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8の扉 デヴァイ

私の部屋 4

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「うぅ~ん?」


水色、青、少し紺色、黄色の小花に、金の刺繍。
時折入る、山吹と若草が可愛らしいイメージだった、ような………?


背中が、痛い。

気が付くと、剥げた天井が見えて。
四本の柱、その彫刻と硬い板の感触から。
ここが、あの壊れたベッドの上なのだと判った私。

「おかえり。」

「うわっ、これ久しぶり………。」

頭の側にやって来た朝に、ザラリと舐められて現実感が増して来た。


「えー、どの位、寝てた?て言うか、どうやってベッドに寝たんだろう?」

「自分で歩いてたわよ?それで、バタン、キューよ。ジュガが心配してたわよ?どっか行っちゃったけどね。」

「そう………大丈夫かな。気にしてないといいけど。」

「まあ、一応「いつもの事だから」とは言っといたけどね。」

「うん、ありがとう…?」

朝の微妙な対応にそう、言いつつも部屋を見渡す。

多分、あそこに行く前と。
寸分違わぬ、荒れたままの部屋。

「千里は?」

「そっちも、まだよ。それより。いい匂い、してきたから少し急いだ方がいいかもね。」

「えっ。」

確かに、そう思えば?

お腹に、手を当ててみると減っている様な気がする。
まずい。
本格的に、お腹が鳴る前に。
終わらせてしまわねば、ならぬだろう。

「うーん?」

チラリと、あの茶髪の男の子の顔が浮かんだけれど。

何処で、見た?
ロウワの誰かかな??
でももっと「前」だった、気がするけど………。

しかし、頭を振って思考を切り替える。
そっちはまた、後だ。

とりあえずは部屋を創らなければ。

夕食後に、ゆっくり寛ぐ事もできないだろう。


「さあて。」

「で?どうだったの?」

「うーん、あんまり分かんなかったんだけど………まあ、雰囲気が掴めたから。大丈夫、かな?」

そう、朝に答えつつ青の石を選んだ。

あの、可愛いらしい部屋に似た。
薄い、ウェッジウッドブルーの様な、色だ。

「うんうん、こんな感じだよ。」

細かい所や、見えなかった場所は。
結局、私の好きに創れば、いいよね?

そう、思って目を閉じた。




まずは………。

廊下の縞の腰壁は、可愛かった。
でも、自分の部屋だとちょっと煩いかな………。


上の方は、明るい色がいい。

少しだけ、水色がかった白に腰壁から下をウェッジウッドブルーにする。

うんうん、爽やか可愛い。

モールディングを生成りにして部屋を囲い、今は茶色のベッドも生成りに統一する事にした。
柱と下の部分だけ生成りにして、天蓋部分は。
夜空の様な、紺色に創っていく。

そのままついでに紺のビロードを掛けて、その下には持って来てもらった、あの星を掛けようか。

空から降る様に下がるビロード、そこから下りる金の房を大小、配置する。

天蓋からは小さな金の房を等間隔で、刺繍生地を束ねるのに大きな房を下げておく。

枕やシーツはやはり白にして。
ピン、と調えておこう。うん。


箪笥や机は頭の中に残っていた、小花柄と蔦模様をシンプルに散らして一つずつ、創る。

クローゼットが、要るな?
基本的に下げるものが、多いしね?

机を入り口脇に、その反対側にクローゼットと箪笥を配置して。
机の横に本棚、ベットから見える位置にはお気に入り棚も配置する。


うんうん、こんなもんかな?
可愛くない?

最後に、石をキュッと握って。

パーっと、部屋に、散らしてみた。

多分、これまでは願うと自然と消えてしまっていた、手のひらの石。
しかし、目を開けパッとキラキラを散らすつもりで蒔いた、「それ」は。


「うっわ!」
「………相変わらずね。」

「流石だね。」

本当にキラキラの粉となって、部屋に舞い、私が思う様に様々なものを形造り始めたのだ。

「うっわ~、これぞ「魔法」って感じだね………。」

「何言ってんのよ。自分でやってるんでしょう?」

「うーん?そうなの、かな。」

「本当に飽きないね。」

「あ。何処行ってたの?!」

自然と、空間に馴染んでいる千里に気が付き駆け寄る。

あの、森の中に入って行って大丈夫だったのか。
確かめたかったのだ。


「なぁに、散歩をしていただけだよ。」

「えぇ~。」

まぁた、何か隠してるよね?

