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第1
2話
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従業員用ドアから裏に引っ込んだナノはドキドキする心臓を服の上から押さえていた。肩に力が入り、指先が微かに震えている。
(び、びっくりした…話しかけてくんなよっ)
ふぅ~~と細く息を吐く。
(やっぱり…知らない人に話しかけられたり…急に触られたりするのは…苦手だな……)
ナノは暗い顔で物思いにふけた。
「あぁ!終わったかい?」
女主人の明るい声が掛かる。
「悪いねぇ~大丈夫だったかい?」
「はい、ガラスは…」
「あぁ、預かるよ。休憩にするかい?…いや、何か顔色が良くないねぇ……よし、もう大丈夫だから今日は帰りなっ」
「え、でも…お店…忙しんじゃ…」
「だーい丈夫!ナノの仕事は仕込みと皿洗いだろ?新規の客はもぅ入ってこないから。皿洗いなら私だってやるさ」
「悪いです…せめて、自分の仕事は…」
「つべこべ言ってんじゃないよ!ナノはもう少し自分の体を大事にしなさい!」
「……はい……ありがとうございますシュガーレさん」
「良いってことよ。ゆっくり休みなさい」
シュガーレ・フドー、この食堂の女主人の名前でここフドー食堂を取り仕切っている。シュガーレの旦那のストム・フドーは厨房で忙しく汗を流している。フドー食堂は女主人の明るい人柄と料理の美味さで繁盛していた。
シュガーレはナノに明るく笑い体を休めるように促した。
ナノは女主人のシュガーレに言われた通りこの建物の2階にある自室に行った。
部屋に入ると自然と深く息を吐く。パタンと扉を閉じると目の前に緑色の光が飛んできた。その光に微かに口元をゆるめると肩の力が抜けた。
「ただいま、ラシュー」
声をかけられた指先ほどの小ささの丸い緑の光だった浮遊物は少しずつ形を変えていく。それは手のひらよりも少し小さな人の形に変化した。
「シュガーレさんが僕に気を使って早く帰っていいって、言ってくれたんだよ」
人型に変化した緑の光の浮遊物は輪郭こそ人型であるが表面は淡い光を発し、薄い緑のままであった。妖精と呼ばれる光るそれらは誰にでも見えるものではなかった。ナノは幼い頃から何故かこの緑の光が見えていた。そしていつもナノにくっ付いて来ていた。それらは話はしないが何となく言っていることが伝わってきた。
「僕が早く帰ってきて嬉しいの?」
人型の背中には蝶の様な羽が生えている。その羽をパタパタと動かしナノの顔周りを飛び回っている。
「ふふっありがとうラシュー。僕は君が居てくれるから寂しくないんだよ。ただいまと言える事が嬉しいんだよ」
ナノは両手のひらをおわん型にしてラシューへここにおいでと差し出し落ち着かせようとした。
「今日は大きな人にいきなり声を掛けられてびっくりしちゃったよ…ん?大丈夫だよ……ちょっと怖かったけど大丈夫だった…」
ナノの表情が穏やかなものから影をさし出す。
「僕は…本当に……役立たずだ……はぁ……」
ため息をついて被っていた帽子を取る。一日中被っていた窮屈さから解放されて軽く頭を振る。そんな様子のナノにラシューは慰めるかのように、また飛び回る。
「ラシュー……今日声を掛けてきた人は…綺麗な顔をしていたよ……見て…僕の顔……もぅ……どうしようも無い事は分かってるけど……分かってるんだけど……時々ね……時々………やっぱりどうしようも無くやるせなくなるんだ」
寂しそうに、悲しそうに微笑む。
その顔には額と左の目の上に傷跡があった。右上から斜めに一本線が2箇所。ナノは指先でその傷跡をなぞりザラザラとした感触を確かめるように指を滑らせる。
