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第1
6話
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その日はフドー食堂の定休日、前の定休日から一回りして来た7日後だった。
この世界は月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、太陽の日と7日を一回りとしていた。フドー食堂は月の日を定休日としいたので、今日は月の日だ。客がいないはずのこの日、ナノは自分の部屋にいたが一階から話声が聞こえてきた。丁度、今日も例のジュースを飲みに行こうかどうしようか考えいた時だった。実は最近、緊張状態が続いているせいか朝から体が怠かった。
(休みの日にまったく体を動かさないのはどうかな……話し声も気になるし、少し下に覗きに行ってみようかな)
「ラシュー、ちょっと下の階に行ってくるね」
妖精のラシューにそう声を掛けると緑の人型がナノの顔の周りを飛び回った。
「どうしたの?ラシューは休んでていいよ」
何か言いたげな様子のラシューを置いて部屋から出た。部屋を出ると話し声はよく聞こえるようになった。一人はシュガーレさんだがもう一人は最近よく聞く声だった。休みの日に何故いるんだと思わず覗いてしまった。しまったと思った途端、副団長シュシュル・フレイザーに見つかってしまった。
「やぁナノ、元気?いい日だね」
シュガーレと話しているであろうに、ナノを目聡く見つけて手を軽く振ってくる。
「……こんにちは…」
「今ね、今度の騎士団の打ち上げにここを使わせて欲しいって打ち合わせをしているんだよ」
「まったく副団長さんがそんな仕事もするのかい?精鋭部隊だっけか?全部で何人だい」
「これは俺の趣味みたいな物ですよ、エーは20人です。しかもここにくればナノに会えると思ってね。やっぱり会えた」
「うちのナノは軽い男にはやらないよ」
「えっ!女将の許しが必要なの!?」
「当たり前だよ、私だけじゃなくて旦那の許しも必要だからね!」
「ありゃりゃ…これは手強いな…」
ねぇ…困ったなとナノを振り返ると、ナノがフラフラとしていた。怪訝に思いシュシュルはナノに近付く。
「大丈夫?具合が悪いの?」
ナノは段々とボンヤリして来て、シュシュルの言葉もどこか遠くで聞こえて来るように感じ始めた。
(あれー?これ、ちょっとダメかも…)
ラシューが飛び回っていたのはナノを心配していたからだったのか、と納得しながらナノの体は傾き始めた。焦ったシュシュルは急いでナノを支えた。
「ちょちょ、これ休まなきゃダメでしょ。女将、ナノが具合悪そうだよ」
「あぁ…まただね…熱が出ると思う。可哀想に…しょうがないから副団長、そのままナノを運んでくれやしないか?」
「それは当然ですよ!」
シュシュルはナノを抱き上げて小柄な体を抱え直す。背中と膝裏にしっかり腕をまわして、ナノが楽な体制をとってやる。力が抜けてうつらうつらするナノは頭もグッタリとシュシュルの胸に預ける。シュシュルはナノを心配気に様子を見るために顔を見た。
「っ!!………」
ギクリと体を固めて驚きの表情をするシュシュル。
その様子を見て苦い顔したシュガーレが口を開く。
「何も言うんじゃないよ」
弾かれたようにシュガーレの顔を見たシュシュルの表情はいつもと打って変わって真剣な顔だった。
「女将……」
「今は…ナノを部屋に……」
「はい………」
無言のまま2階へと上がりナノを自室のベットにそっと置く。
「傷が……」
ナノの顔を見て痛々しそうにソッと前髪を横にはらう。そしてナノの手を取ってギュッと両手で握りしめる。ナノの手を自分の額につけ苦しそうな顔をするシュシュル。
(生きて………生きておられたのですね……王子)
「何故、この方が……こんな傷を負って…」
ポツリポツリと言葉を発するシュシュル・フレイザー
