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第2
24話
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「魔法士にあたってみてる…」
駐屯地を出たフワームとシュシュルは周りを気にして建物から少し離れる。ヘラリとした表情だったシュシュルもキリっとする。
「大方の予想は着くが…どうだった?」
「…………結論から言おう。かなり難しいな」
「やっぱりな…周囲に秘密となればかなりの金を積まないと無理だろうな、それこそ2倍3倍の…」
「あぁ、しかしそれで口が堅いとは別問題だからな。金を貰ったからといってソイツが必ずしも黙っててくれる保証は無い。魔法士とはそういう奴らが多い」
「はぁ……だよな……魔法士と王室は近い存在だ。甘い汁を啜ってる奴らばかりだ…そんな中で秘密裏にやってくれる奴なんて…」
「諦めるか?」
「そんな訳ないだろう!捜せば居るさ!変わりモンが」
シュシュルが奥歯を噛み締める。
「いっその事、この国では諦めて国外に行くか?あの方に気付いた奴が己の身の可愛さに報告するかもしれない…」
「それは最終手段にした方がいい…王都を出るには慎重にならなければ…。今、王都の出入りは厳しくなっている。皮肉なことに古城の事件があったからな」
「第3隊か第4隊の奴、誰か抱き込めないか?」
「無茶苦茶言うな…焦るなよ」
「分かってるけど…ナノ…あの方は…生に対してどこか諦めている節があって…ちょっと怖いんだよ」
「お前の気持ちも分かるが…相手はあの、王子…強いては国王だぞ…正体がバレたら間違いなく口封じ…存在が消されるぞ」
「そんな事させないよ……これ以上傷付けるなんて」
「シュシュル……分かっているか?お前もだぞ?」
「分かっている…俺の命くらい…」
「…………俺と、マザメスもだからな?」
「………………分かってる…」
ピリピリとした話し合いからやっとフワームが息を吐き出し声のトーンを軽くする。
「分かってればいいんだよ。どうか慎重にして下さいよ。俺は副団長と心中する気はありませんからね。出来れば綺麗なお姉さんが良いです」
「……ありがとうな…」
「今回の件は俺だって思う事はある。なるべく力になりたいと思ってるから。お前の真剣な愛を応援するよ」
「…………愛!?」
「愛だろ。ナンパしてたもんな」
「ちょ……え?……いや、え……ちが?……うぅ」
あの、騎士団副団長シュシュル・フレイザーが顔を真っ赤にして口ごもっている。
「お前の片想いも長いよなぁ…でもまさか…子供相手に…変態だなぁ」
「は、はぁ!?」
「大事すぎて手が出せないのが救いだよな…良かった良かった」
「待て!ちょっと待て!!」
「それじゃ、引き続き探ってみるから。またな」
アッハッハッと笑いながら去っていく友人の背中に震える手を伸ばすが届くことは無い。その場に固まるシュシュルはナノへの気持ちを愛だと自覚していなかった。まるで自分の事のようにナノに降りかかってきた悪意に苦しくなっていた。ナノの笑顔が見たい。ナノに幸せになって欲しい。自分とどうこうなりたいなど思っていなかった。全てナノの為。その気持ちが忠誠心を超えていたとは。
「まさか、まさか……俺は……」
不意にナノの裸体を想像してしまった。
「うっわ!!俺は!!」
自覚してしまった。ナノの全てを見たいと強く思ってしまった。鞭のあとのある背中、きっとそれでもナノならば綺麗だろう。むしろ色気があるのでは無いか。自分が舐めて治せたらいいのに、と思ってしまった。
「うぉぉ……まずい…」
シュシュルの下半身が熱くなりかける。
「俺は……変態だったのか……」
頭を抱え、しゃがみこみ更に顔を赤くした。
(こ、こんな事……今思っている場合では無いというのに…あぁ!妄想が止まらん!可愛らしいお顔で涙を滲ませ……あぁダメだダメだ、なんて不敬を)
独り駐屯地から離れた所で挙動不審になっている副団長。他の隊員が不思議そうに見ていた。
┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉
昨日の騎士団の打ち上げから一夜経ってフドー食堂にいつもの光景が戻っていた。多少疲れの残る顔をした者もちらほらいるが、ナノは心無しか気分が良かった。なんと言っても希望という諦めていたものを一瞬でも感じられたからだ。
「ラシュー、行ってくるね。眠いの?寝てていいよ。ふふ…副団長さんは今日どんな顔で来るんだろうね…」
ナノの中でシュシュルが来ることが当たり前になってしまっていた。昨日はシュガーレに怒られていた。しょんぼりする副団長なんて初めて見たナノは少し可笑しくて笑ってしまう。
(あの人のことだから、絶対に凄い謝ってくるだろうな…僕は何とも思ってないけど…お酒は当分飲むなーって怒られてたなぁ)
下の階に行って、店の出入口から外に出る。空は快晴で真っ青だ。ナノは空を見上げて胸を抑える。
(青空を見るといつもだ。いつも胸の奥がザワザワするんだよな…なんて言ったらいいんだろう…この気持ち。キュってするような、違うような、悪いことしちゃったような…ザワザワしちゃう……)
じっと青空を見て眩しさに目を細める。帽子のつばを持って深く被り直す。今日も仕事が待っている。仕事をしていると副団長がきっと来る。
(気まずそうに来るかな?)
