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6の扉 シャット
お別れパーティー 本番
しおりを挟むエローラと中庭に戻る。
ちょっといろんな意味でドキドキしながら戻ったけど、心配は要らなかった。
だって、みんなのおめかしが素晴らしかったから。
私のテンションはそれだけでまたうなぎ上りだった。
「遅かったわね。」
通常運転のレナに迎えられ、ベランダに出る。
そこにはちゃんと指定通りにおめかしした面々が既に、揃っていた。
ん?どうやらシャルム以外はみんな揃っているようだ。
「いい感じに仕上がったわね?」
「でしょう?ヨルにはこのくらいかなぁと思って。」
私のお化粧に関しての感想を言い合っている二人は置いといて、中に進んで行く。でもまだみんなに声を掛けずに私は隅っこを陣取り、衣装の観察を始めた。
だって、パーティー始めちゃったら、じっくり見るどころじゃなくなりそうだし!
そうそう、私にお化粧をした後に着替えたエローラは、もうバリバリエローラって感じのモードなノースリーブドレスを着ていた。
確かに、あれだと準備はしづらいだろうね…。
勿論、白黒で切り替えられたそのドレスはギリギリ床までのフルレングスドレス。エローラくらいの年齢でこうしっとりとしたドレスを着られると物凄く、グッとくるのは私だけではない筈。
普段とのギャップもさる事ながら、単純に「美しさ」が前面に押し出されて本当に綺麗だ。
エローラも結構背が高いし、多分今日はヒールも履いているのだろう。リュディアと同じくらいの身長になっている。
スラっとした背の高さにまた、そのドレスが映える。
切り替えはシンプルに胸上が白で下は黒。
長い髪はいつも通りポニーテールに結い上げられているが前髪を上げているので印象が全然違う。
ちょっと、女優みたいだ。キリリとした化粧と凄く、合っている。
これ、白と黒逆でも素敵だよねきっと。真っ白だったらウエディングドレスみたいだし。こっちってウエディングドレス着るのかな??今度結婚式とか出てみたいなぁ…。
あ、いかんいかん。
ハッとして、みんなの衣装を観察だ。きっと、そのうちレナとエローラに見つかってパーティーが始まってしまう!
何故か焦りながらみんなの衣装を順に見ていくことにした。
女子は見終わってるので男子はそんなに時間かからないよ~でも、アレは目を惹くね…。
そう、それはベオ様だ。
流石と言うか何というか、もっと貴族っぽい感じかと思ったら意外と、仕立てのいい詰襟の濃いブルーのジャケット。ちょっと学ランみたいだけど、ベオ様の優等生カットに似合い過ぎている。ちなみに私はブレザーか学ランだと、断然学ラン派だ。
グレーの髪にブルーの瞳なのでピッタリだ。
ていうか、レナが紺色だから結構お揃いっぽいんだよね…。まさか?いや無いかな?でもエローラだしな…後で聞いてみよっと。
ベオ様と話しているのはシェランだ。
二人は最初は犬猿の仲だったけど、帰って来てからベオ様が素直になった事と、あの二人は力の使い方も似ているし元々気が合うんだと思う。
同じ、まじない力を使う選択をしているのもあって一緒にいる機会も多いのだろう。今では始めからそうだったかのように、仲がいい。
そんなシェランは辛子色のジャケットに茶のパンツで薄茶の髪とのコーディネートがピッタリだ。ガタイがいいのでちゃんと肩のあるジャケットがよく似合うシェランは、きちんとした格好をすると、もう大人に見える。背も高いしね…。
そして、私はシェランがベオ様と話しながらも目が完全にリュディアを追っている事にも、気が付いていた。
確かシェランは最初レナを気にしてたよね?
でも別に好きだとか聞いた訳じゃあ、ない。
リュディアとはまじない道具で一緒にいる事が多いし、何より同じウイントフーク教徒だ。
いいんじゃない?二人とも残るし。これから愛を育めば。
丁度、「一人でやっていく」と言っていたリュディアが勿体無いと思っていたところだ。シェランなら安心だし、趣味が同じなのは大きいよね…。
あとは婚約者かぁ…でも最終的に私がデヴァイに行った時に裏工作して…………
「ヨル?」
あ。見つかっちゃった。
でも、私が見つかったのはシャルムに、だ。遅れてきたシャルムからすれば、隅っこで観察している私は怪しくて目立っていたっぽい。
「それ、もしかして…………??」
私の目を最初に惹いたのはシャルムが着ている臙脂の三揃いだ。
しかも、多分シャルムが作ったビロードの。
でも、あれって結構厚みがあって服には向いてなかった気がするけど…………そんな私の考えを見透かしたのか、シャルムが自分から教えてくれる。
「これはこの前まだ出来てなかった生地だよ。もう少し薄く、服地に改良したんだ。エローラの意見を取り入れてね。」
「成る程!だからだ!あの時これを相談してたんだね?」
「そう。それでエローラが「お礼に」って、これを作ってくれたんだ。………どうかな?」
そう、少し照れながらも嬉しそうなシャルム。
はい、ここにも一組誕生~!もう、この二人はラピスで結婚すれば良くない?え?早い?
