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第1
10話
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何度打たれただろうか、背中が痛い。背中に心臓が有るみたいだ。ズクンズクン痛む。鞭が床に叩きつけられる音、空気を切り裂く唸る音、それを聞くだけで震え上がる。
「ふぅ……若い奴は良いな……歳いったのはイマイチでさぁ……さてと、酒が飲みたくなって来たな……休憩にするか……」
ナノニスはずっと握り拳を握りしめていたので、手の感覚がなくなっていた。
「ふはは…いい格好だな……国のお偉いさんがなぁ……お前の事が大好きな国王様はどうな顔すんのかねぇ……今のお前の格好を見てさ……ヒヒ」
男が満足そうに部屋から出て行く。
ナノニスの瞳からは涙が後から後からハラハラ流れている。ナノニスの体の下に隠れていた妖精が出てきて背中を飛び回る。
(何で……何でこんな事に……痛い……痛い…)
時々背中の痛みがフッと軽くなる時が有るが、すぐに痛み出す。妖精の力だろう、ナノニスをどうにか助けようとしてくれているみたいだ。
(あいつ、僕の事……ずっとエイリカだと思ってる。痛くて痛くて、違うって言う前に…あの音が聞こえて…うぅ……)
静かで、隣から聞こえていた声はもうずっと聞こえない。あの男はいつ帰ってくるのだろう。帰ってきたら、次は何をするつもりなのだろう。背中の痛みに隠れているが、目の上も痛い。どこもかしこも痛い。
ナノニスはピクリとも動けなかった。うつ伏せて、ハラハラ泣くばかり。そんなナノニスの目の前に妖精の光が見えた。
「小さい…………何で……君は……僕の、こと…」
勢いのなくなった妖精の飛び方。ナノニスの涙にくっついてくる。フワッと光ったかと思ったら、丸かった光が人型になった。小さな人形みたいに、背中には蝶の羽みたいなのをパタパタさせて。輪郭だけ人型の妖精は緑の光の塊のまま。
「わ………すご……凄いね……でも、君は…大丈夫……なの?」
妖精はさっきより元気なく飛んでいるように見える。
「こんなに…小さい……のに、僕を……助けて…平気?」
(疲れてしまうよ。痛みが少し引いてる気がする…これが、この子の力なら…ずっと使ってる、さっきから。)
「ありがと……あいつ…には……君が、見えてないのかな…君、大丈夫?」
妖精が小さな手でナノニスの涙を拭いてくれる。あんなに小さな手、びしょびしょになってしまうよ、とほっと息を吐き出せた。全身に力が入ったままだったナノニスはようやく、呼吸ができた気がした。
「ねぇ……君に……名前……つけても……良い?」
ナノニスは何とか、他のことを考えたかった。現実的に痛い背中。けれど、あまりにも常軌を逸したこの状況、悪い夢を見ているようだ。
「良いのかな?…………えと、……ら、ラシュー……ラシューって……どう、かな?」
妖精は両手を広げてナノニスの鼻に抱きついてきた。気に入ってくれたみたいだ。
「ありがとう……ラシュー……背中…痛いの…少し、無くなったよ」
ラシューと呼ばれた妖精はまたしても嬉しそうにナノニスにくっついて来る。表情がないのに、この子の感情が伝わってくる。
それまでナノニスにくっついていたラシューが高く飛び、クルクル部屋の中を回っている。そしてナノニスの元に降りてきて、服の端っこを掴んでいる引っ張っている。
(まさかっ…あの男が戻ってくるの!?)
