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7の扉 グロッシュラー
食堂の私達
しおりを挟む「ヨルは何が好きなんですか?」
ラガシュに色々世話を焼かれながら、食事をトレーに乗せ奥のテーブルへ進む。
あまり深い話はここでする気は無いが、やはりそう聞かれない方がいいだろう。
ラガシュもそれを解っているのだろう、何も言わなくても奥のテーブルへ先導していく。
そうして丁度、彼が私の椅子を引いてくれた所で「あっ。、」という声が聞こえた。
「俺も入れて下さいよ。いいなぁ。」
いいなぁと言いながらも、既に自分のトレーをテーブルに置いたのはラレードだ。
うぉ。
トリルの話を聞いていた私は「ヤバいの来た」とパッと思ったが、一応ラガシュが居るので大丈夫だろう。
ラガシュより少しだけ背の高い、がしかし、少しがっしりとしたラレードはそのまま私とラガシュの間に陣取った。
何だか…………圧迫感。
ラガシュは細身だし、物腰はどちらかと言えば柔らかい。
ラレードはラガシュよりガタイがいいし、何だかズケズケしているので何というか、いるだけでちょっと圧があるのだ。
折角のご飯が…………と少ししんなりしたが、言ってもラレードも青の家だ。
そう、話しにくいという事はない。
ある意味、青の家の事を聞くいい機会かも、なんて私がプラスに考えようとしていた所に、更なる乱入者が現れた。
「おっ。俺も、いい?」
げっ。
青の中に侵入してきた、この空気の読めない男。
それは私の天敵、赤ローブのハーゼルだ。
結局、あの後会っていなかったハーゼルは、そんな事も覚えていないかの様に誰も返事をしていないテーブルにトレーを置いて、ニコニコしている。
うーん。
見てるだけなら、憎めない系なんだけど。
年の頃が近いからか、お調子者感が強いハーゼルはやはり憎めない感じがするのだ。
少し、あの時の感覚が蘇りそうになって自分の腕を摩る。
駄目だ。
気焔が飛んできてもまずいし、あの人が出ても、まずい。
自分の地雷が増えた事を思いながら「どうする、これ。」と思いつつ、ラガシュをチラリと見た。
「許可した覚えはありませんが。」
いつもより少し冷たい、しかし飄々とした態度でハーゼルに不可というラガシュだが、ハーゼルは全然聞いちゃいない。
「で?ヨルは何でラガシュとご飯な訳?」
ラレードが私に話しかけてきて、ちょっとしたカオスになっている、このテーブル。
何これ、落ち着かない…………。
ラレードに適当な相槌を打ちながら食べ始めると、私の聴き慣れた声が聞こえてきた。
「珍しいな、この組み合わせは。どうしたんだ?」
クテシフォンだ。
やった!救世主きた!!
椅子は四つしか、無い。
しかし私の瞳を確認したクテシフォンは、隣のテーブルから椅子を持ってきてハーゼルを「詰めろ」と退かす。
そうして私とハーゼルの間に陣取ると、また彼も、食事を始めた。
「大丈夫だったか?」
ん?ベイルートさん??
何処で喋ってるんだろ?
あまり、キョロキョロできない。
ゆっくり視線を彷徨わせると、クテシフォンのフードの下にキラリと光る玉虫色が見えた。
もしかしなくても、二人で助けに来てくれたに違いない。
やだ!素敵!
流石…ベイルートさん。
この二人、なんか気が合いそうだな…………。
でも、この奥のテーブルに男四人と私、圧迫感半端ないんですけど。
しかしクテシフォンが来た事で少し大人しくなったハーゼル、落ち着いたラガシュ。
私の両隣はクテシフォンとラレードなので、大分落ち着いて食事ができる様になった。
しかし、ハーゼルの破壊力が凄いな…………。
そう思いつつも、話題は共通の祭祀の話になっ
た。
「今年はまた新しい試みだそうだな。」
「そうですね。僕は初めてですよ。」
「大概は初めてだろうよ。何せ、古い祭祀自体を見た事のあるものはいない。」
みんな、知ってるんだ。
クテシフォンとラガシュが話している内容を聞きながら、考える。
しかしミストラスが私に言い忘れている事がありそうで、半分聞きつつ、考え事だ。
舞の事だって、後から聞いたしデヴァイから見に来る人がいるというのもランペトゥーザから聞いた話だ。
まだ、何だか聞いていない事がありそうで、ちょっと落ち着かないのだ。
それにしても。
みんなが言っている、古い祭祀とはどの様なものなのだろうか。
私は青の本が言っていた、旧い神殿の事は知っているけれど内容などは何も、知らないのだ。
すると、タイミングよくその話題を振ったのはハーゼルだった。
「ヨルが舞うだろう?スゲー楽しみだな。」
この人、ホント学生なんじゃなかろうか。
そんな事を私が思っているとラガシュに注意されている。
「相変わらずですね、あなたは。もう少し言葉使いはなんとかならないものですかね。いくら力の授業にはあまりセイアは参加しないと言っても…………。」
ああ、そうか。
殆ど、この人が教えているのはロウワなんだ。
そう納得すると、ある意味あまり形式張るよりはこのままでもいい気がする。
まぁ、別に言わないけれども。
「それ以外にも、ここグロッシュラー全員での祈りの場に戻す事や、外での祈りが検討されています。僕は俄然楽しみですけどね。」
「確かに。しかしどうして急に変えたのか、俺そこが気になっちゃって。だって、上の人達、変えるの嫌いでしょう?」
ふぅん?
