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5の扉 ラピスグラウンド
気焔と森の話
しおりを挟むこの状態だと、決めておいた方がいいな。
朝と気焔の様子を見て、わたしは今の状況を察した。
あいつ、かなりだな…。
気焔の事をまた消しそうな目で見ているシンを見た時にすぐにピンときた。
面倒くさい事になっていると。
案の定、朝がわたしの肩に飛び乗り「本気でまずい」と言ったのですぐに揶揄うのを止めてヨルを見る。
あいつにはこの手が1番だ。
ヨルはすぐに何かを察してシンを見る。
すると、わたしが目をやった時には既に何でもないような顔をして立っているシン。
コイツ本当に…………。
周りの迷惑を考えろ。
額に手をやりつつ、戻っている朝に目で合図すると、また近くで話せるよう同じ目線の棚にやってきた。
朝はわたしの言いたいことが直ぐに伝わるから、楽だ。
人間なら直ぐ助手にするのだが。
「なに?」
「祭りのヨルの事だ。あれに誰か付けないと、まずいと思うが、気焔だと問題あるか?」
誰かしら祭りでヨルに接触してくるだろう。
ヨルとハーシェルが話しているうちに、話を進める。ハーシェルはヨルの事になると冷静に判断出来ない事が多い。
面倒くさいので話に入れない事にする。
「そうねぇ…。最近、アタリがキツいらしいわよ。本人が守るのだと、まずいの?まぁ目立つけどね…………。」
「お前、聞いてないか?夏祭りであいつ、姿を変えて現れてるぞ。しかもちゃんとヨルを守ってた。ククッ、ちょっと突いてみるか。このままじゃ気焔も割に合わんだろう。」
何となく2人で並んで立つ彼らの所へ行く。
白銀と、金。
組み合わせ的には申し分無いのだが、こいつらの関係はどうなっているのだろう?
2人で守る、でいいと思うのだがどうやら白銀の方が立場が上のようだ。
結局、シンの本当の姿を知らない。
気焔はもの凄くいい石だが、同じようなものなのだろうか?しかし、朝の態度からしてもやはりシンの方が上なのだろう。
まぁ何にせよ知らない方がいい事は確かだ。
わたしは思考を止め、2人を見る。
シンはこちらを気にしていたので、きっと何の話をしていたのか分かっているだろう。
敢えて、訊く。
「気焔。お前、冬の祭りでもヨルと一緒でいいな?最近はずっと出たまま、護ってるんだろう?」
「いや…………今は自分で戻らんのじゃ。依るが戻れ、と言うまではな。お主…………。」
勘弁してくれ、という目で見られたのでこのくらいにしておく。気焔がいないと困るからな。
きっとあの言葉に縛られて、自分では戻る事ができないのであろう。
シンを動かす為に気焔に嫌がらせをしたがさて、本人は涼しい顔を装っている。
さすが。だが、そろそろ自分で行動してもらわないとわたしも忙しい。
後から文句を言われても、困るしな。
「シン。どうだ?夏祭りは来たんだろう?聞いてるぞ。冬もお前が来たら丸く、収まる。ただ、隣に立ってるだけでいいぞ?わたしの親戚とか何とか適当な事を言っておくからな。」
きっと姿を変えてもオーラが変わらないので、滅多なやつは近づかないだろう。いい護符になる。
しかも冬祭りは夜がメインだから、きっと暗くなってからもヨルは見たがるはずだ。
夏よりも危険は増えるだろう。
しかしわたしがここまで言っても無言。
どうせやるくせに。もう一押しか。
どうしたものか思案していると、朝が一言
「何も無いところには芽吹きませんわよ。」
と言った。
それを聞いて少し赤の瞳が揺れる。
そして、やっと頷いた。
どうやらやるようだ。
「じゃあまた詳細は後日だな。気焔は上手く立ち回ってくれ。」
当日のあれこれは気焔に丸投げでいいだろう。
とりあえずこれだけ決まっていれば問題ない。
朝と顔を見合わせて、ニヤリとする。
猫も、ニヤリと出来るのだな、と思いまた助手にしたいと思った。
