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番外編
唯一と彗の物語 3
しおりを挟む季節は冬に変わり受験シーズン。唯一は私立高校の推薦を受けるために森目高等学校(もりもく)に来ていた。マフラーに顔を埋めて冷たい空気から少しでも肌を出さないようにして歩いていた。
受付を済ませ、指定された教室で筆記試験を受ける。その後面接をして終了という流れだった。唯一は筆記試験まで終わらせるとトイレに行って、教室に戻る前に廊下の窓から外を眺めて気を紛らわせていた。
「あ、もしかして…ユイちゃん?」
聞いたことのある声が聞こえた。振り向いてみるとそこには知っている顔がいた。
「え……ナ、ナミさん?なんで……」
「やっぱり!ユイちゃん!!もしかして、ここ受験すんの?」
「え、はい……ナナミさん……この学校なんですか?」
「そーそー、ほら制服~。今日は手伝いでいるんだけど…マジ、ラッキー」
それは、実にスマホを落とされてから初の再会であった。
「ユイちゃんがこの学校来てくれたら、俺高校来るの楽しくなるよ」
(なんで再会が今!?これから面接なのに……ここで緊張解してたのに…)
「実は俺、来年度から生徒会長やることになってね。何か頑張れちゃいそう」
「ナナミさん、3年生になるんですか?」
「ううん、今1年だから来年度は2年だよ」
「え!1歳だけしか年上じゃないんですか?!」
「俺のことどう思ってたの……何?貫禄でも出てた?」
「いや……大人っぽいから……」
「褒め言葉と取ってくよ」
「あの……僕これから面接なんです。だから…もういいですか?」
「ごめんね、落ち着きたいよね……ふっ俺といると心がザワついちゃうってことね…ふっ」
(いや、怒りが蘇ってくるからさ…イラつくんだよね…心穏やかに面接したいんだけどな)
「まぁどうせ…面接の誘導係だから、後で会うよ」
「げっ……」
(マジかぁ…)
「え?げって、言った?げって、言ったの?」
「言ってません。それでは」
唯一は教室へと入っていく。
「え~……俺……また拒否られたのぉ……」
どちらかと言うと好意的に接してきたつもりだったナナミは、こんなに邪険に扱われたことが少なからずショックだった。
(ユイちゃん相手だと全然、上手くいかないわ~)
しかし、来年の4月からは同じ学校に通える。チャンスはいくらでもある、と考えを切り替えた。不屈のメンタルを持つ男、それがナナミであった。
「次、河村唯一さん。着いてきて下さい」
「はい」
教室を出て廊下を歩いていく。ナナミの背中を追いかけて目的の教室まで階段を登っていく。ひた、と止まり振り向いて
「ユイちゃん、ゆいちって言うんだね。何かピッタリで可愛いね。俺は七海彗だよ、覚えてね」
「苗字、だったんですね……」
(何それ、僕的に刺さるんですけど……名前っぽい苗字とか、ギャップヒーローとか……いやヒーローではないけどさ…)
「面接、頑張ってね」
背中をポンポンと叩かれ、最後は撫でられた。そして仕事に戻って行った七海。
(えぇ……あの人、総長が会長って本当に実在するんだ…どんだけトップが好きなんだろ…)
はぁ。ため息をつく
(これ、推薦だから…学校今さら変えられないよ)
唯一は高校入学までの残りの日数を複雑な思いで、翌年の4月までのカレンダーを見て過ごした。
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