上 下
530 / 1,636
8の扉 デヴァイ

祈り 再

しおりを挟む

さあ 思い出してごらんよ

そう ほら


 こんなに  安心で

 こんなに  あったかい

大丈夫だから   さあ  

踏み出して  飛び出して   

最初の 一歩


へぇ     


     ほうら 大丈夫だった


 何も怖くない

 灯りは点っているから

 もう  始まって いるのだから。




瞑っていた目を開けしっかりと辺りを見る。

大丈夫。確認した。

もう迷わないよ

さあ 出発だ


羽を広げ 少し屈んで

飛び立つ準備は オーケーだ


ひとつ  手を打ち鳴らしたなら

始まる 新しい道

新しい なにか 


だから 

言って 乗って  揺らいで

迷って  見て  触れて  感じて

走って   踊って  謳って  


    また 飛んで


さあ 始まるなにかに

耳を 澄ませ。


夜明けの鋭く差し込む光に 気付き

時を知る

顔を上げ 目を合わせ

立ち上がれ ほら 行くぞ


  もう 始まっているのだから。


  ひとりじゃ  ないのだから。












青の空間の奥、白い礼拝室へ入った私は何処からか流れてきた頭の中の声に従い、ただ、謳った。

自分の中から漏れ出してくる「なにか」を、発したくて堪らなかったからだ。


そうして少し、すっきりすると。

光を受け眩しく光る、サテンのベンチに腰掛けてただ、ボーッとしているのである。

一人で、静かに。

この、静寂の中で。

そう、一旦吐き出した頭の中を、クリアにする、為に。



図書館から帰ってから、報告はベイルートにお願いした。
その方が確実で的確だからだ。
私が報告したならば、話は散らかるに違いないのである。


そうして一人、ゆっくりと考えるべく座っている白い礼拝室の真ん中。
私の今の頭の中を、パッカリと広げて検分してみる。


全てのモヤモヤが入り混じりごった煮にされて、今私の前に「どうぞ」と置かれているこの、状況。

しかし、肝心のスパイスは、まだ来ない。

多分、鍵はきっとまだ見えていないのだ。


でも其々が其々の立場でこの世界を、守ろうとしている事だけは、解って。
それが、どんな立ち位置だと、しても。

それならそれで、すっきりと心は曇っていなかった。

この世界に来てから感じていた暗さ、重苦しさ、閉塞感と未来の不透明さ。


もしかしたら。

私のこれまでのイメージ「悪の巣窟」は自ら滅びへ向かっているのかと、思っていた。
もう、この世界を見切り、棄てて箱舟に乗り、何処かへ逃げればいいと、思っているのだと。

自分達、一部の人間だけ助かればそれで、いいのだと。

今でも思っている人はいるのかも知れない。
アリススプリングスの真意は違ったけれど、あの人は一人じゃない筈だ。
「長老達」とは言うけれど、何色の誰が何処まで関わっているのか。

それは私の知るところではない。


「でも、なぁ…………。」

あの、家に入った時の違和感、嫌な感じは無いが誰かにずっと見られている様なあの、感覚。

が。

「あの人を………捕えて………?」

「家」なのか「空間」なのか、それとも何かの「もの」や「ひと」なのか。


その時フリジアの言葉が、フッと浮かぶ。


  「あの家の奥に。埋葬される場所がある」


えーー……………。

それって。

シンが居る場所が、「そう」だって、こと?

いいや。
でも、彼処には。

不浄な感じは、一切、無い。

あの、靄に感じた暗く重いイメージや嫌悪感は一切、感じられないのだ。


でもな…………死体が「不浄」なのか、どうかは。

分かんなくない??

だって別に私達が死んだからっていきなり「汚いもの」扱いされてもな…。

どうして昔から、「死」は。

、扱われているのだろうか。


でも?
多分、私も初めは思っていた筈だ。

しかし、今は違う。

どうしてだろうと自分の中を攫ってゆくと、灰色の雲と「あの場所」が思い浮かぶ。

あの、目を逸らしてはいけない場所。
沢山の人が遺したのであろう「あかし」の場所だ。

自分の周りに小さく風が吹くのが、分かる。


そうか。
そうね。


 人は、美しかったから。


みんな。
昇って。

キラキラと、其々の「いろ」で輝き昇って行く様は。

どうしたって、美しかったんだ。


その、「なかみ」が。

無くなったとしても、「そとがわ」が。

いきなり、「汚いもの」になんて、なる訳が無いんだ。



きっと、本当だったら神聖な役目。

それが、死んだ人を埋葬する、その今グレースクアッドの入り口にいる、長の役目なんだ。


うん?
なのかな?

入り口?
でも、きっとそう。

あの「感覚」は。

きっと、だ。


以前見た木立の中にいる光、大きな金色の水流が走る岩の中、湖面に浮かぶあの姿。

はっきりとは、見えなかったけど。


自分の中でのその輪郭がはっきりしてくると、なんだか進む方向性が見えてきた様な気がする。

彼処にあるものは、きっと光だ。


私は。
いつだって。

その、美しい光に向かって、真っ直ぐ進めば。

それで、いいんだ。


だって、あれは。

紛れもなく、清浄で純粋な、ただ、そこに在る。

光の様な「存在」だったからだ。




あの感覚には、覚えがある。

「知っている」と、私の「なか」が、言っている。

この、世界に、宇宙にだって、きっとただ一つしかない、もの。


ただ、「一つのための純粋な光」だ。


それを見つけて、「もう一つ」を合わせて。

そうすれば、「チカラ」になる。

「チカラ」と言うのは語弊があるかも知れないけど。

「一つ」でも、光るけれど「二つ」が合わされば、より強く光る、もの。

多分、あれは。
それだ。

だからきっと、もう一つを求める。


そしてまた「一つ」になった、それがまた「二つ」に合わさり、きっと最期には。


「うーーーーん。それで、完璧、じゃない?」


この頃、特に思う、こと。


私は勿論、一人でも走れるし、一人で走りたいし、一人で走れなきゃいけないのだと、思うのだけど。


あの、金色の光があれば。


「あっ。」

いけない。
思い出しちゃった。


白の空間に、色が燈る。


目を瞑っていたのだが、正面扉の前に現れたを感じる自分がくすぐったく感じられる。

なんで、分かるかなぁ………。


でもきっと、心配していたんだ。

彼処で、謳ったから。

心を、震わせたから。



ゆっくりと目を開けると、祭壇前に光と共にある金色が見える。

 神様みたい。


ああ、成る程………。

そう、ね。

やっぱり。

そう、なのかな…………?



そんな私の疑問を、煙に巻く様に。

ゆっくりと近づく金色、震える私の「なかみ」。


そうして目の前に立った、その美しい色を目に大きく映すと。

優しく揺れる焔を宿す、いつもの彼にふわりと包まれたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...