ナノは無意識に楽しみにしていた。
(あれ?昔も……こんな感じ…あったような)
屋敷の門のところで誰かを待っていたような気がした。
駐屯地を出たフワームとシュシュルは周りを気にして建物から少し離れる。ヘラリとした表情だったシュシュルもキリっとする。
「大方の予想は着くが…どうだった?」
「…………結論から言おう。かなり難しいな」
「やっぱりな…周囲に秘密となればかなりの金を積まないと無理だろうな、それこそ2倍3倍の…」
「あぁ、しかしそれで口が堅いとは別問題だからな。金を貰ったからといってソイツが必ずしも黙っててくれる保証は無い。魔法士とはそういう奴らが多い」
「はぁ……だよな……魔法士と王室は近い存在だ。甘い汁を啜ってる奴らばかりだ…そんな中で秘密裏にやってくれる奴なんて…」
「諦めるか?」
「そんな訳ないだろう!捜せば居るさ!変わりモンが」
シュシュルが奥歯を噛み締める。
「いっその事、この国では諦めて国外に行くか?あの方に気付いた奴が己の身の可愛さに報告するかもしれない…」
「それは最終手段にした方がいい…王都を出るには慎重にならなければ…。今、王都の出入りは厳しくなっている。皮肉なことに古城の事件があったからな」
「第3隊か第4隊の奴、誰か抱き込めないか?」
「無茶苦茶言うな…焦るなよ」
「分かってるけど…ナノ…あの方は…生に対してどこか諦めている節があって…ちょっと怖いんだよ」
「お前の気持ちも分かるが…相手はあの、王子…強いては国王だぞ…正体がバレたら間違いなく口封じ…存在が消されるぞ」
「そんな事させないよ……これ以上傷付けるなんて」
「シュシュル……分かっているか?お前もだぞ?」
「分かっている…俺の命くらい…」
「…………俺と、マザメスもだからな?」
「………………分かってる…」
ピリピリとした話し合いからやっとフワームが息を吐き出し声のトーンを軽くする。
「分かってればいいんだよ。どうか慎重にして下さいよ。俺は副団長と心中する気はありませんからね。出来れば綺麗なお姉さんが良いです」
「……ありがとうな…」
「今回の件は俺だって思う事はある。なるべく力になりたいと思ってるから。お前の真剣な愛を応援するよ」
「…………愛!?」
「愛だろ。ナンパしてたもんな」
「ちょ……え?……いや、え……ちが?……うぅ」
あの、騎士団副団長シュシュル・フレイザーが顔を真っ赤にして口ごもっている。
「お前の片想いも長いよなぁ…でもまさか…子供相手に…変態だなぁ」
「は、はぁ!?」
「大事すぎて手が出せないのが救いだよな…良かった良かった」
「待て!ちょっと待て!!」
「それじゃ、引き続き探ってみるから。またな」
アッハッハッと笑いながら去っていく友人の背中に震える手を伸ばすが届くことは無い。その場に固まるシュシュルはナノへの気持ちを愛だと自覚していなかった。まるで自分の事のようにナノに降りかかってきた悪意に苦しくなっていた。ナノの笑顔が見たい。ナノに幸せになって欲しい。自分とどうこうなりたいなど思っていなかった。全てナノの為。その気持ちが忠誠心を超えていたとは。
「まさか、まさか……俺は……」
不意にナノの裸体を想像してしまった。
「うっわ!!俺は!!」
自覚してしまった。ナノの全てを見たいと強く思ってしまった。鞭のあとのある背中、きっとそれでもナノならば綺麗だろう。むしろ色気があるのでは無いか。自分が舐めて治せたらいいのに、と思ってしまった。
「うぉぉ……まずい…」
シュシュルの下半身が熱くなりかける。
「俺は……変態だったのか……」
頭を抱え、しゃがみこみ更に顔を赤くした。
(こ、こんな事……今思っている場合では無いというのに…あぁ!妄想が止まらん!可愛らしいお顔で涙を滲ませ……あぁダメだダメだ、なんて不敬を)
独り駐屯地から離れた所で挙動不審になっている副団長。他の隊員が不思議そうに見ていた。
┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉
昨日の騎士団の打ち上げから一夜経ってフドー食堂にいつもの光景が戻っていた。多少疲れの残る顔をした者もちらほらいるが、ナノは心無しか気分が良かった。なんと言っても希望という諦めていたものを一瞬でも感じられたからだ。
「ラシュー、行ってくるね。眠いの?寝てていいよ。ふふ…副団長さんは今日どんな顔で来るんだろうね…」
ナノの中でシュシュルが来ることが当たり前になってしまっていた。昨日はシュガーレに怒られていた。しょんぼりする副団長なんて初めて見たナノは少し可笑しくて笑ってしまう。
(あの人のことだから、絶対に凄い謝ってくるだろうな…僕は何とも思ってないけど…お酒は当分飲むなーって怒られてたなぁ)
下の階に行って、店の出入口から外に出る。空は快晴で真っ青だ。ナノは空を見上げて胸を抑える。
(青空を見るといつもだ。いつも胸の奥がザワザワするんだよな…なんて言ったらいいんだろう…この気持ち。キュってするような、違うような、悪いことしちゃったような…ザワザワしちゃう……)
じっと青空を見て眩しさに目を細める。帽子のつばを持って深く被り直す。今日も仕事が待っている。仕事をしていると副団長がきっと来る。
(気まずそうに来るかな?)
ナノは無意識に楽しみにしていた。
(あれ?昔も……こんな感じ…あったような)
屋敷の門のところで誰かを待っていたような気がした。
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