上 下
5 / 26

3日目 トロント大学の天才数学少女

しおりを挟む
雪が降る昼下がりの3時半。

フミさん(仮名) 20歳 トロント大学で数学を専攻

フミさんの第一印象
眼鏡を掛けていて真面目そう。話し方などもザ・リケジョって感じ。だけど、まだ20歳ということもあり、まだまだあどけないところもある。

「こんにちは、フミさんですか?」

「あ、はい。こんにちは」

「こんにちは、エリです。初めまして」

「初めまして」

「では、今日はフミさんとのはじめてのレッスンなので簡単に自己紹介しましょう」

「あ、はい」

「私は○○(会社名)で日本語講師をしているエリです。普段はこんなふうにオンラインで日本語を教えています。宜しくお願いします」

「あ、宜しくお願いします」

「じゃあ、次はフミさん」

「はい。私はカナダで生まれたフミと申します。今、19歳です。大学3年生です。専攻は数学です」

うわ、若い。いいなあ。

「そうなんですね~」

「はい、今トロント大学で勉強しています」

え?トロント大学?めっちゃ頭いいとこじゃない?すごー。(←ただのミーハー)

「そうなんですか! トロントは今寒いですか?」

冬のトロントは-20度を下回る事もあると聞いた事がある。

「あー、まあ。寒いだと思います(寒いと思います)」

「なるほど。正しくは寒いと思います、ですね」

「あ、はい」

「そっかあ、やっぱり寒いんですね」

「はい、最近家出られませんですね(出られませんね)」

「そうですね。それにウイルス下で、大学もオンライン授業なので家から出られないですよね」

「あ、はい」

「フミさんの大学も同じですか?オンラインで授業をしていて学校には行っていないんですか?」

「あ、はい。でも、私の残りの授業はもうテストしかないです」

「あ、そうなんですね。テストの準備は大変ですか?」

「いえ、大変ではないです」

おお、頼もしい。

「専攻は数学なんですよね?
数学が出来るのは凄いですよね。私は英語や中国語を学生時代に勉強していましたが、数学とかの理系科目は苦手でした」

「はい。じゃあ、専攻科目は?」 

「専攻は日本文学です」

「あー、大学で日本文学の専攻もありますか?」

「ありますよ」

「へー、先生は日本の文学が好きですか?」

来たこの質問。よく聞かれる質問Best3に入る。

「はい、好きです。文学って言ってもジャンルは広いですけど、主に現代文学ですね」

「そうなんですか」

「はい。フミさんはずっとトロントに住んでいるですか?」

「あ、いえ。バンクーバーに大学まで住んでいました」

バンクーバー。半年間語学留学した事がある。

「え、そうなんですか! 」

「はい。バンクーバーで生まれました。そして、小学校から高校までそこに住んでいました」

「へー、そうなんですね。じゃあ、トロント大学に行くためにバンクーバーからトロントに引っ越したんですか?」

「はい」

「なるほど。フミさんは日本語もお上手だから、日本語も勉強していたんですか?」

「うーん、特に勉強していません。ただ、自然に覚えました」

へー。なるほど...って。凄くない?
自然に覚えちゃうものなの? 日本語!

「ええ、そうなんですか?勉強していないんですね。普通に日本語で会話出来ているから普段から勉強しているのかな、と思って」

「いえいえ。多分普通です」

普通...。普通なのか。普通ってなんだ。

「フミさんは英語が母国語ですか?」

「はい、普段は英語を話します」

「では、何ヶ国語話す事ができますか?」

「多分...3カ国語」

「というと、英語と日本語と...?」

「英語と日本語と、後は...うちで話しますのは...ほうけんだと...」

「ほうけん?」

「あー、えーと。英語でいいですか?」

「はい」

「Cantonese (広東語)」

「あー、かんとんご! ですね」

確かにフミさんの外見はアジア系だった。

「はい」

「広東語は香港の言葉ですよね」

「はい。私のおじいちゃんとおばあちゃんは英語は話せませんですから(話せませんから)」

「なるほど」

「だから、彼らとは広東語で話します」

「そうなんですね。じゃあフミさんは普通話(標準中国語)は話しませんか?」

「普通話は...ちょっとだけ分かります」

「なるほど」

「学校には中国の北部から来た学生もいますし、彼らからちょっとだけ中国語を教えてもらっていました」

「そうなんですね」

「先生は何処に住んでいますか?」

「私は北海道に住んでいます。分かりますか?北海道」

「あ、はい。わかります。"なつぞら"のロケ地ですね」

この時私は"なつぞら"というドラマを知らなかった。

「なつぞら、ですか?」

「はい。朝ドラです。確かなつぞらの舞台は十勝です」

「そうなんですね。調べてみます」

「はい」

スマホで"なつぞら"と検索。おお、広大な十勝の牧場の写真が出てきた。いいなあ、十勝。北海道って言っても広くて私が住んでる札幌から十勝は凄く遠い。車で3時間以上がかかる。

「それにしても、フミさんの日本語は本当に上手ですね。特に勉強していないんですもんね?」

「はい。小さい時からずっと日本のテレビやアニメを見てたので、自然に覚えました。毎日日本語を聞いていましたから」

「毎日ですか...」

「はい。本当に色々な番組、テレビドラマやバラエティを見てきました。日本語が話せるようになったのは全部テレビのおかげです」

凄い。小さい時から外国語に親しめば本当に自然に話せるようになるのだ。

「そうなんですね...。それって凄くいいですよね。外国語を"勉強する"ってなると時々辛く感じて続かなくなる人が多いと思います。多くの日本人も英語を勉強している人は多いですが、続かない人が殆どだと感じます。だから、フミさんのように楽しみながら自然に外国語を身につけるのはストレスもないし、凄くいい方法だと思います」

