上 下
212 / 1,636
7の扉 グロッシュラー

雪の祭祀 可能性の扉

しおりを挟む

その光景は正に、この世界の誰も見た事のない景色だと、目に入った瞬間私は確信した。


「この世のものとは思えない、美しい光」

正に、そのものだ。



目を瞑っていたので、光が降りたのか正確には判らないが、多分オーロラが変換されたのではないだろうか。

雲の隙間、青から放たれるその光は私が想像した光よりも遥かに美しくて、やはり「自然」に勝てるものはないのだなぁと馬鹿みたいに、感動していた。


白い空に散らばる微かに残る、光のカケラ。
その間を縫って色とりどりの光が、降っていた。


その、光は白から金、黄、黄緑から水色、青、赤、紫、紺から灰青、濃灰迄もっと、言い表せない程の多色の、光。
何色、とも言い表せない、複雑な其々の、色。

言葉ではとても表現出来ない、その曖昧でいてしかし繊細な色合いを目に焼き付けようと、私の視線は忙しかった。

薄く、濃く、細く、太く。

降りる濃さや量も、様々だ。



ああ、私が想像する範囲よりも、もっときっと、其々の持つ色を、きちんと映し出してくれたんだ。

のお陰だ。


何となくそう、思ったのだけれどきっと、そうなのだろう。多分、「人」では表現できない程の、複雑な色合いと、色の数。
それはやはり、人以外のものの干渉を感じずには、いられなかった。

人間は、複雑だ。
其々がいい面、悪い面沢山の色を持っていてそれはまたその時々で変わり、そして変わらない芯の色も、持っているだろう。
そして、変わるのが「人」なのだ。
変わったっていい。変わらない、人なんていない。だから、面白いんだ。


みんなに降り注ぐ光を見て、本当にそう、思う。
ぐるりと見渡して、各々の光を受け取る様を、眺めていた。




降り注ぐ光に、既に全員が自分に降りる光を手のひら、身体に写し、じっと見ている。
はしゃぐ子供達、確かめるように色を見る、大人達。



それを確認すると、私は再び気持ちを落ち着ける。


さて。
扉を開こうか。

私の、最後の仕事だ。


「可能性の扉を開く」

これを、やり遂げなくては。


もう、少し開いているものも、いる。

しかし、まだ心に渦巻く沢山の気持ちが、そこかしこに浮かんでいるのも、判る。
彷徨う、想いが行き場無く浮かんでいるのだ。
納める場所を、開かねば。


みんな、入れちゃえよ。

要らないものは。扉に、ポイだ。


そうして。

好きなものを、取り出して?



声が、聞こえる。

「「どこに?」」

「勿論、そらに。」


あの人が手伝ってくれる。
みんなも。


また、大きな扉をつくる為に目を閉じる。


大きな、おおきな、扉だ。



全員分、入るように。

全員分、好きなものを、取り出せる、大きな扉。


いつもの様に、石に願い、チカラを込め、目の前で手を、動かす。
具現化と言えば、宙だけど今日ばかりは、みんな。
チカラを、貸して?



私が創る、私の、可能性の扉。

それは、扉だけれど、其々の自分の、中に在るものを開く、見つける為の、鍵だ。



さあ、ここだ。
其々の色の所から、好きなものを出して?

願ったものが、まるで降って来るかの様に、「そら」に創るから。
何でもいい。
小さなものでも。
扉より、大きくても。
具体的でも、抽象的でも。

少しでも、そのカケラが
あるのなら、きっと見つかるから。


   「そら」を、見上げて?







「上!上見て!!」

「すごい!」


始めにに気が付いたのは、子供達だった。


「うわっ。」
「なんだ?あれは!」
「見ろ!」

大人は煩いなぁ。
ちゃんと、何か受け取った?取り出した?


そう思いつつ、私も目を開けた。


「う、わ。」

自分でも、思わず声が出る。


空に、浮かんでいたのは巨大なオーロラ色の、扉、だった。








その扉からは何か、フワフワしたものが出たり、入ったりしている。

きっとそんなに近くはないのだけれど、その大きさから近くにある様に見える、巨大な扉。
オーロラ色をした半透明の扉は、しっかりと私の好きなアンティーク仕様の重厚な扉で、繊細な彫刻までしっかりと、見えるものだった。

大きく開いたその扉から出たり、入ったりしているのは其々に降りた光の靄だ。


多分、私の思った通りのものだとすれば要らないマイナス思考はあの扉に吸収されて、代わりに欲しいものが降りている筈だ。


みんな、其々希望通りのものが降りるといいけど。


そう思いつつ、辺りの様子を観察していた。




何処からも、歓声が上がっていて力が何時もより沢山、降りたのだと分かる。
光はきっと降りきっていて、薄靄に包まれている人、もう消えてしまった人、薄く光が残るもの、色々な人がいる。


ああ、ナザレは青だね………シュレジエンは紺だし、あの辺は青系多いな。
シリーもだし。やっぱりラピスだから青いのかな。ちょっと嬉しいよね………。

ウェストファリアは灰白だ……流石白い魔法使い。
ダーダネルスは銀灰だし、あの辺カッコいいな。


あの人、誰だろう。
きっとデヴァイの人だろう箇所で金黄色が見える。

デヴァイにも色、あるね………。あっ、いた!
紫の人!

紫は貴石の人だ。遠くてあまりよく判らないが、綺麗な女の人に見える。


ふむふむ。みんな、いい感じだよ………。
もう、大体大丈夫かな?
あの扉って、閉じるのかな??


靄の出入りが落ち着いてきた。
みんなに、可能性は降りただろうか。
何かを啓く事は、出来ただろうか。


ぐるりとまた、辺りを見渡す。
順に視線を送った先に一際光る、金色が見える。

眩しくて、人の姿は判らないのだけれど勿論それが誰のものかは見なくても分かる。

自分の中にも同じ、金があるのが分かって少し共鳴している気すら、した。


まずいまずい………。
光が出ちゃう………。


私が自分の内部にワタワタしていると、一瞬ザワリと何かが動いた。






なに?

急に空間が異質なものに支配されたのが、判る。


さっき迄は自分が支配していた、その祭祀の場が何かに塗り替えられたのが判るのだ。

その場の空気が横滑りした様な感覚と共に、奪われた主導権。その、大きな気配は上空から来ている。


多分、だ………。


視線の先にあるのは、オーロラの扉。

もう、靄の出入りは終わったその扉の中に、何か違うものが出るのか、出ないのか、のが分かる。


悪いものではない。
しかし、その場を支配する、圧倒的な「何か」。
抗う術は無いと思わせるその存在からの圧に、身体が固まる。



周囲はまだ、興奮の騒めきの中だ。


まだ、殆どの人は気が付いていない変化に、始めに反応したのは何人かの、男たちだった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...