耐えられない、これ以上なんて耐えられない。ナノニスは絶望的な気持ちになる。痛くて動けそうに無いのに、ラシューはグイグイ引っ張る。両手を床について、痛みが走る背中に苦労しながら起き上がる。へたり込んだ状態で一息つく。
「無理だよ……逃げるの?でも、見つかったら……どうしよう……魔物もいるんだよ……どうしよう」
遠くで大きな音がして、空気が震えた気がした。
「え…………」
金属音が聞こえる。これは、剣と剣がぶつかり合う音だ。
「あ、あ、……ラシュー…騎士団だ」
(助かったんだ、騎士団が助けに来てくれたんだ。もう大丈夫なんだ…)
安堵のため息を吐いたナノニスだったが、いきなり部屋に飛び込んできたあの男の登場で一気に緊張する。
「てめぇ……呼びやがったな……この野郎…逃げる前に一発やらせろ!王子を汚してやるっ!」
「っ!!な……」
憎々しそうに見てくる男の手がナノニスに伸びてくる。咄嗟に後ろに逃げるナノニス。建物の中から、ワーっと大勢の声が聞こえてくる。あと少し、時間を稼げば、きっと助かる。
「逃げんなっ!本当はもう少し痛めて、歪んだ表情の奴をヤルのが良いんだけどよ。今は時間が無い…早くこっちに来い」
尚も捕まえようと伸びてくる男の手。こんな狭い部屋でおまけにナノニスは満身創痍、逃げおおせるはずもなく、男に捕まってしまう。
「ヒヒ、捕まえたぞ。この背中…今触ったら、痛いだろうなぁ」
ゾッとする事を平然と言うこの男。ナノニスは同じ人間として考えられなかった。ニヤつく男の影から唸り声が聞こえた。
グルルルルゥゥ……
ナノニスと男は弾かれるように音の方を見る。そこにはヨダレを垂らした魔物がいた。あれは怒った顔だ、唸りこちらを睨みつけてくる。
「おいおい……お前……どう、どうした?」
男が焦り出す、魔物がこんなに威嚇してきたことは初めてだった。男が声をかけた途端、魔物が飛びかかってきた。
「うわぁぁぁーー!!がぁぁあっ!!」
目の前で人が襲われている。魔物に馬乗りにのられ男は必死に腕でガードしているが、その腕に刺さった牙は深そうだ。ラシューがナノニスの服を引っ張る。今しかチャンスはない。痛む背中に顔を歪めながらソロソロと部屋を出て行こうとする。
「待てぇ!!許さねぇぞっ!ぐあっコイツ、なんでだぁ!!」
魔物を手懐けるなど、到底無理な話だったのだ。
「ふぅ……若い奴は良いな……歳いったのはイマイチでさぁ……さてと、酒が飲みたくなって来たな……休憩にするか……」
ナノニスはずっと握り拳を握りしめていたので、手の感覚がなくなっていた。
「ふはは…いい格好だな……国のお偉いさんがなぁ……お前の事が大好きな国王様はどうな顔すんのかねぇ……今のお前の格好を見てさ……ヒヒ」
男が満足そうに部屋から出て行く。
ナノニスの瞳からは涙が後から後からハラハラ流れている。ナノニスの体の下に隠れていた妖精が出てきて背中を飛び回る。
(何で……何でこんな事に……痛い……痛い…)
時々背中の痛みがフッと軽くなる時が有るが、すぐに痛み出す。妖精の力だろう、ナノニスをどうにか助けようとしてくれているみたいだ。
(あいつ、僕の事……ずっとエイリカだと思ってる。痛くて痛くて、違うって言う前に…あの音が聞こえて…うぅ……)
静かで、隣から聞こえていた声はもうずっと聞こえない。あの男はいつ帰ってくるのだろう。帰ってきたら、次は何をするつもりなのだろう。背中の痛みに隠れているが、目の上も痛い。どこもかしこも痛い。
ナノニスはピクリとも動けなかった。うつ伏せて、ハラハラ泣くばかり。そんなナノニスの目の前に妖精の光が見えた。
「小さい…………何で……君は……僕の、こと…」
勢いのなくなった妖精の飛び方。ナノニスの涙にくっついてくる。フワッと光ったかと思ったら、丸かった光が人型になった。小さな人形みたいに、背中には蝶の羽みたいなのをパタパタさせて。輪郭だけ人型の妖精は緑の光の塊のまま。