「先生も外国語を勉強していますか?」

「はい、今も勉強していますし、大学在学中はバンクーバーに半年間留学して英語を学んでいました」

「そうですか。私は勉強は嫌いです」

「なるほど笑」

「私が日本語を学ぶために、日本語学校に通っていたとして、先生に日本語を教えられていたら多分嫌いになっています」

「そうですか笑 確かにそうなのかもしれませんね」

「それに、今度は韓国語のレッスンを大学で受けてみたい」

「今度は韓国語も勉強するんですか?」

「まだ分からないですが。授業はオンラインなのでこれからどうするか考えます」

「そうですよね。フミさんは最近は家にいる事が多いですか?」

「あ、はい。そうですね」

「じゃあ、オンラインで授業を受ける以外は何をして過ごしていますか?」

「最近はゲームをしています。後は友達からおすすめされたアニメやドラマを見ています」

「そうなんですね。フミさんが好きなアニメはなんですか?」

「鬼滅の刃やワンピースですね」

さすが鬼滅の刃。全世界で人気なのだ。

「先生のおすすめはありますか?」

「私のおすすめは...。少し古いですけど藤子不二雄さんの作品が凄い好きです。面白いですよ」

「あー、知ってます」

「知ってますか?」

「はい。ドラえもんが有名ですね」

「そうです。他にも沢山のキャラクターの漫画を描いてますよ」

「そうですか。ドラえもんしか知りません。すみません」

「いえいえ、大丈夫ですよ。やっぱりドラえもんが一番人気ですよね」

「はい。世界中で人気です」

「わあ、そうなんですね」

「はい」

「フミさんは今は大学生ですよね。卒業後は何か夢とかあるんですか?」

「まだ決めていないです」

「そうなんですか」

「はい」

語学力があり、名門大学で数学を専攻する彼女の将来はどのようなものになるんだろうか。

「ところで、私はバンクーバーに留学で住んでいた事がありますけど、一度トロントとバンクーバー、留学先をどちらにするかで迷ったんですよ。でもトロントは冬に凄く寒いっていうのを知ってやめたんですよね笑」

「トロントは寒いですよ笑 でも今年は例年に比べると寒くないですよ。バンクーバーはいつも暖かくていいですよね」

「でもバンクーバーは雨が多いですよ」

「そうですね。レインクーバーですから笑」

バンクーバーは雨が多いから、別名レインクーバーとも言われる。

「トロントには来たことありますか?」

「いえ、まだないです」

「バンクーバーもいい景色が多いですが、トロントにも沢山のいい場所があるのでぜひ遊びに来てください」

淡々と話す彼女だったが、この時だけは、セリフを復唱するかのように一生懸命話すフミさんはとても可愛い。遊びに行きたいよ~トロント。冬は寒いけど暖かいときにでも。

「はい、行きたいです」

「バンクーバーの方がトロントより家賃が高いです」

「そうかもしれないですね」

トロントは大都市だから物価は高いと聞いた事がある。

「先生がバンクーバーに住んでいた時は家賃はいくらでしたか?」

「うーん...私が住んでいたのはシェアハウスなんですけど、650ドル(52000円くらい)くらいでしたね。その時はルームメイトがいなくて一人で暮らしてました」

「え、めっちゃ良いじゃん」

テンションが急に上がるフミさん。

「私がバンクーバーで家を貸していた(借りていた)時は二つの部屋を分け合うシェアハウスで1人分が800ドル(64000円くらい)でした。今住んでいるトロントでは1200ドル(94000円くらい)の部屋を貸して(借りて)います」

「なるほど。やっぱり少し高いんですね。それと、部屋を"貸して"ではなくて"借りる"です」

「あ、なるほど。lent(借りる)ですね」

「はい」

「先生はバンクーバーに留学していた時は大学に留学していましたか?」

「いえ、カレッジです。カレッジでビジネスを学んでいました」

私がバンクーバーにいた時は外国人留学生のためのビジネスカレッジ(スクール)に通っていた。

「バンクーバーには沢山のカレッジがありますよね」

「そうですね。沢山あります。ガスタウンにあるカレッジでした」

「蒸気時計がある近くですね」

蒸気時計。バンクーバーのダウンタウンの観光名所だ。

「そうです。有名ですね」

「何度か見たことあります」

「そうですか」

「でもすぐ飽きます」

分かる。一度見たら飽きちゃうんだよなあ、あれ。ガスタウンの雰囲気に合っててオシャレなんだけどね。

「フミさんはこれからどのようにレッスンを受けていきたいですか?」

「うーん、テーマトークみたいな」

「テーマトーク...。テーマを決めて会話するという事ですね」

「はい。毎回のテーマは先生にお任せします」

「わかりました」

レッスンの終わりの時間。

「じゃあ今日はレッスン終わりますね。フミさん身体に気をつけて」

「はい。それではまた宜しくお願いします」

フミさんと話してみた感想
凄く優秀な大学生。外国語にも堪能でリケジョなんだけどあどけなさがあって凄く可愛い女の子。留学時代のバンクーバーの話ができて良かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...