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認めたくないきもち

《41》

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 今を逃せばきっと伝えられなくなる。

「俺……やだった。アイツらに、触られて…違うって思った…」
「顔、何された?」
「……舐められた」
「あ"?」
「コウに!コウに…あの……キ、キスとか…されても…俺、吐きそうにならなかったけど、アイツらだと…気持ち悪くて…嫌で…」

頬を撫でられて優しい瞳と視線が合う。

「コウは、何であんなこと俺にしたの?」

するりと口から出た。

「あんな、許せないって思うこと俺にしたの?」
「手に入れたいって、思ってしまった」
「最初から、あんなじゃなかったら、俺だって…」
「確かに、今なら分かる。過去の俺は甘く見てたって、誰かを愛したこともない、こんなに欲しいと思ったこともない。傷つけるやり方はダメなんだって、相手を思いやらないと、逃げてく」
「許せないって、思っちゃったから……俺は」

緋縁の涙が溢れて皇輝の手を濡らす。

「く、苦しくて…絶対認めたくなくて、こんな、ぐちゃぐちゃの気持ちになっちゃって……」
「緋縁、俺が悪い。悪かった」
「なんで、なんで、許せなくしちゃったの!?」

後から後から涙が流れ出る。

「本当はもっと早く、俺だって……うっ……ばか」

皇輝の瞳はずっとずっと、どこまでも優しくて。

「あの時も、怖かった!…でも…今日とは、全然違かった…何でこんなにしたんだよぅ…ひっく…もっと、もっと早く認めたかったのにぃ……酷いよ」

堪らず皇輝が緋縁を抱きしめる。

「何もかも、全部俺のせいだから。緋縁は俺に愛されてれば良いから。何でも言え、全部受け止める」
「今日の、今日のだって気持ち悪かった!怖かった!俺悪いことしてないのに…コウ、コウ以外に……触られちゃったじゃんかっ」
「……どこだ?」
「ひっく……え?」
「どこと、どこと、どこだ?もっとか?何された」

(あれ……俺、言い過ぎた……?)

「え、え……いや」
「顔、舐められたんだったな」

両手で顔を包み込まれて唇を舐められる。緋縁が固まっていると、おでこ、目元、頬とキスが降ってくる。

「唇…切れてる……ここ、痣になるかも」
「殴られたのは1回だけで、あ、叩かれたんだ」
「緋縁、我慢の限界だ。何をされたか全部言え」

ぐっと迫られて仰け反るために腕に体重が掛かる。

「いっ」

肩に鈍痛が走る。ずっと抱いて運ばれていたから忘れていた。あちこちを打ち付けて痛かったのだ。

「まだ痛む所があるのか?」
「突き飛ばされて、ぶつけたんだよ」
「はぁ……仕方ない、今日はもう休め。寝るまで傍にいるから。俺のことだけ考えて寝ろ」

凄いことを言われている気がする。緋縁は本音をぶつけたつもりだったが、自分の気持ちに名前を付けて伝えていない。これで良いのだろうか、とまたしても無限のループに入り込む。

「しばらく、ここにいたらどうだ?」

ベッドに緋縁を運びながら皇輝が何となく言ってくる。

「心配で帰せそうもない」
「でも……」

心細さはある。皇輝の傍は安心するのだ。しかし、生徒会長の部屋にいるのは色々と問題が有りそうだ。

「恋人が攫われたんだぞ、部屋に保護するのは当たり前だろ」
「恋人……なの?」
「は?まだそんな事言ってんのか?緋縁も俺が好きなんだろ?もう認めたんだろ?恋人以外に何がある。ぐちゃぐちゃ言ってないで彼氏の言うことを聞け」

(なんか、なんだろ…悩むのって…)

どこまでもストレートでシンプルな皇輝には勝てない気がした。ゆっくりと、壊れ物を扱うようにそっとベッドに寝かされる。夏の、あの時のように髪を撫でられる。

「寝る前に湿布しないと、持ってくる」

(あ、行っちゃった………行っちゃった?行っちゃったって思ったの?俺?!)

1人ベッドの中で悶える緋縁。恥ずかしくて堪らない。両手で顔を隠して思わずゴロゴロしてしまう。しかしいつもと違うのは満身創痍なのだ。今度は痛みと戦う為に悶える。

「何やってんだ?足出せ」
「……こんなにポンポン用意良く出てくるって、怪我が多いの?」
「まぁ、そこそこ」

(さすが、総長様…総長の恋人になったんだよな)

半年前のあの時と変わらないはずだが、改めて言葉を思い浮かべると響きのインパクトが凄いな、と思ってしまう緋縁。

「なんだ?変な顔して」
「別に……」
「言え、誤解とか嫌だからな」
「だから別に…総長なんだなって思っただけだし」
「あぁまぁな…総長っつっても、俺は2代目だし」
「え?そうなの?初耳…」
「兄貴の後釜だしな。そもそも、チームって…自警団的な意味合いと、合理性の融合で出来たものだしな。そんな大したことない」
「合理性?」
「兄貴たちの代はちょっと…自由奔放な人が多かったらしく、個人個人バラバラに悪さして把握出来ないより、まとめた方が何やってるか分かるだろ?そんで、集団で歩いてると人目もあるし、牽制もできるっつー訳。そんである程度噂もチラホラ出てきて、今みたいに何チームか出来たってこと」
「へ、へぇ…そうだったんだ…お兄さん、いるんだね…知らなかった」
「マジか、そうか、外部だと知らないのか…あと、姉と弟がいる」
「4人兄弟なの?凄い…俺ひとりっ子だし」
「緋縁は夜の街で遊んでた割には噂に疎いな」
「だって…イチとだけ話してたしあの辺は地元じゃなかったし」
「だから見つからなかったんだな、色んな学校もあたってたのにお前は全然いない…実在したのか怪しく思った時もあったからな」

湿布の上から包帯で固定してくれた。緋縁に布団を被せ、自分も隣に入る。こそばゆい気持ちで皇輝をチラリと見る。

「ん?腕枕がいいのか?」
「そんなことは一言も言ってない…」
「怖い目にあったんだ…甘えろよ」

(何だこの甘い雰囲気は)

「隣に、いるだけで…いいよ」

ふっと皇輝が笑った気がした。目を閉じて暑いくらいの温もりに包まれて眠りについた。
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