「わ………すご……凄いね……でも、君は…大丈夫……なの?」
妖精はさっきより元気なく飛んでいるように見える。
「こんなに…小さい……のに、僕を……助けて…平気?」
(疲れてしまうよ。痛みが少し引いてる気がする…これが、この子の力なら…ずっと使ってる、さっきから。)
「ありがと……あいつ…には……君が、見えてないのかな…君、大丈夫?」
妖精が小さな手でナノニスの涙を拭いてくれる。あんなに小さな手、びしょびしょになってしまうよ、とほっと息を吐き出せた。全身に力が入ったままだったナノニスはようやく、呼吸ができた気がした。
「ねぇ……君に……名前……つけても……良い?」
ナノニスは何とか、他のことを考えたかった。現実的に痛い背中。けれど、あまりにも常軌を逸したこの状況、悪い夢を見ているようだ。
「良いのかな?…………えと、……ら、ラシュー……ラシューって……どう、かな?」
妖精は両手を広げてナノニスの鼻に抱きついてきた。気に入ってくれたみたいだ。
「ありがとう……ラシュー……背中…痛いの…少し、無くなったよ」
ラシューと呼ばれた妖精はまたしても嬉しそうにナノニスにくっついて来る。表情がないのに、この子の感情が伝わってくる。
それまでナノニスにくっついていたラシューが高く飛び、クルクル部屋の中を回っている。そしてナノニスの元に降りてきて、服の端っこを掴んでいる引っ張っている。
(まさかっ…あの男が戻ってくるの!?)
耐えられない、これ以上なんて耐えられない。ナノニスは絶望的な気持ちになる。痛くて動けそうに無いのに、ラシューはグイグイ引っ張る。両手を床について、痛みが走る背中に苦労しながら起き上がる。へたり込んだ状態で一息つく。
「無理だよ……逃げるの?でも、見つかったら……どうしよう……魔物もいるんだよ……どうしよう」
遠くで大きな音がして、空気が震えた気がした。
「え…………」
金属音が聞こえる。これは、剣と剣がぶつかり合う音だ。
「あ、あ、……ラシュー…騎士団だ」
(助かったんだ、騎士団が助けに来てくれたんだ。もう大丈夫なんだ…)
安堵のため息を吐いたナノニスだったが、いきなり部屋に飛び込んできたあの男の登場で一気に緊張する。
「てめぇ……呼びやがったな……この野郎…逃げる前に一発やらせろ!王子を汚してやるっ!」
「っ!!な……」
憎々しそうに見てくる男の手がナノニスに伸びてくる。咄嗟に後ろに逃げるナノニス。建物の中から、ワーっと大勢の声が聞こえてくる。あと少し、時間を稼げば、きっと助かる。
「逃げんなっ!本当はもう少し痛めて、歪んだ表情の奴をヤルのが良いんだけどよ。今は時間が無い…早くこっちに来い」
尚も捕まえようと伸びてくる男の手。こんな狭い部屋でおまけにナノニスは満身創痍、逃げおおせるはずもなく、男に捕まってしまう。
「ヒヒ、捕まえたぞ。この背中…今触ったら、痛いだろうなぁ」
ゾッとする事を平然と言うこの男。ナノニスは同じ人間として考えられなかった。ニヤつく男の影から唸り声が聞こえた。
グルルルルゥゥ……
ナノニスと男は弾かれるように音の方を見る。そこにはヨダレを垂らした魔物がいた。あれは怒った顔だ、唸りこちらを睨みつけてくる。
「おいおい……お前……どう、どうした?」
男が焦り出す、魔物がこんなに威嚇してきたことは初めてだった。男が声をかけた途端、魔物が飛びかかってきた。
「うわぁぁぁーー!!がぁぁあっ!!」
目の前で人が襲われている。魔物に馬乗りにのられ男は必死に腕でガードしているが、その腕に刺さった牙は深そうだ。ラシューがナノニスの服を引っ張る。今しかチャンスはない。痛む背中に顔を歪めながらソロソロと部屋を出て行こうとする。
「待てぇ!!許さねぇぞっ!ぐあっコイツ、なんでだぁ!!」
魔物を手懐けるなど、到底無理な話だったのだ。
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