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8の扉 デヴァイ

私の疑問

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「で、結局。第二位って、なに?」


二人がここへ来たのは、既に夕方近くだった。

勿論、支度をしながらも喋り倒していた私達。
今は「もう、いい時間ですよ」と呼びに来たシリーに案内されて、食堂で夕食中である。

ハクロが既にそれを見越してシリーに伝えていたらしく、やはり彼は見た目通り、できる執事らしい。
いや、本当は黒豹だけど。


「そうね。銀の家じゃなくても、順位は各家にあるの。」

スープの途中で、そう教えてくれるパミール。
今日は緑色のスープなのだが、何の野菜が入っているのだろうか。
きっとイリスが何か入れたに違いない。

いつもよりも少し苦味のあるスープを啜りつつ、私も話を聞いていた。

「うちは茶の中では、一位よ。パミールは二位。一位はニュルンベルクの所。まあ、一位と言っても黄の方が上だからうちよりはパミールの家の方が身分は高いの。黄の次が茶だから、そこまでの差は実質ないけれど。でもそれを長老達に言ったら、怒られるわね。」

「もう、各家の商売や人の偏りで順位が昔よりは関係なくなってきてるの。でも、多分認めないと思うけどね。私達の父親世代でも、全然頭は固いわ。」

「そうなんだ………。パミール達は、現実的だね?」


確か、ベオグラードは最初に会った時はまだ私達の事を「愚民」と言っていた。
親の教育が違うのか、パミールとガリアは始めから私の事も受け入れてくれていたし、頭が柔らかいと思うのだ。
それに、実質変化はしてきているのだろう。

現実的、というか。

きっと、きちんと「現状」が見えているという事なのだ。


その私の考えを肯定する様に、ガリアは言う。

「向こうでも、思ったけど。父親や祖父達はもうずっと、同じ事を継いでいけばいいと思ってるみたいだけどそもそもそれに、無理があるのよ。だって、現実は変化しているんだから。石一つとっても。昔みたいに、沢山ある訳じゃないし。」

「そうね。ヨル、でも私達の家はまだ良い方だと思う。だって、ここから出してくれたんだから。普通は無理よ。あの、リュディアはベオグラードのお守りでついて行ったみたいだけど普通は出られないの。特に、女は…ここからは。」

「………それって、ずっとなの?長期が駄目とかじゃなくて「ちょっと祈りに行きます」とか言って、出掛けて帰って来るとかも?無理?」

「「無理ね。」」

ハモってる。

しみじみと頷く二人を見て、リュディアの事を思い出した。


シャットの寮、休憩室で聞いたこと。

「ベオグラードの見張りで来た」ということ、「婚約者がそれを許したのは自分だけだった」こと。
「全てが決められていて帰ったらその通りにすること」。

グロッシュラーで二人に会って、女の子は少ないとは思ったけれど全くいない訳じゃ、なかった。

でも。
やっぱり。

「本当に、出られないんだ………。」

解っているようで、解っていなかったのだ。

「ま、とりあえずその話はまた後よ。問題は明日なんだから。そう、ヨルが話す事は無いと思うけどね。とりあえず、何かがあっても。何も、しちゃ駄目よ?後で、話は聞くから。」

「そうね、心配と言えばそのくらいかしら。あそこはまだ一応当主は健在だし、ベオグラードの父親は中々だものね?」

「………成る程。」

確かに「愚民」とベオグラードが普通に口に出す教育をする親だ。
私が気を付けるべきは、「お淑やか」ですらなく「問題を起こさない」なのかもしれない。


「うーん、でもそれってどうなの………。」

食事も終わり、お茶が運ばれそろそろお開きの気配がしてきた。
確かに、もういい時間に違いない。
夜の外出は大丈夫なのだろうか。

「うん、何と言っても「銀の家」に行くって言って来たからね。とりあえずは大丈夫でしょう。ラガシュは青だけどネイアで信用もあるし、送って貰えば大丈夫よ。」

私の心配にそう答えるガリア。

対して隣のテーブルのラガシュは渋い顔をしているけれど。
やはり嫌味の一つも言われるのだろうか。

「ごめんなさい、ラガシュ。でも、よろしくお願いします。」

「いや、大丈夫です。連れて来た時点で、こうなる事は分かっていましたから。」

「ありがとう。」

そうして私が視線を戻すと、パミールが何やら封筒を持っている。
そしてそれを、私に差し出した。

「?」

「預かってたの、忘れる所だったわ。」

「誰から…?」

「イストリアよ。あれから、神殿にいる事が増えたから良かったわ。」

「あ、そうか。ありがとう。」

少しハーブの香りがする封筒を受け取ると、ポケットに仕舞う。

イストリアからの、手紙。
なんだか涙腺君が旅立ちそうな、予感がしなくもないからだ。

「ん?あれ?」

ウイントフークの分は………。

チラリと隣のテーブルを見るけれど。

きっと、耳には入っているだろうが知らぬフリでラガシュと話をしている。

ん?
でも、親子だって内緒なんだっけ………?
それなら仕方ないか。


そうして二人から散々「大人しくしてれば大丈夫」と念を押され、その日はお開きとなった。

ラガシュに連れられた二人を見送り、ホールでポツンと一人になる。

「…………なんか、静かだな。」

ふと、寂しくなったけど。

「あら、手紙貰ったんでしょう?部屋でゆっくり、読んだら?」

どこから来たのか、急に朝に声を掛けられた。

「あれ?どこ行ってたの?」

「ああ、あそこよ。意外と居心地いいのよね。」

「あ。狡い。私も明日行こうっと。」

「あんた、もう忘れたの?明日はアレなんでしょう?」

「はっ!あぁ、思い出しちゃった…。」

「はいはい、とりあえず手紙読めば元気になるわよ。」

「適当だなぁ………。とりあえず、戻ろっか。」


夜は少し、ここも暗くなる。

昼間の白さは形を潜め、薄暗くなったホール。
ブルリと震える身体を摩り、大きな扉を潜った。



良かった、手紙があって。

青い縞の壁の賑やかさでホッと一息吐く。
ポケットの硬さを確かめると、一つ頷き部屋へ進んで行った。


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