こいつなら猫でも務まるかもしれない。
うっ。寒っ。
暗い。
正確に言えば少し明るくなり始めてる、くらいの時間だろう、辛うじて部屋の中が見える。
布団から出ている手が冷たい。息も、白い。
凍える~。
しかし私には湯たんぽがある。
それは気焔だ。
めちゃくちゃ便利グッズ扱いをしているが、仕方が無いと思う。
あれから、気焔は戻らなくなったからだ。
前までは勝手に出てきて勝手に戻っていたが、どうやら戻れなく?なったらしくずっと出っ放しだ。しかし特に不便は感じていないので、そのままにしている。
ただ、寝る時にちょっと困った。
始めは「床に寝るからいい」と言い出したのだ。
彼に言わせれば、「石なので寝なくても問題無い」そうだ。
でも、床に寝られても落ち着かないし、じっと見てるのも止めて欲しい。
よって、一緒に寝る事にした。
何故か分からないけど私より大きい気焔と寝ても窮屈さは感じない。
「石だから?」と思ったけど、朝に言わせればそういう問題では無いそうだ。
ただ、2人には「他人には絶対に言ってはいけない」と言われている。
めっちゃ怖い顔で。
まぁこの歳で「お兄ちゃんと寝てます!」というような考え無しではないので、そんなに心配しなくても大丈夫なのにしつこい位、念を押された。
「「絶対、言うな。」」と。
そんな湯たんぽを布団に残して、そっと床に降りる。
こないだティラナと作ったチュンのルームシューズを履く。チュン→ウサギだ。
ウサギってチュンって鳴くっけ?と思ったけどよく分からないからまぁいい。
ウサギのルームシューズなんてあったかいに決まっているので、足元が冷えて仕方が無かった私達はハーシェルに頼んで買ってきてもらっていた。
勿論、ルームシューズは無かったのでチュンの毛皮を買ってもらい2人で作ったのだ。
寒くなってくると必然的に家に篭る事が増えるので、家仕事が捗る。家の中も足元は結構寒いので冬仕事の為にもルームシューズをまず作ったのだ。
これでゆっくり作業が出来る。
冬の祭りが近づいて来たので、その準備と冬支度をしなくてはいけない。
ルームシューズを履くと、床に置いてある火箱に火を付ける。
気焔が寝ていても、ちょっと力を込めれば暖かくなる火の石が仕込まれている小さなストーブのような道具だ。
木の枠の中に火の石が入っていて、赤く燃えるように光る様はとても綺麗だ。
きちんと炎のようにゆらゆら揺らめくので面白い。ウイントフークは妙な所が凝っている。
本物のような炎は見ているだけで暖かいような気がしてくる。
ま、気がしてくるだけなのできちんと足元に火箱を置くと、朝の紅茶の準備を始めた。
「フフッ。これやっぱり凄い、可愛いよね。」
「君に似合うやつを作った」という、貰った時に言われたセリフが気になるカップはロランから貰ったものだ。
夏から涼しい間はヨークのガラスだったけど、やっぱり寒くなってくるとカップが欲しくなる。
マイカップを目論んでいた私は注文しようと工房へ赴いたが、ロランがプレゼントする、と作ってくれたのだ。
なんだか腕のいい職人からタダで物をもらうのは気が引ける&「ロランはヨルに気がある」と言われていた私は躊躇ったが、ヨークに「貰ってやってくれ」と言われてしまったので、受け取るしかなかった。
正直、かなり可愛いので嬉しかったし。
そんなカップでウイントフークから譲ってもらった糞をポットにセットする。
冬に向けて、糞が少しまろ味を帯びたブレンドに変わっているところが憎い。
あの人、シャットでお茶のブレンドも学んだのではなかろうか。
そこまで考えてそう言えば、とベッドを見ると気焔はまだ目を瞑っている。
でもさっきまで布団に隠れて見えなかったくせに、出てるって事は起きてるよね。
まぁ、いいけど。
起きているであろう気焔に、そのまま質問をした。
「ねぇ、気焔。シャットって、6の扉なの?」
普通に目を開けて気焔が答える。
何の為の狸寝入り?