「私が見つけた時は……既に……傷だらけだったんだよ…」
「そんな……俺たちは……この方を見つけに……」
「ふんっ顔を知っているのかい?精鋭部隊ってやつが、第5王子様のお顔を…王城で暮らしたことが無いんだろ?この子はさ……」
「……確かに…俺は知っていたが…中には……」
「……何やってんだよ、騎士様達は!この子……この子の見つけたの時の姿がっ……」
「……あの事件の時ですね…話して下さい女将」
「血だらけで、酷い火傷で……生きてるのかどうか…分からなかったんだよ!」
「そんなっ……に…あぁ…ナノニス様…」
眠るナノは眉間に皺がより苦しそうにしだす。
「熱が出るときは、いつも苦しそうにするんだよ…私は…見てられないよっ……この子ばかり苦しんで…あんまりじゃないかっ」
「どうしても、気になって仕方なかったんです…まさか、ナノニス様だとは…もしかしたら、ナノニス様は俺の事を覚えておいでで無いかもしれませんが…俺は……陽だまりのように無邪気に笑うこの方が気掛かりでした…キチンとお会いしたのは…まだ幼い頃で…むしろ、王城に居ない方が宜しいかと…思っていました…」
「こう言っちゃ何だけど…私ら庶民からしたら……王族なんて…クソだね」
「女将、ここだけの話で…それ以上は……女将は…ナノニス様だとご存知で?」
「ハッキリとじゃ無いけど、あの大騒ぎの事件の時にこんな傷だらけの子、しかも意識が戻ってからの様子…その名を出さずともこの子の懇願する様な視線で察したさ……」
「良い方に救って頂いた…」
「良か無いよ…こんなオンボロ食堂…王子様にはさ……それなのにこの子は……健気すぎるんだよっどうなってんだよ、王族ってやつは」
「第5王子様は……少し特別で……」
「だろうねっ!!悪い意味でねっ!!あんたに言ってもしょうが無いのは重々承知してるよっけどね……本当に……まったく……冗談じゃないよ……」
「……………………はい…」
「この子は生きてるんだよっ!葬式なんて……冗談じゃないよっ!」
シュシュル・フレイザーは奥歯をかみ締めて眠るナノの顔を見た。
この世界は月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、太陽の日と7日を一回りとしていた。フドー食堂は月の日を定休日としいたので、今日は月の日だ。客がいないはずのこの日、ナノは自分の部屋にいたが一階から話声が聞こえてきた。丁度、今日も例のジュースを飲みに行こうかどうしようか考えいた時だった。実は最近、緊張状態が続いているせいか朝から体が怠かった。
(休みの日にまったく体を動かさないのはどうかな……話し声も気になるし、少し下に覗きに行ってみようかな)
「ラシュー、ちょっと下の階に行ってくるね」
妖精のラシューにそう声を掛けると緑の人型がナノの顔の周りを飛び回った。
「どうしたの?ラシューは休んでていいよ」
何か言いたげな様子のラシューを置いて部屋から出た。部屋を出ると話し声はよく聞こえるようになった。一人はシュガーレさんだがもう一人は最近よく聞く声だった。休みの日に何故いるんだと思わず覗いてしまった。しまったと思った途端、副団長シュシュル・フレイザーに見つかってしまった。
「やぁナノ、元気?いい日だね」
シュガーレと話しているであろうに、ナノを目聡く見つけて手を軽く振ってくる。
「……こんにちは…」
「今ね、今度の騎士団の打ち上げにここを使わせて欲しいって打ち合わせをしているんだよ」
「まったく副団長さんがそんな仕事もするのかい?精鋭部隊だっけか?全部で何人だい」
「これは俺の趣味みたいな物ですよ、エーは20人です。しかもここにくればナノに会えると思ってね。やっぱり会えた」
「うちのナノは軽い男にはやらないよ」
「えっ!女将の許しが必要なの!?」
「当たり前だよ、私だけじゃなくて旦那の許しも必要だからね!」
「ありゃりゃ…これは手強いな…」
