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7の扉 グロッシュラー

私のやりたいこと

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「お前、俺を呼んだのはか?」


歩きながらレシフェが尋ねてくる。

チラリと隣の彼を見ると、多分同じ事を考えているのが分かった。
以前相談していた、箱舟の床板問題。

レシフェの顔を見ると多分イストリアと「その話」をしたのではないかと、何となく思う。


大きな、力を溜めている石と、この島を浮かせている、核の石。

なんとなくだけれど共通点があるかもしれない、と思ったのだ。
レシフェはそもそも、この箱舟問題でラピスへやってきた。みんなの力が搾取され、デヴァイに利用されようとしている舟形の大きな、石。

イストリアは知っているのか、それは分からないが何かしらアドバイスを貰ったかもしれない。
絶対、について話していると思ったのだ。



それに………ずっと前にレシフェは「落とし前をつける」と言っていた。
私は、それも気になっていた。

デヴァイの計画を阻止する為だけれど、沢山の人を石にしたりブラックホールへ入れた、レシフェ。シャットで一応、「私の」モヤモヤは無くなったけれど。
その事については、私は何も、できないししてあげられないし、多分彼もそれは望んでいないだろう。

私が裁く事も、誰かに裁かれる事もない彼がそれを考えて、「落とし前」をつけると言うのか。


モヤモヤし出した私の肩をポンと叩いて、眉尻を下げた彼。
「お前が気にする事じゃない」の顔だ。

まぁ、そうなんだけど。
それも、無理だって…………知ってるくせに。


でも、心配させるのは本意じゃない。

とりあえず曖昧な笑みを浮かべて、返事をしておいた。

何か、良い方法は無いものかと考えながら。





灰色の道を軽い足音がトタトタと響く。
乾いた音と、景色。

祭祀後も変わらぬ、いつもの雲の景色だ。


「今日、でもよく気焔で許可下りたね?」

ふと、思い付いて尋ねる。普通に歩いているけれど、そう言えば今日は造船所にいくのだ。
メンバーはいつもの、私、気焔、朝にレシフェ。ベイルートは朝食後、また何処かへ飛んで行ってしまった。
いつもなら、クテシフォンが一緒に行く筈。

基本的には「力」の先生が一緒なのかなぁと、思ってたんだけど………?

気焔は私の質問に頷くと、一応確認はしたのだと教えてくれる。

「もしかしたら、祭祀の時の話でウェストファリアと何か話したのかもしれん。特に、何も言われなかった。」

「ふぅん?」

それなら、いいんだけど。


もしかしたら、アラルエティーがいる所為で私の行動範囲が広がるとかなら、本当にお礼をしなきゃいけないかもね。


そんな事を考えていると、もう大きな灰色の建物が見えてきた。
造船所は本当に久しぶりな気がする。
みんな、元気にやっているかな?






気焔が大きな扉に手を当て、開いてくれている間。

私はくだんの「幻の魚」の件をレシフェに問い詰めていた。


「ていうか、は売っちゃダメじゃ、ない?」

「だってお前、俺達には何かと入り用なんだよ。お前みたいに歌ってホイホイ創るとか、デカい後ろ盾があるとかじゃないからな。」

「まぁ…………そうだけど。」

歌は、あれだとしても確かに私の身分は保証されている。レシフェやレナとは、スタート地点が違うのだ。
また自分の考えに反省しながらも「でもグレフグ君使ってるでしょ?」とツッコミを入れていると、サラリと足元を撫でられた。

「待ってるわよ。みんな。」

「あっ。」

そう、私達は大きく開いた扉のど真ん中で、まだ話をしていたから。

子供達は気が付いていないけれどシュレジエンとデービスがこっちを見ている。
一応、行く事は伝えておいたからだろう。
結構距離はあるけれど、静止しているのは二人だけなので遠目でも目立つのだ。


デービス、めっちゃ見てるよ………。
お待たせしちゃったからね。

手を振りながら、近づいて行く。
まじないの作業場は船の下なので、一番始めに目に入る場所だ。

「やあ、待ちくたびれたよ。」

「ですよね。ごめんなさい!今日はバッチリですよ。」
「ああ。先に、済ませてくるといい。」

そう言って彼は物見櫓のシュレジエンを指した。










そうして一旦、いつもの小部屋に集合した私達。
いつもの、と言っても船内は少し変化していた。

今日は大きい人がいないからそう窮屈ではないのだが、気焔は先に座っていた私達を見ると「見回ってくる」と何処かへ行ってしまった。

確かに「目耳」は飛んでいるし、シュレジエン、レシフェ、私、朝がいればまぁ話は大丈夫だろう。


そうして落ち着いた私達は、とりあえず近況から聞く事にした。私は地階へは行ったけれど造船所にはしばらく来ていない。
そうして気になる事から、口を開いていった。


「子供達は、どうですか?祭祀の後。しばらく力も込めに来てないけど、無理してないですか?」

「クテシフォンも言ってたろ?多分、子供達は力が増えている筈だ。船内を、見ただろう?」

は、完成すると、どうなるか知ってるか?」

レシフェが唐突に口を挟む。

でも。

確かに、私も思った。

前回来た時から間は開いているのだが、格段に造船のスピードが上がっているのだ。

以前はハリボテだった、この船内も。
かなり、細部まで出来ている。殆ど取り付けられていなかった部屋の扉も付いているし、場所によっては装飾も、あった。
いきなりこんなに、細かい部分まで出来るものなのだろうか。それに、細部に手を入れているという事は…。

完成図は、図面しか見ていないけど。
もしかして、「形」は出来上がってるんじゃ?