「そうだ。一応そのような名前が付いておる。吾輩5の石でな、そう詳しくはないが行った事はあるぞ。」
「へぇ~。工業地帯ってなに?どんな感じなんだろう。全然想像つかない。」
「まぁそう心配せんでも大丈夫じゃろ。吾輩も朝どのもおる。お主、6の石を探すのも忘れるでないぞ?多分お主が忘れそうになるものが多いからの。6の扉には。」
気焔が心配するのも分かるが、私はちょっと楽しみである。
だって、エローラの家みたいな所って事だよね?手芸以外にも職人系の仕事が集まっているのだから私にとっては天国に近い。
本当に気を付けていなければ、目的を忘れそう、もしくはとっても時間がかかりそうだ。
ふむふむ。ん?朝と気焔?
「ね、朝はもう決定でいいのかな?気焔はどうする?このまま行く??」
朝は多分大丈夫、と言われているだけだ。
勿論一緒には行きたい。
気焔はこのまま出てるなら、人として行かないとマズくない??許可いるんだよね?
私の心配を他所に気焔は何故か大丈夫な確信があるようで、朝については心配ない、としか言わなかった。
私は一緒なら、それでいいのであとは聞かない事にする。
自分の事については「上手くやる」と悪い顔をしてニヤッとしていたので、まぁ放っておこう。
そうして朝のティータイムを終えた私は身支度をして下に行く事にした。
洗面を済ませ着替えをして、髪留めを付けて完成だ。
「この髪留め、凄いよね…………。」
鏡に映った自分を確認しながら、近づいて髪留めをまじまじと見た。
あの時から、何度も見ている。
ちょっと大きめのキラキラした石に、羽のような飾りが付いているデザイン。石は穏やかな金茶でかなり透明度が高く、四角くカットされていて動かすとキラッと光る。
羽のような部分は石から生えているようにくっ付いていて、真珠の様なパールの色だけど透明感がありオパールっぽくもある。
石の片側に流れ星の尻尾のように付いているそれはなんだか不思議な質感だ。
見た目は硬そうだけど、触ると少しふんわりしている。
何でできているんだろう??ウイントフークに聞いたら分かるだろうか?今度行ったら聞いてみようと思いつつ、「よし!」と言って部屋を出る。
癒しタイムは終了。今日も頑張りますか!
冬の祭りはもうすぐだ。祭りが終わると冬篭りに近くなるそうなので、やりたい事をやっておかなければならない。
実は森へ遊びに行くのに、この姿で村の人に見られても大丈夫なように作戦を考えていたのだ。
だって、もっと気軽に行きたいんだもん。
朝食後、ハーシェルに許可を取り出かける事にした。
最近はずっと気焔がいるのでハーシェルも心配が減ったようである。
それも私が気焔を出したままにしている理由の一つだ。どうやら気焔はあの時の私のお願いを忠実に守ってくれているようだ。
完全無欠の24時間ボディーガードがタダだなんて、美味しすぎる。
何故か私の考えが漏れたらしい朝が「依る、流石にそれは残念すぎるわ…」って言ってたけど、また口に出てたかな??
私達はいつものように連れ立って、家を出た。
「ねぇ。私がいない間にティラナが寂しくないように、何か置いていきたいんだけど何がいいと思う??森になんかいいものないかな??」
実はそれも目的の一つだ。
あとはお世話になった人にも、出発の挨拶として何か送りたいと思っている。
歩きながら朝が鼻で指した。
「軽いものなら、スワッグかポプリじゃない?依るらしいし。」
丁度門を出て畑を通っていたので、朝が指したのはハーブ畑だ。もう殆どのハーブは終わっているので少し寂しい。
畑で仕事中の人達も冬支度中心なのだろう、土を均したり最後の収穫の根菜を取ったり、干したりしている。
その様子を横目で見ながら進む。実は気焔はいるけれど、色々突っ込まれるのを避ける為今日もラギシーを使って森へ向かっているのだ。