私の脳内は大分、忙しかった。
だって多分シャルムはエローラの欲しい生地、殆ど作れるんじゃないかな?このクオリティ。
結構、エローラは厳しいよ?しかもこれエローラが染めて、縫ったんでしょう?仕上がりが早いから、リュディアの道具を使ったとしてもエローラが作った事に変わり無いしね?うーん。
いい組み合わせだと思うんだけど、なんでこれで気が付いてないの??
多分、嫌いな奴には服は作らない。なんとも思ってない人にも。多少なりとも、好意はある筈…………だと思うんだけどなぁ~。ちょっと後でレナの意見も聞かなきゃ。
私はそっち方面、疎いという自覚は、あるのだ。
レナ先生に聞けば間違い無いだろう。うん。
「それにしてもヨルも今日は綺麗だよ?大人っぽいね。」
シャルムにそう言われると、実感する。
ワンピース に殆ど露出が無いからと、エローラに結い上げられた髪。片方に流されて、少し緩めに肩に下りている。
ワンピース は実はベランダで見ると、遊色の星がキラキラと遊んでいる。銀糸が大人しく見えるくらい、何かに反射して光っているのだ。
なんだろう、滝の水かなぁ?
小さくキラキラしている私を、戻って来てからずっと見つめているのは気焔だ。
でも、側には来ずに手摺りに凭れてじっと、見ているだけだ。
でも多分、気焔が私をじっと見ている事にみんなが気が付いているのか、私が目立たないよう端っこにいるからなのか、誰も話しかけて来なくて、やっと来たばかりのシャルムが話しかけて来たのだ。
「ありがとう。そう言われると照れるな…じゃあそろそろ始めようか!」
みんなの視線が、私達に集まっている事を認め、そう宣言する。
乾杯しよう、乾杯!
先生も呼んだのでお酒も、ある。
クマさんに「お酒なんて無いよね?」と訊いたら「ある」と言うので用意してもらった。でも大人チームに聞くと「ジュースでいい」と言うので、みんなでジュースで乾杯だ。
先生もいる手前、大っぴらに飲むのはなんだか気が引けるらしい。因みに大人チームというのはシェラン、リュディア、エローラだ。一応気焔もそっち枠だけど、この際いいだろう。
ここではガラスの職人も充実しているようで、綺麗なグラスが沢山あって食堂で迷って何種類か、借りて来た。
「みんな好きなグラスでね。」
そう言って選んでもらい、ジュースを注いでいく。みんなのグラスが満たされた事を確認すると、誰ともなく、みんなが顔を見合わせた。
そういえば乾杯の習慣ってあるのかな?
私がそう思っていると、徐ろにベオ様が話し出した。
それを見守るみんな、ちょっと笑顔だ。
「正直、僕自身こんな会を開けるとは来た当初全く思っていなかった。学ぶだけ学んで、帰ればいいと思っていたからな…。友達……だって、出来ると思っていなかった。」
「始めにみんなに失礼な事を言った事、この場を借りて謝罪したいと思う。今の僕はそんな事は少しも思っていない。今思えば、きっと虚勢を張っていたんだろう。知らない所に来るのも初めて、年上の者も多い。思い出すと恥ずかしいが、それでも受け入れてくれた皆に今は感謝と敬意を。」
「それと、ヨル。お前がいなければ、こうはならなかった。改めてお礼を言っておく。………ありがとう。」
え…………。
何これ。私の事泣かせる会だったっけ?