何気なく発した、ラレードの言葉が引っかかった。
やはり、ここも。
変化を嫌う人が、多い様だ。
ん?
気が付くと、全員が私を見ている。
えっ。
なに?
気まずい…………。
沈黙を破ったのはクテシフォンだ。
「ヨル。当日は油断しない様に。」
えっ。何に?
「そうだな。きっと君を見に来るんだろうし。」
誰が?
「このタイミングで………。しかしひ、いやヨルの希望ですしね…。」
ちょっと余計な事言わないで下さいよ、そこの青い人。
「まぁ俺はセイアに気を配っておきますよ。ちょっとシュマル辺りは、お任せしたいけど。」
「ああ、それはいい。私が見ておこう。」
「じゃあ俺は………ニュルンベルク辺り?」
「まあ、お前達は皆が色めき立たん様に気を配れ。」
「はーい。」
んん??
途中からよく分からない話になったけど、どうやらみんなは何か協力する体制らしい。
ラガシュが笑顔で頷いてるから、後で聞いてみよう。
確かニュルンベルクはあの黄色のチャラい、ネイアの筈だ。クテシフォンの言い方からして、みんなの前で聞かない方がいいかも知れない。
「しかしまさか、君一人が来るだけでここまで変わるとはね。」
ハーゼルがすっかり食べ終わって、手を頭の後ろに組んでいる。
クテシフォンに叩かれて、とりあえず座り直した彼は「ひょっとしなくても、ひょっとしたな。」と何だか意味深な事を言う。
それをじっと、クテシフォンが鋭い目で見つめていて、もしかしたらクテシフォンはハーゼルを見張りに来たのだと、思った。ベイルートが留まっている事から見ても。
これも後でベイルートさんに聞いてみよっと。
ああ、忘れそう…………。
頭の中のメモ帳にメモりながら、ふと、思い浮かんだ疑問を口にしてみる。
これだけのネイアが集まっている時に訊けるのは、ラッキーだ。其々がどう答えるのか、ちょっと他の人がいる前での発言も気になる。
その、ふと思い付いたにしてはいい質問を目の前の男たちに投げる。すると一度散っていた視線がまた、私に集まった。
「あの。ちょっと、質問なんですけど。」
「その、古い形式での祭祀をやる事によって、皆さんは何か変化があると思いますか?」
私はここ、グロッシュラーでの祭祀経験が、無い。
ラレードは二年目だが、他は皆ネイアだ。
何かしら考える所はあると思ったのだけれど?
ラガシュだけはニコニコしてみんなの回答を待っていて、他の男たちは真剣に考えている。
興味深い答えは、返ってくるだろうか。
私がそう、期待していると意外と一番に答えたのはハーゼルだった。
「俺は物凄い力が溜まると思うね。舞うのはヨルだしな。」
えっ。それってどういう意味。
私とラガシュがパチクリしていると、ハーゼルの話を遮るようにクテシフォンが言う。
「私は………雪が沢山降るとか、かな?」
あっ。無難な答え言ってくれた。
ベイルートとも目を合わせる。
あんま、分かんないけど。
「俺は、何かしら新しい事があるとは思うけど………何だろうな、石がデカくなるとか?」
何か微妙だけど、いいね、それ。
「確かにデカくなればいいよな。でも奉納する量増えるんじゃね?」
「確かに。」
若い二人がワヤワヤ言い始め、ラガシュが「パン」と手を叩いた。
「さ、そろそろ午後の支度をしましょう。」
「そうだな。」
ラガシュとクテシフォン、二人が率先して片付けへ行き、解散の流れになる。
私の分も持って行ったラガシュを、そのまま待っていると一人残ったハーゼルがニヤリと笑いながら言った。
「この新しい祭祀でお前が本物かどうか、分かるだろうな。」
「えっ?」
「ヨル。お待たせしました。」
ラガシュが丁度戻り、ハーゼルは「じゃあな。」と去っていく。
本物…………?
その、嫌な予感がする言葉を一体誰に報告しようか頭を悩ませながら、私達はまた図書室へ戻ったのだった。
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