そう、思ったけれど。
多分、聞き出す事は難しいだろう。

ま、それならしょうがないか…。
多分、長い付き合い?になりそうだし?

いつかきっと、「その時」が来たら。
話してくれるのだろう。



とりあえず、上出来、じゃない??

そうして、完成した部屋を見渡す。

私にしては、可愛いらしい部屋が出来上がっていた。

ウェッジウッドブルーを基調にした、爽やかな部屋は差し色に紺、青、白、黄色を加えて可愛らし過ぎない様に纏めている。

一番目立つ、天蓋付きのベッドは白く化粧直しをして生まれ変わっている。
夜空を模した、紺色の天蓋にビロードが垂れ、星の様に金色の房飾りが揺れている。
レシフェからの箱に入れられていた、白い布を重ねてカーテンの様に下げタッセルで束ねてある。

これまでは、白い部屋、白い空からのドレープと星だったけれど。

これからは、夜空からの星の夢を見れそうだ。

あれ?
寝る時、一人だよね?

それに気が付いて、一瞬胸がキュッとする。

いかん。

ベッドを見るのを止めて、視線を滑らせて行った。


ベッドの右側にクローゼットと箪笥のスペース。
続いて洗面室への扉がある。

クローゼットと箪笥は、馴染みがいいように同じウェッジウッドブルーに、白と黄色でそれぞれ蔦と小花の紋様が入っている。
可愛過ぎない様に、小花は箪笥だけにした。
あまり、大きな装飾として入れるのは気が引けたのだ。

洗面室への扉は、「森への扉」という事で落ち着いた緑にした。

「うん、招待状、来そう。」

かなりいい感じにできたと思う。
寝る前に、入るのが楽しみである。


そうして正面に入り口の扉、大きなそれも同じブルーで統一だ。
ただ、なんとなくだけど金色のモールディングで豪華にしておいた。
特に、意味はないけれど。

ポイントだよ、ポイント。
うん。

そうして反対側に机、本棚、お気に入り棚だ。
机は白にしようか迷ったけれど、やはり物を書く事を考えるとブルーにした。
お揃いで、本棚。

お気に入り棚だけは、世襲として白だ。

私のお気に入りシリーズには、白が似合う。
石も多いから、白が映えるだろう。


最後に床が、落ち着いた明るめのベージュの絨毯でフカフカしている事に気が付いた。

「なんか、絨毯って。新鮮。」

「ある意味そうかもね?」

朝とそんな会話を繰り広げ、ヒールでの踏み心地を確かめる。
踵が沈む感覚は、嫌じゃない。

少し硬い毛足のそれは、程良く足への衝撃を和らげ「私、高級絨毯ですから」と自負している様な気がして。

「うーん、いい仕事してますね。」

思わず唸っていたら、ノックの音がした。


「終わったか?」

ウイントフークだ。

「はぁい。ご飯ですか?」

開口一番、こう訊いたものだから返事が無い。

「カチリ」といい音がして扉を開いたウイントフークは、室内を見て目を丸くしているけれど。
自分の部屋は、まさか?

いやいや、流石のウイントフークさんもそれは無いよ………。
結構、綺麗好きだしね?
いや、それは身だしなみだけ??


後で部屋を見せてもらおうと決め、目を丸くしたままのウイントフークを押し出した。

きっと、部屋の探検を始めたならば。

絶対、終わらないに決まっているからだ。
待っているみんなが、可哀想な事になるだろうし食事だって冷めるに違いない。

「さ、さ、また明日にしましょう!」

そう言って、後手に扉を閉めると。


まだ名残惜しそうな背中を押して、廊下を進んで行ったのであった。

うん。

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