畑には顔見知りもいるし、すぐ噂になるラピスでは面倒ごとになるかもしれない事は小さな事でも避けるようにしている。
ほら、やっぱりテレクも居るし。
畑で作業中の彼を見てそんな事を考えたが、テレクだって仕事なのだから仕方がない。
でも、好意だ、と認識してしまうと自然と足が遠のいてしまう。
こんなんじゃ、恋愛なんてまだまだだね…………。
なんだか地味に落ち込みながら森へ入ると、入り口のトウヒが心配そうに声を掛けてきた。
「どうした、ヨル。今日は元気ないな。」
トウヒは何度か森へ通ううちに、仲良くなった針葉樹である。
私はこっそり森の番人、と呼んでいる。入り口辺りにある木で1番大きくて目印になっているし、いつも伝言をしてくれるのは彼だからだ。
ちゃんとした名前を最初に聞いたのだが、忘れた。「トウヒって呼ぶね♪」なんてやっているうちにすっかり忘れたのだ。
まぁよくある事である。
「大丈夫。そんな事ないよ?今日はおじいさん達に用事じゃないけど、寄っては行くから一応伝えておいてね。」
「それならいいのだが。あいわかった。」
きっと私が何も言わなくても来た事は伝わるのだろうが、一応挨拶は必要だ。
森の木ネットワークはすごいし、何よりなんだか内緒で入るみたいで嫌なのだ。
来訪は伝えてもらうので、さてどこから行こうか。
右が人攫いのアジトがある方、左が村だ。
真っ直ぐ行くと、おじいさん達と泉がある。
「依る。まず用から済まそう。」
私が立ち止まっていたので気焔がそう言って先頭に立った。そのまま進んで行く。
私もトウヒに「またね」と言いながら、追い掛けた。
今日の作戦は、こうだ。
気焔と一緒に行って、女神の仮の姿だと紹介してもらう。
それだけ。
え?作戦じゃない?まぁそうかもしれない。
色々考えたが、その方法が1番いい、という事に全員一致で決まった。
ややこしくすると、何だか後が面倒な気もするし。
一度この姿で認識されれば、「この世界が気に入ってお忍びで遊びに来ている女神」設定が使えるはずだ。
もうすぐ村かという頃で「ちょっと。」と言って朝が立ち止まった。
「どうしたの?」と私が朝の所まで行く。
「吾輩先を見てくる。ここにいろ。動くなよ?」
ちょっと念押しされて、気焔はそのまま進んで行った。
木々に隠れて気焔の姿が見えなくなると、心配になる。
「ねぇ。朝、何かいたの?」
「いや、人の気配よ。多分村の人だと思うけど、一応ね。」
朝がそう言うので少しホッとして、座って待つ事にした。立っていると目立つ。
少しして、気焔が戻ってきた。
特に、変わった様子はないので安堵する。
じゃあどうしたんだろう?
「村人だった。何か、不審なものを見つけたようじゃ。吾輩も確認したが、かなり黒い気配がする。依るは近づかん方が良い。」
そう言うと気焔は「先に行っておる。」と朝に言い、ふわっと私を抱き上げた。
そしてそのまま黄色の炎を出し、全体を包む。
一瞬重力の感覚が無くなって「わわっ」と目を瞑ると、ギュッと気焔の腕を掴んだ。
「着いたぞ。」
「へ?」
目を開けると、そこは既に村の広場でザフラと長老が待っていた。
きっと気焔がさっき来訪を伝えていたのだろう。数人の村人も跪いている。
気焔は私を下ろすと、ゆっくりと話し始める。
どこから声を出しているのだろう。
何だかいつもと違う低くてうっとりするような声で話している。
倍音で聞こえるその声を私は不思議な気分で聞いていた。
「ザフラ、村の衆、久しいの。この度は良い知らせを持ってきた。女神がこの村を気に入られたので、人に変化して度々訪れる事となった。皆、周知して普段通りに接してくれて構わないが害するようなことがあれば。…………分かるな?」
少し呪文に近いような雰囲気で話す気焔の話を、皆聞き入っている。
これ、もしかしてまじないかけてない?
