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8の扉 デヴァイ

私の空間

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案の定、暫く外出禁止になった。


「ガーン。」

「何が、「ガーン」だ。お前、まだ相手が誰だかも分からないんだぞ?まぁ年寄り連中に見つかるよりはいいけどな………。」

帰ってきたウイントフークに、挙動不審な私の行動はすぐにバレた。
そうして事情聴取を受けたのだが、私が話したのは、その男性の外見と。
「ラガシュに似ていた」と、いうことだけだ。

まあ、それ以上の情報は持っていなかった、とも言うけれど。

しかし流石は本部長、「ラガシュに似てる」と言っただけで、私の意図を察したらしい。

「まあ、ほぼ見られたと思って間違いない。」

そう、断言してなにやら家系図な様なものを漁り始めた。


「ちょっと、ここも弄っていいですか?」

「駄目だ。」

顔も上げずにそう言うウイントフーク。

まあ、そう言うと思ってたけどさ………。


ある意味、見慣れた光景、落ち着く雰囲気。

そう、ここはウイントフークの書斎兼仕事場で、それが、意味する事とは。

「て、いうか。こんなに、どうやって持って来たんです?荷物石でもこんなに入るものなの??」

勿論、返事はない。
もう半分独り言みたいなものなのだ、ウイントフークとの会話は。

解っていても、言わずにはいられなかったこの書類と本の、山。
荷物石に、入れてきたとしても出すのが大変だったと思う。
まさか、寝ないでやってたんじゃないだろうか…。

「せめて本棚は作って欲しかった………。」

「煩いぞ。用が済んだら屋敷でも調えていろ。」

「…はぁい。」

確かにこの状態のウイントフークに、つべこべ言っても仕方がないのは分かる。
どうせ聞いちゃいないに、決まっているのだ。

それなら私も。

お屋敷創りに励む方が、いいよね。
うん。


しかしその日は既に夕方だった為、食堂のイリスに呼び止められ改修は明日にする事にした。

「今日は大分手伝った」というイリスの説明で給仕を受けながら、美味しく夕食をいただく。

ウイントフークの姿は見えないけれど。

うん、まあ。
気になる事がある限り、あの部屋からは出て来なそうだよね………。
でも、シリーと二人でも充分楽しいしみんなもいるしね…。

ハクロにウイントフークへ何か持って行ってくれる様頼んで、私はゆっくりお風呂を堪能しに部屋へ戻る事にした。
一応、ちゃんと「もしかしたら置いておいても、手を付けないかも」とは言っておいたけど。


青い廊下を歩きながら、つい独り言が漏れる。

「もう、一人じゃないんですよ、ウイントフークさん………。」

「まぁた、籠ってるものね?」

「あっ、どこ行ってたの?」

いつの間にか隣を歩いている朝に驚きながらも、一緒に部屋へ戻る。

私が開けた扉の隙間をスルリと入ると、そのまま真っ直ぐベッドへ向かい、ヒョイと乗った朝。

きっと私のお風呂の支度を寛ぎながら待つつもりなのだろう。
いつもの様子に安心しながらも、着替えを用意する事にした。


「私は殆どシリーの側にいたわよ?みんな出払ってたしね。ああ、それは並べない方がいいかも。」

「やっぱり?こっちだよね?…うん、ありがとう。それなら安心…やっぱり、慣れない所に仲間がいるとは言ってもスピリットだけだもんね。暫く様子を見て…お願いできる?」

「大丈夫よ。地階にもずっと行ってたしね。」

「ありがとう、朝。」

着替えを出そうとしていたのに、いつの間にかお気に入り棚を並べ替えていた私。
朝が時々茶々を入れてくるので、それも中々進まない。

この前、途中から適当に置いたお気に入り達が気になって、手を付けたのが間違いだったか。

ああでもない、こうでもないと並べ替え「よし、これでいこう!」と決まった頃には既に朝の目は閉じられていた。

「…あれ?ま、いいかお風呂だし。」

朝はお風呂が嫌いなのだ。
綺麗好きでは、あるんだけど。

ま、猫はお風呂嫌いって言うしね………。


朝だって、ここへは来たばかりで疲れているに違いない。

着替えを持って、そうっと緑の扉を押すとスッと洗面室へ滑り込んだ。



「え?う、…わ………。」

森の様子はどうだろうと、ウキウキしながら滑り込んだ私。

しかし、最初に目に入ったのは緑の木々の、横にある。

満点の夜空と、夜の青い街だった。


「そっか、そうだよね………。」

自分で創った、「森からの景色」だという事を思い出して一瞬切なくなる。

でも。
何より、美しいこの星空に目を潤ませるよりも、楽しんだ方が勝ちに、決まっている。

そうだ、私はこの景色をリラックスする為に創った筈だ。
「私が思い浮かぶ、美しい景色」として。
ただ「懐かしくて切ない」だけじゃなくて、「美しく」て、想えば「いつでも行ける」、景色として。


