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8の扉 デヴァイ

魔女からのお誘い

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「お前………。これを何処で見つけた?」


夕食の席、私のハーブティーの横にある、白い箱。

イストリアから貰ったほうじ茶に似た、食事に合うハーブティーはいつもシリーに頼んで出してもらっている。
その横には直接魔女部屋から食堂へ来た、私の戦利品、あのカードの箱があったのだ。



その白くて美しいカードが気に入った私は、少し考えて部屋へ持って行く事にした。

ここへ置いたまま、訪れた時だけ使おうかとも考えたけれど。

やはり、一言でヒントをくれるタイプのカードは何かと使いやすい。
少し迷った時にでも。
なんて事ない、日にも。

朝起きて一枚引く、それは元から私が習慣にしていた事だったからだ。


「それは勿論、あの部屋ですけど?ウイントフークさん、知ってるんですか?ウェストファリアさんは、に。作者がいるって言ってたけど………。」

もしかして?
本部長、知ってる人なのかな………?

私の期待に満ちた目を嫌な顔で見るウイントフーク。

これは、絶対に知っているだろう。

教えたくないなら知らんぷりすればいいのに、この人も大概顔に出るよね………。
まぁ、人の事言えないんだけど。


「………はな。ちょっと、特殊なんだ。」

「?特殊?」

チラリと白い箱に目をやるが、特に変わった所はない。
それに、私は既にこれを使ったのだ。
おかしな所は、何ら見当たらなかった。


ドサリと私の向かい側に腰掛けると、手で合図をしたウイントフーク。
キビキビとしたハクロの給仕を見ながら答えを待っていると、ポツリポツリと話し始めた。

「あのな。」

「はい。」

え?パン?
続きは?

何かを考えている風でもない。
ただ、ゆっくりとパンを千切って口に運ぶウイントフーク。
続きを話す気が無いのかと思い、私も食事の続きを始めた。

「なんで分かったんだ?」

「は?」

「いや、それは愚問か。しかし行かないとどうなるか分からんからな…。」

「えっ。ちょっと、ウイントフークさん。早く教えて下さいよ。」

チロリとこちらを見た茶の瞳は、まだ現実逃避をしたい様だったけれど。

しかしこの様子からして、言わない訳ではないのだろう。
仕方無く食事を先に終えた私は、「今日は甘めで」とシリーに食後のお茶のリクエストをした。

なんだか、長くなりそうだったからだ。


「あのな………あれは招待状だ。」

「えっ。」

何その心躍る内容?!

様子からして「何か計画外の事」なのか「私に知られたくない系」の事なのかと、思ったけど。

それは「私が知るとウキウキする系」だった様だ。
明らかに目を輝かせたであろう、私をやはり嫌な目をして見るウイントフーク。

しかし「行かないともっとまずい」という意味合いの事を口にした彼は、半分小言の様に話を始めた。

「うん?お前はウェストファリアの所でカードを見たのか?それなら話は早いが、ここにはカードの作者が何人かいるが一級品を作るのは二人だけだ。後はまあ、趣味の範囲だな。で、その白は面倒で恐ろしい方だ。」

「えっ。因みにもう一人は何なんですか?」

「ん?もう一人は面倒で偏屈な方だ。」

「へ………え?」

どっちもどっちだな………。

しかし、ウイントフークから齎されたのは耳寄りの情報だった。
その「面倒で恐ろしい」と、いうのも。

彼の主観であってもしかしたら、面白いのかもしれない。
そう思える、内容だ。

「その面倒で恐ろしい方は、白の婆さんなんだがイストリアの師匠だ。一人で籠って、まじないを研究している。ハーブやそういったカード、お前の好きそうなまじないは網羅してるだろうな。しかし、一体どうやってカードを…?」

ブツブツ言い始めたウイントフークを見ながら、状況を、整理する。

でも。

「イストリアの師匠」って、言った??

何それ私の最高の師匠って事かな?!
ちょっと、ウイントフークさん?


いつもなら放っておくのだが、今回ばかりは詳細を聞かねばならない。

ブツブツ呟くウイントフークの目の前に、ピュイとハーブの団子を出し、反射的に口に入れた彼に質問する。
どうやら流石に、彼の思考も止まった様だ。

「で?招待状って?どういう事ですか?イストリアさんの師匠なら恐ろしくなくないですか?」

聞きたい事は沢山ある。
しかし整理されていない私の頭は、とりあえずの質問を投げた。

しかしその茶色の瞳は、私の事を残念そうに見ていたのだけど。

「まあ、お前がそう思うのなら、それでいい。招待状と、言うのは。大体、あの人が「会おう」と思った相手に届くんだ、カードが。どうやっているのか、俺も分からない。流石に俺も何も無い所に物を送る事はできないからな。」

「ふぅん?」

それって、自分の好きな場所に物をパッと出せるってこと?

ん?と、いう事は………??

「えっ。、会いたいって事ですか?」

運ばれてきたお茶を、ゆっくりと口に含んでから返事をしたウイントフーク。
何故だか諦めの表情である。

「まあ。そうだろうな。近いうちにが。来るだろうよ。」

「迎え………。」

何だろう。
普通の迎えが、来るとは思えないんだけど。

でも。
めっちゃ、ワクワクするけどね?

そうして明らかにウキウキとお茶を啜り出した私に「可哀想なものを見る目」のウイントフーク。

何故、どうして。
哀れみの様な目を、向けられるのだろうか。

「ああ、因みに。が、来たらそのまま行っていい。特に俺に許可を取りに来る必要は無い。なんせ、拒否はできないからな。」

「はーい。」

その、言葉が気にならないでもなかったが。


ま、いっか。
ていうか迎え?
何が来るんだろう!楽しみ!

そう、「魔女からのお誘い」に勝るものは何もないのだ。
きっと人やまじない人形以外のものが、迎えに来るのだろうと勝手に期待してしまうのは、仕方がない。

だって、魔女だし?
なんだろう、黒猫とかかな??


そうして私の関心は「何が迎えに来るのか」と、「アリススプリングスの家に行くより先に迎えが来て欲しい」という事に移った。

そう、敵の本拠地には。

テンションを上げてから、乗り込みたいのである。

うん。







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