滝の音だけが轟々と響くベランダで、みんなが微笑んで私の事を見ている。
予想をしていなかった、ベオ様の言葉。
始め、絶対に仲良くなれなそうだと思っていた、彼。その彼と友達に、なれた。仲間になれて、これからも協力していけるのだ。
みんながみんな、いい表情。
まだまだ、私達の目標は途中だけど、今ここでこうやっていられる事。
これからもみんなで励まし合って頑張れるであろう、道行き。
こんなにいい事って、ない。
青空が広がる、この特別な空間でみんなが集まって仲良く騒げる喜び。
この時間が、特別なのだ。
る、涙腺君…………
「お前の願い、ここでは叶ったな?」
そう言って入って来たのはレシフェ始め、招待していた教師達だった。
レシフェがいい具合に空気を変えてくれたので、エローラがしてくれたお化粧はまだ無事だ。
このまま最後まで乗り切りたいものである。
しかし、パーティー中の私は忙しかった。
まず、先生達に挨拶して、お酌をして回る。
別にしなくてもいいんだけど、お世話になったからやっぱりしたかったのだ。
フローレスと長老が話せているかも気になるし、イスファとシュツットガルトに話もしたいし、エローラとシャルムも気になるし、シェランがリュディアにアプローチするのかも気になる。
ベオ様はレナに何か言うのかも気になるし………ああ、忙しい!
そんなくるくる動き回っている私を捕まえたのは、ウイントフークだった。
「おい。ちょっと落ち着け。パーティーとやらは逃げない。」
そう言って私を呼び止めたウイントフークは、流石に今日は白衣ではなく薄いグレーのジャケットを着ている。
水色の髪によく似合うね…………。センスは良さそうだもんね?ウイントフークさん。
「それにしても化けたな。ここまでやると問題じゃないか?」
「だな。」
側にいるレシフェが同意して、気焔が少し離れた所で頷いているのが見える。
でもちょっと「化けた」って表現、止めてもらっていいですか。もうちょっと、ちゃんと褒めて。
そんなところに、シンもやってきた。
「まぁこの場だけなら問題あるまい。」
「そうか?………ふーん、でもそうかもな?」
レシフェはみんなを見渡して、何か気が付いたらしい。この人、勘もいいからな…。
ウイントフークがタイミングよく、私が聞きたかった事を話し出した。
「ぼちぼち調べたい事も終わる。一度ラピスに帰るだろう?」
「そう、思ってます。あ、そうそうとりあえずレナも一緒に行きたいんですけど、大丈夫ですよね?イオスのお菓子も伝授して貰いたいし…」
「まあ、大丈夫じゃないか?後で聞いてみるといい。」
そう言って長老と話しているシュツットガルトを顎で示す。
一応、ここの長なんだからさ…顎は止めようよ、顎は…………。
「それにしても………俺にも作ってくれよ?」
レシフェが言っているのは多分私達のお揃いの服の事だろう。
やっぱり…並んで見たいよね??
シンが来てから、まだ三人がちゃんと揃っていない。
気焔を手招きする。
少し億劫そうにやってきた気焔だが、腕を掴んで引っ張ってきた。私が真ん中かな…………。
並んで、両隣を見上げる。
うーん、ここベスポジ。
「良くない?良くない?」
最高にテンションが上がって騒いでいる私をちょっと呆れた目で見ているウイントフークとレシフェの二人。
でも、褒めてくれる人がやって来た。フローレスだ。
「まあまあ!素晴らしいわね!しかも並んでいる所が見られるなんて。教師をやってて良かったわ。」
そんなに?ウフフ。
ありがたい褒め言葉を受けて、ニヤけた顔が治らない。いつの間にか、長老とシュツットガルトもやって来て鑑賞に加わっている。
「メモメモ………」とシュツットガルトが言っているのが面白い。
「何と言いますか…………眼福ですな。」
「そうですよね。二人に挟まれるとヨルが余計また光って見えますね?」
「それ俺も思ってたけど、みんなそうなのか?」
「ああ。まずいがここだけなら仕方あるまい。しかし…服のせいか…?」
まずい。このままだとウイントフークに脱がされるかもしれない。
するとまた違う方向から声が聞こえる。これは…………。
「こうやって並ぶとやっぱり選べなくない?」
「そうね…テイスト的にはシン先生かな………。でもちょっとその二人だと派手すぎるかな…。」
「それある。派手だよね。」
「でもシン先生と並んだら誰でも派手なんじゃない?」
「いや、だってヨル今日光ってるじゃん!あれ、なんで?エローラ何かしたの?」
「いや…普通にお化粧して、髪やっただけなんだけどな…。でも元々ヨルってそんな感じだから。」
「成る程ね…………。あれとこれから一緒なのか…………。」
ちょっと?どういう事?
なんだか色々言いたい事はあるけれど、まぁ、いい。ウイントフークの注目が逸れたようで、私はレナ達の方を向いた。
あれ。みんな見てる。
そう、生徒達もみんな、私達三人を見ていた。
あらら?なんで?
しばらく、なんでかみんな無言で私達の鑑賞会みたくなっていた。
…………まぁ、私の力作をこんなにしっかり見てくれるとは、製作者冥利に尽きますけども?うんん?