ねぇ…困ったなとナノを振り返ると、ナノがフラフラとしていた。怪訝に思いシュシュルはナノに近付く。
「大丈夫?具合が悪いの?」
ナノは段々とボンヤリして来て、シュシュルの言葉もどこか遠くで聞こえて来るように感じ始めた。
(あれー?これ、ちょっとダメかも…)
ラシューが飛び回っていたのはナノを心配していたからだったのか、と納得しながらナノの体は傾き始めた。焦ったシュシュルは急いでナノを支えた。
「ちょちょ、これ休まなきゃダメでしょ。女将、ナノが具合悪そうだよ」
「あぁ…まただね…熱が出ると思う。可哀想に…しょうがないから副団長、そのままナノを運んでくれやしないか?」
「それは当然ですよ!」
シュシュルはナノを抱き上げて小柄な体を抱え直す。背中と膝裏にしっかり腕をまわして、ナノが楽な体制をとってやる。力が抜けてうつらうつらするナノは頭もグッタリとシュシュルの胸に預ける。シュシュルはナノを心配気に様子を見るために顔を見た。
「っ!!………」
ギクリと体を固めて驚きの表情をするシュシュル。
その様子を見て苦い顔したシュガーレが口を開く。
「何も言うんじゃないよ」
弾かれたようにシュガーレの顔を見たシュシュルの表情はいつもと打って変わって真剣な顔だった。
「女将……」
「今は…ナノを部屋に……」
「はい………」
無言のまま2階へと上がりナノを自室のベットにそっと置く。
「傷が……」
ナノの顔を見て痛々しそうにソッと前髪を横にはらう。そしてナノの手を取ってギュッと両手で握りしめる。ナノの手を自分の額につけ苦しそうな顔をするシュシュル。
(生きて………生きておられたのですね……王子)
「何故、この方が……こんな傷を負って…」
ポツリポツリと言葉を発するシュシュル・フレイザー
「私が見つけた時は……既に……傷だらけだったんだよ…」
「そんな……俺たちは……この方を見つけに……」
「ふんっ顔を知っているのかい?精鋭部隊ってやつが、第5王子様のお顔を…王城で暮らしたことが無いんだろ?この子はさ……」
「……確かに…俺は知っていたが…中には……」
「……何やってんだよ、騎士様達は!この子……この子の見つけたの時の姿がっ……」
「……あの事件の時ですね…話して下さい女将」
「血だらけで、酷い火傷で……生きてるのかどうか…分からなかったんだよ!」
「そんなっ……に…あぁ…ナノニス様…」
眠るナノは眉間に皺がより苦しそうにしだす。
「熱が出るときは、いつも苦しそうにするんだよ…私は…見てられないよっ……この子ばかり苦しんで…あんまりじゃないかっ」
「どうしても、気になって仕方なかったんです…まさか、ナノニス様だとは…もしかしたら、ナノニス様は俺の事を覚えておいでで無いかもしれませんが…俺は……陽だまりのように無邪気に笑うこの方が気掛かりでした…キチンとお会いしたのは…まだ幼い頃で…むしろ、王城に居ない方が宜しいかと…思っていました…」
「こう言っちゃ何だけど…私ら庶民からしたら……王族なんて…クソだね」
「女将、ここだけの話で…それ以上は……女将は…ナノニス様だとご存知で?」
「ハッキリとじゃ無いけど、あの大騒ぎの事件の時にこんな傷だらけの子、しかも意識が戻ってからの様子…その名を出さずともこの子の懇願する様な視線で察したさ……」
「良い方に救って頂いた…」
「良か無いよ…こんなオンボロ食堂…王子様にはさ……それなのにこの子は……健気すぎるんだよっどうなってんだよ、王族ってやつは」
「第5王子様は……少し特別で……」
「だろうねっ!!悪い意味でねっ!!あんたに言ってもしょうが無いのは重々承知してるよっけどね……本当に……まったく……冗談じゃないよ……」
「……………………はい…」
「この子は生きてるんだよっ!葬式なんて……冗談じゃないよっ!」
シュシュル・フレイザーは奥歯をかみ締めて眠るナノの顔を見た。
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