そうだよね………。
「世界は繋がっている」し。

きっと、「想えば」。


「………まさか?」

でも、私はやはりを知っていて。

「行こうと想えば行ける」こと、「世界は繋がっている」こと、それは、きっと。


「て、いう事は。やっぱり、この森は………。」

バスタブの向こう、緑の木々は夜の眠りの様に静かな空気に包まれている。

やはり奥は夜の様で、朝とは違う顔に見える森の様子。
奥は闇、しかし嫌な雰囲気は微塵も無く、ただ静かにそこに存在している、在るべくして有る闇なのである。


ただ静かに、その黒を見ていた。

本当は、今から「あそこ」へ帰りたいけど。

今は夜、きっと皆もう寝ているだろうし。

行って、すぐに帰って来られる自信も、ない。

然らば。

「きちんと、然るべき時に準備して行くべきだろう、な?」

そう、ポツリと呟くと着替えを置き、お風呂の支度を始めた。


チラリと見る、窓からの景色。

懐かしい、深く青い紺色から黒へ変化する夜空、瞬く星が「早くバスタブへ」と私を誘っている。
それなら今日は、ゆっくりここからの景色を堪能しようか。

そうして手早くシャワーを済ませると、丁度良い湯加減のバスタブへ滑り込んだのだ。





懐かしの景色と程よい湯加減に解かされた私の身体は、フワフワとしたベッドの上で微睡んでいた。

あの白い部屋のベッドより、柔らかいここは初めは柔らか過ぎて寝づらいかと思っていたけれど。

私のまじないで出来ているからなのか、意外と包まれている様で心地が良い、このフワフワ感。

ああ………いつまでも寝ていられそうだわ………。

しかし、閉じられた瞼も何故だか明るい気がして、今が朝な事は判る。
また、まじないの所為だろうか。


でも、今日は?

うーん?部屋を?創る?
あの子達の部屋は創ったしな?

そうそう、みんなが「小屋」っぽい場所がいいって言って楽しかったなぁ…フフッ。
寝る時は「あの姿」に戻るなんて、なんか可愛いんだけど。
今度、みんなに戻ってもらおうかなぁ………。
モフモフ………フフフ。


そう、こんな感じの…いや、もっとフワフワ…そう、サラサラじゃなくて、モフモフ、フワフワよ………。

………ん?
あ、れ………手触り。

「パチリ」と、目を開ける。

すぐには見え辛い視界には、キラリと光る金の中の銀色、徐々に露わになる紫。

「………ん?」

ちょ、待って?
でも、約束、したよね??

「え?なんで?言ったじゃん!」

ガバリと起き上がって、千里の腕の中から抜け出した。

愉しそうに私を見ている紫の瞳は、当然の様な色をしてそこに、ある。

「いや、約束した覚えは、無いが。」

うっわー!
シレッと、言ってるよこの人!

何?
気焔と、納得したんじゃないの???


如何にも悠々とした姿でベッドへ寝そべっている千里に、悪気が無いのは、分かる。

「でも。悪気が無くても、乙女のベッドに勝手に入るのはどうかと思うけど?」

しかし、複雑な美しい色を宿した瞳を私に見せつける様にくるりと回して、千里はこう言った。

「いいや?俺にはお前達が見極める必要があるからな。」

「え?」






お前達、って。
私、と気焔………だよね?

まさかお兄さんじゃ………いやいや、無い無い。

立てていた膝を折り、ペタリとベッドの端へ座り込んだ。

大きなベッドは、広い。

真ん中に寝そべる千里から、少し離れた端に私は座っているけれど。


その、近くて遠い距離に一抹の不安を覚える。

でも。

自分の中の、どの材料をかき集めてみても千里が「危険なもの」だとは、判断ができなくて。

それなら。

そうして一つ、大きく息を吐くとその紫の正面に座り観察をする事に、したのだ。



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