三人で、顔を見合わせる。


多分、思っている事は同じなのだろう。
以前、レシフェは「俺が確かめるからお前は知らぬふりをしていろ」と言っていた。

でも、シュレジエンの反応からしても。

「あの床板」の事はきっと知っている。
何に使われるのかは、知らないとしても。


大きな、ため息を吐いてシュレジエンが口を開く。

「俺がに気が付いたのは。」

チラリとレシフェを見る。

「こいつが来てからだ。正直、何かあるとは思っていたが、俺にはどうしようもない話だし関係あるとも、思っていなかった。何に使うのか、興味も無かったしな。「なんとかしないといけない」と思ったのも、お嬢が来てからだしな。」

「だがデービスは知ってた。まぁ、あいつはまじないをやれれば何でも良かった。事実、に力を溜める事しか、指示されていない。「誰が」「何の為に」そう、しているのかも知らないだろう。あいつは道化師からの注文だと言っていた。あいつにとっては、ラピスとここ、まじないをやれるかやれないかで言えば、そこまで変わりはない。」

私達二人の目を見ながら話すシュレジエン。
シャットでの教師達を見てきた私にとっては至極納得出来る、話だ。
大きく頷いている私に対して「本当に信用できる奴か?」と隣のレシフェは訊いている。
私はこうしてホイホイ納得するから、レナから叱られるのかもしれない。


「今はデービスに細部を指示させている所だ。正直、上も時間がかかる作業なのは分かってる。だから、出来上がるのか納期は具体的には、無いんだ。「出来るだけ早く」以外は。」

「まぁそうだろうな。この船自体途方もない、話だからな?シュレジエンもは知らないんだろう?」

「ああ。完成したら、館に報告する事にはなってるがな。途中であまりにも完成が遠すぎて、実は俺達のまじないを削る為だけにやってるのかと思ってたよ。しかし、あんなものがあろうとはな………。」


レシフェは舟を何に使うのか、ユレヒドールの右腕だから知っていた。

どこまで、シュレジエンに話したのか判らないけど。

きっと、完成したらまずい、という事は分かっているのだろう。だから細部迄手を付けて、報告を引き伸ばしているのだ。


「ちなみに、どの位違うんですか?今までと。」

短縮した分、時間稼ぎが必要かも。
そう思って尋ねると驚きの答えが返ってくる。

「まぁ、ざっと二年くらいか………?」
「そんなに?!」

「お前、光をサービスし過ぎだろう。」

「本当だ。細工や、船内の設備だって予想以上の出来だ。最近俺は楽しい。」

確かに、ちょっと豪華な扉や手摺りもあった。
シュレジエンは船が好きなのだろう。
ここで、この役目を長くやっているくらいには。

ニヤリと笑う彼と目を合わせて、目配せし合う。


楽しんでもらえてるなら、良かった。

なんだか私も楽しくなってきて、クスクス笑う。



まさか、ここに来てこう来るとは…………。
面白過ぎる!

「あの、二年分豪華にして下さい。フフッ」

「フフじゃねぇよ。」

「とりあえず滅多な事ではユレヒドールはここには来ない。クテシフォンは大丈夫だが、少し気になるのはハーゼルだ。その辺りは、頼めるか?」

モジャモジャから覗く、青い瞳はレシフェを見ているのだけどレシフェも今は同じ様な濃い灰色の髪がモサモサしている。
私はそれもツボにハマって、一人で笑っていた。

「直接、は無理かもしれないが手は回そう。で、お前は何を笑ってるんだ。お前もアイツには近づくなよ?」

「分かってる。」

赤ローブの抑えどころは、どこだろう?と考えながら目尻の涙を拭う。

呆れたレシフェが「お前はもうデービスの所でいい」と言うので、お言葉に甘えてスッキリしに行く事にした。
私は子供達が元気で、危険が無ければいいのだ。
うん。


そうして小部屋から、船の廊下を歩きながら確かに大分進んだ船体を観察していた。

私の、ピンク天井は残っているだろうか。


でもな………。
ここまでやったら、さぁ?

ねぇ?

あれが、必要だよ、が。



そうして思い付いた私は、ニヤニヤしながら船を出て作業場へ向かったのだった。

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