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8の扉 デヴァイ
窓
しおりを挟むいつの間にか明るくなったホールには、美しい陽光が差し込んでいた。
いや、元からここは明るいけれど。
「明るさ」の、質が違うのだ。
「なんとなく明るい」ではなく、「陽が差している」に、変化した青のホール。
私はその、中央でただ、謳っていた。
ずっと、多分、初めから、終わりまで。
気の済む、まで。
目を閉じ色とりどりのスピリット達を思い浮かべながら、ずっと謳っていたんだ。
「おやおやあらあら。」
「喜ばしいこと。」
呆れた様な朝の声が聞こえる。
いつものセリフは、フォーレストだろう。
なんだか朝から「美しいもの」が見たくなって、青いホールへやって来た私は、頭上を飛ぶスピリット達を一頻り眺めた後、何処かへ行っていた様だ。
いや、今日は自分の、中だ。
この頃のモヤモヤを抱えたままの私は無意識に発散することを望んだのだろう。
きっと美しいスピリット達を取り込んだなら、それが溢れて。
溢れ出したに、違いないのだ。
頭上に飛ぶスピリット達は、色数を増やし虹の様に鮮やかに白い天井を彩っている。
明るくなった、光が。
それぞれの羽にキラリと光り、時折眩しく「ほら」「見て」と訴えかけてきている様だ。
「うーーーーん?でも、もっと綺麗になったよね?万事解決??」
「なぁに、言ってんのよ。とりあえず報告だけはしといた方がいいと思うけどね。」
「うん………まあ。後でね。ていうか、今日帰ってきた時ソッコーバレるんじゃない?」
「まぁそうかも。」
この頃の私の様子を知っている朝は、特に咎める様子もなく鳥達を眺めている。
フォーレストはホールをトコトコと周っていて、「おや」と言う声が聞こえた。
「うん?」
どうしたの、まで言おうと振り向いた私の目に、飛び込んできた「青」。
「えっ?!」
フワフワの毛並みの向こう、青い空が見える窓が、ある。
て、言うか??
「なにあんた、今気付いたの?創ったんじゃ、なくて?」
「えっ、うん、えっ?全然?えっ、そんなつもり無かったけど??」
しかし、青空が、見える窓である。
そう、あの魔女部屋にある大きな窓と同じ、「外にある空」であろう、雲の流れる景色が映る、それ。
「えっ?本物??」
とりあえず近づいて、確かめる。
「うっ、わぁ~~~~!!」
大きな八角のホールに、出来た大きな美しい、窓。
私の背よりも高いその窓は、庭にでも出られそうな大きな窓で、きちんと確認すると、なんと四つもある。
どうなっているのか、八角の角に出来ているその窓は私達の居住区画とその反対側にある、デヴァイへの通路脇には、無い。
それ以外の通路の両脇に其々配置された様な、その窓はその大きなガラスから陽光を取り込んで白いホールを美しく、照らしていたのだ。
道理で。
違う、と思ったわ………。
多分、私は大きな青の扉側を向いていたから、気が付かなかったのだ。
一応、押してみたけれど、開く様子はない。
「うーーん、はめ殺しか…でももしかして外を創れば出られるんじゃ………。」
「それはあるかもだけど。とりあえずはここまでに、しときなさい。」
「まあ、そうだね。」
ウイントフークの、帰りが怖い。
小さく息を吐いて、ぐるりと天井を見渡す。
明るくなった白は、青をより美しく鮮やかに際立たせていて、思わず溜息が漏れた。
「やっぱ。最高、じゃん………。」
しかしお小言程度は、言われそうである。
そうと決まれば。
とりあえずの問題を先送りにして、さっさと魔女部屋へ逃げ込む事にした。
「でも、歌っただけなんでしょう?」
「そうなの。礼拝室でもないし、石も持ってないよ?なんでだ、ろうね??」
「本人に解らない事は、猫には解らないわよ。」
至極もっともな返事がきて、バーガンディーへ倒れ込んだ。
相変わらずこの部屋の窓からは、燦々と陽光が差し込みプランターのハーブ達はサワサワとお喋りをしている。
そういやホールの植物達を見て来れば良かった。
きっと、気持ち良さそうにしていた筈だ。
「まぁ、戻る時見よう………。」
マッタリとしたこの空間、差し込む優しい光とハーブの香り、この部屋には朝とフォーレストしか、いない。
眠たくなるな、というのが無理なのである。
でも。
なんか。
スッキリ、したな?
多分、私の中にはまだまだあった筈の、モヤモヤが。
無くなっている様な、殆ど感じない程度に縮んだ、様な。
そんな感じがする。
「うーーん?」
謳った、からか。
溢した、からなのか。
なにしろ多分、あの時から大分私の中を占めていたあの濁ったものが、殆ど消化されているのは、分かる。
何故だか今回のアイギルの件で、私は蝶を飛ばす気になれなかった。
正確に言えば、「出せなかった」に、近いかも知れない。
いつもならば「想えば」、飛ばせる、蝶。
しかし理由は分からないがお風呂に入ってみても、フリジアに愚痴を聞いてもらっても。
私の中から、蝶は出て来なかった。
出る時はある意味、勝手に出る。
出し方が分からなくてモヤモヤしていたのかとも、思うけれどそれも違う気がする。
「うーーーん?なにしろ、スッキリしたならば。いい、のか………。」
時間が必要だったのかも、知れない。
悩みたかっただけなのかも?
少しだけ、味わいたかったのかも?
いや………でも中々ヘビーだよね………。
そうだしても、自分の中での消化手段が「謳うこと」と「蝶を飛ばすこと」二つあるならばその方がいい。
手段は多いに越したことはないのだ。
「何だろう………「いろ」と「ことば」の、違いかなぁ………うん、それはあるかも。」
なんとなく、青のホールに着いた時の感情が思い出されて頷いた。
その、違いは分からないけど。
その時、湧き上がってくるものが「いろ」なのか「ことば」なのかはきっと、頭で考えても分からないのだろう。
それならそれで、いい。
「うん。」
そう一人納得して、また深くバーガンディーへ沈み込んだのと。
扉が開いて極彩色が現れたのは同時だった。
「ああ、やっぱりここにいたか。見たぞ?とりあえず、来い。呼んでる。」
「………えっ。もう………?」
不満気な私の顔を見る前に踵を返した千里の、姿はもう見えない。
「今日、帰り早くない?ウイントフークさん………。」
「まあまあ。怒られはしないでしょ。」
「まぁね。分かんないけどね。」
そうしてまだモジモジしている私をチョイと押す小さな子は、今日も「嫌ならいいよ」なんて可愛い事を言っている。
「仕方ない。」
この子に言われちゃったらなぁ………。
この、美しい緑の瞳に、私は弱いのである。
そうして自分の心の安寧の為にフワフワを撫でながら、青い廊下を戻って行ったのだ。
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