「痛みは無くなるんだね……あんなに痛かったのに…消えてくれてもイイのに……消えてくれない」
気だるげな息を吐き出し目の前にあるベットに座る。ナノの部屋はこじんまりとしているがベットと机、椅子があり満足している。持ち物も少ないのでサッパリとした印象だ。ただ、あまりにも物が少ないので生活感があまり感じられない。
「あぁ……体がだるくなって来た……やっぱりまた来るかも…熱が出るとシュガーレさん達に迷惑が掛かるんだけど…はぁ……本当に役立たず」
ナノが自虐的に呟くとラシューはナノの肩に乗り小さな手で頬を撫でてくれる。
「ありがとうラシュー……僕が今生きてるのはラシューのお陰だよ。本当に……僕のそばに居てくれてありがとう」
目を細めて人差し指でラシューの頭を撫でる。ポスンと後ろに倒れてベット転がる。両腕を投げ出し天井を見上げる。
「僕って……いつまで生きてられるんだろう…」
モソモソと寝転がったまま大きめの服を脱ぐ。ノースリーブの下着になりじっと左腕を見る。
「シャワー浴びなきゃ」
見慣れることない自分の左腕。上腕から手首まで火傷のあとがあり、左の手の甲にも続いている。モソリと起き上がりシャワーを浴びに行く。ナノの部屋には狭いがシャワーが付いていてこの体を他の人に見られることがない。ノースリーブの下着も脱ぐと背中が露になる。その背中にも傷跡があるがこちらは火傷跡ではない。ムチで打たれた跡が両手で数えられるほど着いている。それは脇腹にも数箇所見えた。
キュッと蛇口コックを捻りシャワーを出す。お湯になるまでの間にズボンをノロノロと脱ぐ。今度は右足のふくらはぎにも傷跡があった。
「今日のあの大きな人は……綺麗だったな…僕みたいな醜い跡なんて……きっと無いだろうな…」
ザーと頭からシャワーをかぶる。まだ少し冷たかったが熱がくすぶり出している身体には気持ちよかった。熱が出る前に冷たいシャワーを浴びることが良くない事は分かっているが、この傷跡を見るとどうでも良いような気分になってしまうのだった。
(び、びっくりした…話しかけてくんなよっ)
ふぅ~~と細く息を吐く。
(やっぱり…知らない人に話しかけられたり…急に触られたりするのは…苦手だな……)
ナノは暗い顔で物思いにふけた。
「あぁ!終わったかい?」
女主人の明るい声が掛かる。
「悪いねぇ~大丈夫だったかい?」
「はい、ガラスは…」
「あぁ、預かるよ。休憩にするかい?…いや、何か顔色が良くないねぇ……よし、もう大丈夫だから今日は帰りなっ」
「え、でも…お店…忙しんじゃ…」
「だーい丈夫!ナノの仕事は仕込みと皿洗いだろ?新規の客はもぅ入ってこないから。皿洗いなら私だってやるさ」
「悪いです…せめて、自分の仕事は…」
「つべこべ言ってんじゃないよ!ナノはもう少し自分の体を大事にしなさい!」
「……はい……ありがとうございますシュガーレさん」
「良いってことよ。ゆっくり休みなさい」
シュガーレ・フドー、この食堂の女主人の名前でここフドー食堂を取り仕切っている。シュガーレの旦那のストム・フドーは厨房で忙しく汗を流している。フドー食堂は女主人の明るい人柄と料理の美味さで繁盛していた。
シュガーレはナノに明るく笑い体を休めるように促した。
ナノは女主人のシュガーレに言われた通りこの建物の2階にある自室に行った。
部屋に入ると自然と深く息を吐く。パタンと扉を閉じると目の前に緑色の光が飛んできた。その光に微かに口元をゆるめると肩の力が抜けた。
「ただいま、ラシュー」
声をかけられた指先ほどの小ささの丸い緑の光だった浮遊物は少しずつ形を変えていく。それは手のひらよりも少し小さな人の形に変化した。
「シュガーレさんが僕に気を使って早く帰っていいって、言ってくれたんだよ」
