にスライドしながら感触を確かめ、通り抜け遊んだ、その感覚から。

やはり、石ではないかと思う。

確か、ガラス質の石もある筈だ。

「何だっけな………名前………?」

名前を覚えるのが苦手な私の、頭の中にはやはりその名は存在しなそうである。

なにしろペタペタと、温い中にある冷たい感触を楽しみながらその中に通るチカラを感じて、いた。

そう、この揺り籠の中には。
私が祈った、あのチカラがまだ薄く残っているからだ。


「でも大分薄くなっちゃったもんね………また、祈るからね………。」

そう声に出しつつ撫でていると、ふと、不思議に思った。


ん?
これ、石、だとすれば?

まあ、石じゃなくてもチカラは通るんだろうけど………でも多分、上のあの石窟と。
同じ様なもの、だよね?

そうするとやっぱり、石………。

石、って、さあ。


思った、筈だ。

何処かで。

「石」は「チカラ」「エネルギー」の、塊だろうと。


何処でだっけ?
でも。
別に場所は重要じゃ、ない。


石が………

 エネルギー   チカラ   に

 なると して?

   確かに。

   私の石では色んなものが、創れるし?


 この腕輪の、石達も??


「えっ。愛、かも??」

「はあい、呼んだ?」

「いや、藍じゃなくて………いや、藍が、愛な?ワケで………???」

いやいや、ダジャレを言っている場合では、ない。


「ねえ?待って。ひょっとしなくても………。」

応えてくれるだろうか。

私の、この問いに。


「あなた達、「愛」で、出来てない?うん?地球、の?宇宙なのか??なにしろ、まあ、とてつもない年月をかけて創り上げられた時点で大分愛だとは、思うんだけど……………???」


そう、が「愛」でなければ。

一体、何が「愛」だと、言うのだろうか。


時間が大事な訳じゃない、かけた年月だけ、愛が込もるとか、そういう訳じゃ、ないんだけど。


「でも。は、愛だよ………じゃなきゃ、こんな美しい、もの。できるわけが、ない。」


キッパリと断言して、腕を上げみんなを見える位置へ掲げる。


この、美しい輝き。

それぞれの色、透明感、ピッタリと嵌る金の腕輪、色のバランス。

いいや、この石達ではなくとも。

みんなみんな、石は美しくて。


私と同じ様に長い、長い年月をかけ育ってきた、石達。

私の肉体外側は、変わるけれど。

この子達は変わらず、ずっと、少しずつ少しずつ成長するんだ。


そう、思えば。


「えっ。奇跡……………。」

「まあ、私達からすれば。人間の方が、奇跡ですけれどね。」

「えっ?なんで??」

そう言ったのは、宙だ。

「だって、あなた方は。どんなに苦しくても辛い事が、あっても。どうしたって叶えたい想いを持ち続け、また生まれてくる。何度消えてもその生命の炎を再び灯し、やってくるのだからやはり勇気が無くてはできない事。私達はずっと長い間「在る」事はできますが、ではないですからな。」

「だからこそ。気焔あれは、変わっていってるのでしょう?珍しいわよね。」

金色の事に言及したのは、ビクスだ。


確かに。

私達の事を「美しい」と、言ってくれて。

自らも変化し始めた金色は、この子達にとっては珍しいのだろう。

て、言うか………?
今迄、そんな石、あったの…………??

無い、よね………?
分かんないけど。


「兎に角、あなた達が愛なのは解った。素晴らしい事よね、それは。うん。」

一人で纏めた私に、藍がこう言う。

「ええ、確かにそうとも言うけれど。それを言うなら、人間あなた達だって、愛よ。」

「えっ?」

「まあ、生きとし生けるもの、みんなとも、言うけれど。だって、生命いのちを繋ぎ、育む事なんて。奇跡と、愛以外に何があるの?でしょう、それは。」


キラリと光る、水色の優しい光。

藍が言うのはきっと、私の「なか」に刻まれている幾つもの。

「経験」「知っていること」「見たこと」「わかったこと」を言っているのだろう。

確かに。

は、解る。


別々の二つが合わさり一つになって、新しい生命が産み出されること。

は、簡単でも当たり前でもないこと。

ずっとずっと、繋いできた奇跡の繋がりの、中で。


いつの間にか………?

「愛」は、何処へ行ってしまったのだろうか。


いつの間に、こんなにも見え難く、遠くへ。

解っている様で、解らないことに。

なってしまったの、だろうか。



当たり前のように結婚して子供を産み育てること。

子供が出来て、生まれると思われていること。

そして同じ様に、またその子も育てて。

ただ、それを繰り返すこと。

「奇跡」は、「愛」は、何処へ行った?

いいや、「奇跡」は忘れてしまったと、しても。

最後に「愛」は、残ってなきゃ、駄目じゃない??