両隣を見ると、「見られても当然」くらいの感じで普通に立っている、二人。
なんだろな………この人達。
私はそのままススス…………と真ん中を抜け出し、生徒達の中に紛れ込む。そして遠巻きに二人を眺めて満足するのだ。
うんうん、客観的に見るの大事。
なんだか最近、微妙な空気を感じる二人の仲。
並んでいるのは貴重だ。しかも、おめかしして。
「ねぇ。で、どっちなの?」
レナが私を突いた時、もう二人はパッと離れてしまった。
ああ…………貴重なショットが………!でもちゃんと心の中でスクショしたもんね!
そうして私は女子の中に紛れ込む事に成功した。
ここからまた活動開始だ。
でもとりあえずはレナとエローラの二人に捕まった私は、近況を話す事になった。
自分の中でも、確かに少しずつ、変わってきているであろう、心の中を。
「でも最近、気焔だよね?」
ズバッと斬り込んできたのは流石のエローラ隊長だ。
私が服の事で相談してたり、なんだかんだ途中で話を聞いてもらっていたのでやっぱりエローラから見ると気焔優勢らしい。
「でもさぁ。私は結局最後美味しいところを持って行くのはシン先生な気がするんだよね?あの人、そういう感じしない?」
分かる。それ。あり得る。
エローラも頷いている。
でも、私はとりあえず今の自分の気持ちを、言ってみた。
「多分………シンはベースにあるんだけど、今気になる?心配?なのは気焔だと思う。この前、キ…。いや、いい。」
その瞬間、キラリいや、ギラリとエローラの目が光った。
まずい。絶対、逃げられない。
「ちょっと。キ…って事は?!」
「アレでしょう。されたの?」
「ヨル。真面目な話。答えなさい。」
二人が怖い。
「…………されては、いない。…………でも、されるかと思ったし、されてもいいと思った…の。」
完全に目が据わっている二人は顔を見合わせた。
目を大きく、見開いて「これは…………」
「事件よ!!」
「お祝いだわ!」
「お酒は!?」「ヨルはまだ飲めないわよ。」
「そっか!ジュース、ジュース!!」
そう言って私はレナに腕を掴まれバンバン叩かれ、エローラは急いでグラスのジュースを三つ持ってきた。
訳もわからぬまま、三人で顔を見合わせて頷き、ジュースをグッと飲む。
え?これ、なに??
「おめでとう。」
「やっと、この日が来たか…………。」
「なぁに?どうしたの??」
私たちの騒ぎを聞きつけたリュディアもやってきて、女子会が始まってしまった。
このベランダでは隠し事が出来なそうだ。早速エローラが「ヨルが…ヨルがやっと………」とかちょっと涙ぐみそうな勢いで話している。
でも、やっと、何なんだろう?
チラッとレナを見ると「あんた気が付いてないの?」と言われた。
「何に?」
「多分、初めてそういう気持ちになったんでしょう?好きな人が、出来たって事よ。」
そう、ハッキリと言ったレナ。
「好きな人」?って言ったよね?
私はレナの茶色の瞳を見つめながら、「好き………な人?」と呟いていた。
その様子に不満そうなレナは、私に疑問を投げ掛ける。
「じゃあ、あんたは好きでもない人からキスされたい訳?」
「え?!嫌だよ、絶対。」
「でしょ?女の子が、それだけ心を許してる人なんて、好きな人以外に無いわよ。」
…………。好き?気焔を…………?
目が、彼を探す。
いた。また手摺に凭れて、ウイントフークと何か話している。今後の話だろうか………。
あっ!こっち見た!
定期的に私のチェックをしているのか、気焔の目線が時々こっちに来るのが、分かる。
それを認めると、こっちを気焔が見る度に自分の顔が熱くなるのが、分かる。
え?マズくない?これ。
「ちょっと。大丈夫?………まぁ私は面白いからいいけど。」
面白くないよ…助けてよ~。そういえばレナにも聞いてみようか…?
「ねぇ。レナから見て、気焔光ってる?」
「は?…………フフ……アハハッ!」
急に腹を抱えて笑い出したレナに呆気に取られていると「どうしたの?」とリュディアに聞かれる。エローラも「何々?」と食い付いてきた。
「ヨルが…ヨルが…………!」
「ちょっとレナ…………」
そんなに??
しばらく笑い続けてやっと落ち着いたレナが言ったのは、「ヨルの目が恋する乙女になっちゃった」だった。
なんかそれ、恥ずかしいんですけど!!
「ヨル、何か父さんに話があるんだって?」
そう、私に助け舟を出してくれたのはイスファだった。
それにすぐに飛び付いたのは、言うまでも、ない。
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