人型に変化した緑の光の浮遊物は輪郭こそ人型であるが表面は淡い光を発し、薄い緑のままであった。妖精と呼ばれる光るそれらは誰にでも見えるものではなかった。ナノは幼い頃から何故かこの緑の光が見えていた。そしていつもナノにくっ付いて来ていた。それらは話はしないが何となく言っていることが伝わってきた。
「僕が早く帰ってきて嬉しいの?」
人型の背中には蝶の様な羽が生えている。その羽をパタパタと動かしナノの顔周りを飛び回っている。
「ふふっありがとうラシュー。僕は君が居てくれるから寂しくないんだよ。ただいまと言える事が嬉しいんだよ」
ナノは両手のひらをおわん型にしてラシューへここにおいでと差し出し落ち着かせようとした。
「今日は大きな人にいきなり声を掛けられてびっくりしちゃったよ…ん?大丈夫だよ……ちょっと怖かったけど大丈夫だった…」
ナノの表情が穏やかなものから影をさし出す。
「僕は…本当に……役立たずだ……はぁ……」
ため息をついて被っていた帽子を取る。一日中被っていた窮屈さから解放されて軽く頭を振る。そんな様子のナノにラシューは慰めるかのように、また飛び回る。
「ラシュー……今日声を掛けてきた人は…綺麗な顔をしていたよ……見て…僕の顔……もぅ……どうしようも無い事は分かってるけど……分かってるんだけど……時々ね……時々………やっぱりどうしようも無くやるせなくなるんだ」
寂しそうに、悲しそうに微笑む。
その顔には額と左の目の上に傷跡があった。右上から斜めに一本線が2箇所。ナノは指先でその傷跡をなぞりザラザラとした感触を確かめるように指を滑らせる。
「痛みは無くなるんだね……あんなに痛かったのに…消えてくれてもイイのに……消えてくれない」
気だるげな息を吐き出し目の前にあるベットに座る。ナノの部屋はこじんまりとしているがベットと机、椅子があり満足している。持ち物も少ないのでサッパリとした印象だ。ただ、あまりにも物が少ないので生活感があまり感じられない。
「あぁ……体がだるくなって来た……やっぱりまた来るかも…熱が出るとシュガーレさん達に迷惑が掛かるんだけど…はぁ……本当に役立たず」
ナノが自虐的に呟くとラシューはナノの肩に乗り小さな手で頬を撫でてくれる。
「ありがとうラシュー……僕が今生きてるのはラシューのお陰だよ。本当に……僕のそばに居てくれてありがとう」
目を細めて人差し指でラシューの頭を撫でる。ポスンと後ろに倒れてベット転がる。両腕を投げ出し天井を見上げる。
「僕って……いつまで生きてられるんだろう…」
モソモソと寝転がったまま大きめの服を脱ぐ。ノースリーブの下着になりじっと左腕を見る。
「シャワー浴びなきゃ」
見慣れることない自分の左腕。上腕から手首まで火傷のあとがあり、左の手の甲にも続いている。モソリと起き上がりシャワーを浴びに行く。ナノの部屋には狭いがシャワーが付いていてこの体を他の人に見られることがない。ノースリーブの下着も脱ぐと背中が露になる。その背中にも傷跡があるがこちらは火傷跡ではない。ムチで打たれた跡が両手で数えられるほど着いている。それは脇腹にも数箇所見えた。
キュッと蛇口コックを捻りシャワーを出す。お湯になるまでの間にズボンをノロノロと脱ぐ。今度は右足のふくらはぎにも傷跡があった。
「今日のあの大きな人は……綺麗だったな…僕みたいな醜い跡なんて……きっと無いだろうな…」
ザーと頭からシャワーをかぶる。まだ少し冷たかったが熱がくすぶり出している身体には気持ちよかった。熱が出る前に冷たいシャワーを浴びることが良くない事は分かっているが、この傷跡を見るとどうでも良いような気分になってしまうのだった。
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