「いや、生まれること自体奇跡だから奇跡も大事だよね…………でもそもそも「愛」、どこ行った??デヴァイなんて勿論駄目だし、ラピス?微妙かも??私の世界…………愛…………愛って。うん??もう、愛って、なに。」

わかった、筈だけど。

解ったと、思っていたけれど。


「えっ。これ、解ってなかった、やつ???」

私が透明の壁の前で一人、ワタワタしているとフワリと、空気なのか、水なのか。

空間が動いた、気がする。

しかし辺りを見渡してみても、何も、見えない。


同じ様な景色の中を彷徨う私、ふわふわと漂う中、薄れていた疑問に返事をしたのは蓮だった。


「イストリアは随分と優しい解釈をしていたけど。「愛」なんて、言ってみれば、ひとつよ。」

その、言葉の意味が分からなくて腕を上げる。

少し不満気な声を出す「愛の石」は、何か言いたい事がある様だ。

「随分と優しい、って。どういう事?」 

「だって、「お互いが愛と思えばそれでいい」なんて言ってるから。愛がずれてきちゃってるのよ。」

「ずれてる??」

「そうよ。」

どうやらこのピンクはご立腹らしい。

「まあ確かに。別の方向から「あれは愛じゃない」「これは愛だ」って言うのは無粋よ?それは分かるんだけど。結局今は、愛は行方不明よ。嘆かわしい。」

嘆いているこの石が、可愛らしくてなんだか面白いと思ってしまうのは、仕方が無いだろう。

笑わない様に気をつけながら、続きを促す。

「そもそもみんな。まあ、依るは気が付いていると思うけど「自分を愛してない」からね。もう、スタートを切ってないのよ。だから他人ひとなんて、愛せるわけが、ない。余りにも自分を蔑ろにしている人間が多過ぎて、この頃力が回らないのは解るでしょう?」

「えっ?…………そっち????」


世界の?

綻びが?


「愛が 足りないから」、ってこと??


「決まってる。だって結局、全部、みんな、最後には。「愛」なんだもの。仕方無いわ。」

「だからこそ、厄介。」
「それはありますな。」

「まあそう教わっちゃってるしね………。」
「それにしても酷いわ。あんまりよ。」


みんながごちゃごちゃ言い出したのは、半分聞いているつもりだったけど。

私は再び嵌ったパズルのピースが、大き過ぎて。


とりあえずの情報を整理すべく、この心地良い揺り籠の中へ解け込んでいったのである。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky
ライト文芸
母親の呪縛から離れ、ようやくたどり着いた 下宿は…実はとんでもないところだった! いわくありげな魔女たちの巣食う《魔女の館》 と言われるアパートだった!

女男の世界

キョウキョウ
ライト文芸
 仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。  再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。  男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。  彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。 ※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

人生和歌集 -風ー(2)

多谷昇太
ライト文芸
人生和歌集-風ー(1)があまりにも長くなってしまいましたので、同タイトルの(2)として新たにアップ致しました。読んでいただくにはこの方がよいかと思いましたもので…。(1)同様に腰を据えてお目をお通しいただき、末長くお付き合いをいただければ幸いです。多谷昇太。 PS:pinterest様より拝借した乞食僧(托鉢僧)の表紙絵の所以はわたしの年令が既に73才となっているからです。もう半分あの世に足を掛けているような身であれば、この托鉢僧のごとき、出家の心意気以て詠歌をしたいという心情の表現なのです。

FAMILY MATTER 家族の問題 : 改題『さよなら、ララバイ』

設樂理沙
ライト文芸
初回連載2021年10月14日~2022年6月27日…… 2024年8月31日より各電子書店より         『さよなら、ララバイ』と改題し電子書籍として配信中 ――――――――      深く考えもせず浮気をした夫 許してやり直す道を考えていた妻だったが果たして ……

café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

yolu
ライト文芸
café R のオーナー・莉子と、後輩の誘いから通い始めた盲目サラリーマン・連藤が、料理とワインで距離を縮めます。 連藤の同僚や後輩たちの恋愛模様を絡めながら、ふたりの恋愛はどう進むのか? ※小説家になろうでも連載をしている作品ですが、アルファポリスさんにて、書き直し投稿を行なっております。第1章の内容をより描写を濃く、エピソードを増やして、現在更新しております。

リンドウの花

マキシ
ライト文芸
両親を事故で失った少女、ハナ。ハナの伴侶である浩一。ハナを引き取る商家の子供である誠志。 三人の視点で語られる物語。テーマは、結婚、出産、育児という人生の一大事。 全ての誠実な人たちにお贈りしたい物語です。

【完結】ホテルグルメはまかないさんから

櫛田こころ
ライト文芸
眞島怜は、ごく一般的な女子大生だった。 違う点があるとすれば、バイト内容。そこそこお高めのビジネスホテルの宴会部門スタッフであることだ。華やかに見えて、かなりの重労働。ヒールは低めでもパンプスを履いているせいか、脚が太めになるのがデメリットくらい。 そんな彼女の唯一の楽しみは……社員食堂で食べられる『まかない』だった。事務所の仕組みで、バイトでも500円を払えば社食チケットがもらえる。それで、少ないセットメニューを選んで食べられるのだ。 作るのは、こちらもバイトで働いている小森裕司。 二人の何気ない日常を綴る物語だ。

処理中です...