村人は皆言葉が芯に入ったようで、気焔が話し終わると私に順に挨拶に来てくれた。
確かに、変に特別扱いされる感じは無いが丁寧に接されている気は、する。
それは多分、あの話し方と最後のセリフで見せたあの目だ。
一瞬キラリと金に戻ったその目は、私がちょっと落ち込んだウイントフークの家で見たその目と同じだった。
分かるよ、みんな。あの目怖いよね…………泣。
その後は少しザフラと長老と情報交換だ。
街から出てくる人がいなくなったのは聞いていたので、その後の話をしてもらう。
「最近は皆穏やかに過ごしています。でも以前より楽しそうかもしれません。泉が今までに無かった恵をもたらしてくれていますので。」
お魚が漁れるようになったのが大きいようだ。
確かに~お魚大事だよね~。
そんな私の表情を察したのだろう、長老がお昼ご飯に誘ってくれる。
「女神がいつ来てもいいように、朝釣っておりますのじゃ。」
毎日少し、魚を漁る事にしているらしい村ではお供えをしてから食べる事にしているらしく今日漁れたものは既に供えられているらしい。
丁度朝がてくてくやって来た所で、お昼にする事になった。
忙しなく女達が動き始めた様子で、どうやら昼から宴会が始まる事が分かる。
「大変じゃないですか?」とザフラに言うと、「これが楽しみなのです。大丈夫ですよ。」と言うのでそのままもてなされる事にした。
でもやっぱり気焔は手伝ってるけど。
あの人、ここでどういう立ち位置なんだろ??
準備が整ったようで、ザフラの挨拶で皆が飲み始めた。
「女神様の姿を周知し、失礼のないように。何かあれば、お助けするのだぞ。」
「「「「「はいっ」」」」」
おおぅ。
結局大層なことにはなっているみたいだが、仕方がないだろう。
気焔が言うには「女神」という盾を取り払うのはあまりにも危険だそうだ。
ジトっとした金の瞳で「お主は何でも引き寄せるからな」とか人を磁石扱いしていた。失礼な。
するとザフラが少し気になる報告を持って来た。
久しぶりのお魚を堪能していた私はお行儀が悪いのは分かっているが、もぐもぐしながら頷いた。
「今日の黒い穴の事ですが…………。」
私が頷いたのを見て話し出したザフラは、さっきの騒動の話をしているのだろう。
気焔が「黒い気配」とかしか言わなかったので、それが穴だという事が分かった。
そしてザフラが言うにはそれが移動している、と言うのだ。
動く穴?
何それ。危険信号??
「最初に見つかったのは3年程前かと思います。」
「え?そんなに前からなのですか?!」
驚いて報告途中なのに声を上げてしまった。
ザフラは頷いて話を続ける。
「初めは気にしていませんでした。穴が開いているので、落ちないように周知していた程度です。しかし、しばらくするとその穴は自然に消えていました。そしてまた、違う場所に同じ黒い穴が出来ていたのです。一つなのか、どのくらいの頻度なのか森全てを調べた訳ではないので分かりませんが、二月に一度位で発見されています。ここから離れると判りませんが…。」
それって。
3年前から2ヶ月に一遍って、18回は確実に穴があった、って事だよね。
て言うか、何の穴なんだろう??
「実はあまりにも開いたり消えたりするもので、私達も不審に思い何度か物を落としてみた事があります。しかし、穴の中は見えず底に当たった感じも無い。1度は松明を落としましたが、灯が小さくなって行くだけで消えずにそのまま見えなくなりました。」
…………。
それ、ブラックホールじゃない??
白の次は黒か…………困ったな。
とりあえずどうする事も出来ないし、そもそも私はその穴を見ていない。気焔教えてくれるかな…………。
過保護に運ばれた事も気になる。
しかし、今のところ村に害は無いようなのでまた何かあれば「目」を飛ばすようザフラに言い、ザフラも宴会を楽しむよう言う。
村の人にチラチラ気にされ出した頃、気焔がやって来て「そろそろ帰るぞ。」と言う。
モヤモヤしながらもしっかりと森の恵みと泉の恵みを堪能した私は、満足して立ち上がった。
「もう大仰に帰る必要無いからの。ザフラには伝えた。普通に帰るぞ。」
「はーい。お友達できなかったな…。」
あわよくば、遊びに来た時の話し相手くらい見つかるかなぁと期待していた私はちょっとがっかりしていた。
すると気焔は私の顔を覗き込むと器用に瞳をクルッと金に変えて「必要無い」と言った。
なんで。
すぐ戻った茶の瞳を見ながらいつもの過保護か、とため息を吐く。
そのまま帰りは気焔に手を引かれて、家に帰る。
あ、おじいさん達のところに行くの忘れてた!
後ろを振り返りながら、引っ張る気焔に少し早歩きでついて行く。
だから子供じゃ無いってば!
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