24 / 62
心の平和はおとずれるのか
《24》
しおりを挟む緋縁が逃げていくのを黙って見ている皇輝。
「あらら、逃げちゃったけど良いの?コウ」
「いいんだよ」
何故か余裕の表情の皇輝に怪しむ残された2人。
「ちゃんと、印付けたし」
はっと唯一の大きな目がもっと大きく開かれる。
(まさか、ヨリ…既に見付かってるんじゃ)
「月曜日が楽しみだよ。 緋縁に会えるのが…」
「ひより?」
「じゃあな、ガード。お前も苦戦してるな」
(ヨリ~~やっぱダメじゃぁん!)
歪んだ笑顔を見せた皇輝は夜の街に消えていった。残された2人
「さーて、ゆいちゃんはどうするの?帰るなら送って行きますけど~?」
「僕、1人で帰れます」
「たまにはさ、俺の言うこと聞いてみない?余り冷たいと、俺もどっかの狼みたいになっちゃうかもよ?どうする?」
唯一は一瞬緊張したような顔をしたが、直ぐに取り繕い、チラリと彗を見て足を進めた。
「ゆいちゃん、ガオー!」
「そうやって、すぐふざけて、バカにしてます?先輩こそ、ちょっとは僕の言うこと聞いてください」
「ゆいちゃんの頼み事なら何でもきいちゃうよ」
「やっぱり分かってないです」
「分かって無いのは、ゆいちでしょ。こんなに可愛い子、1人で帰らせる訳に行かないでしょ」
こうやって、たまに男の顔ってやつを覗かせてくるガードの総長、七海彗。実は皇輝よりタチの悪い男だったりした。
「僕、先輩に怒ってるんですよ。助けて貰ったことはちゃんとお礼言ったし、僕は別に悪いことしてないのに…勝手に色々して……先輩、謝ってくれないし、悪びれてもない。僕に酷いことしたとか思ってないんですか?本当に」
今のままでは埒が明かないと判断した唯一は足を止めないまま、顔だけ彗の方を向いて話し出した。彗も彗で唯一にしっかりとくっついて来ている。
「ん~酷い事ねぇ…ちょっとだけワザとスマホ壊しちゃって、後はあれかな?キスしちゃったこと?」
「七海先輩!!」
「ゆいちとサキちゃん、2人ともなんだけどさぁ」
「何ですか…」
「もぅいい加減自分がどう見られてるか自覚持とうよ…双黒って噂される程人目を引く存在なんだよ?それに、俺もコウも純粋に好きになっちゃっただけじゃんか。そこまで拒否しなくても良くない?」
「え?何言ってるんですか?話始めと最後、論点変わってますよね?先輩達が好きなら当然OKしろと?そういう事ですか?」
「えーだって…なんで断るの?意味わかんない」
絶句、これに尽きる唯一。
「アプローチの仕方間違ってるし、そもそも人類皆自分の事を好きなのが当たり前だと!?」
「違うの?」
思わず立ち止まって口を開ける。薄々そんな事かと思っていたが、ハッキリと言われるとは驚愕するなという方が無理な話である。
「厄介な相手に好かれちゃった~って思ってる?」
「厄介どころじゃないですよ…僕は断ってるんだから、聞き入れて下さいよ!」
「いやいや、押して押して押しまくるよね。頷いてくれるまで付きまとうよ~。もう観念して俺のものになっちゃいなよ」
「そんなこと言って、飽きたらすぐにポイするんでしょ…結局バカを見るのは僕なんだ…」
「あれあれ?それってもぅ俺のこと気になっちゃってるってことでしょ!?」
どこまで行っても平行線な会話だ。
「なんで、僕なんですか…僕なんて目立たない方なのに…しかもアニオタで推しキャラ取るためにゲーセン来てたんですよ?住む世界違うでしょ!」
「その自己評価がおかしいんだよなぁ」
「自慢じゃありませんが、僕はヨリと違ってモテたことなんてありませんから、暇つぶしの遊びなら本当に辞めてください」
「サキちゃんも綺麗な子だけどさ俺はゆいちの可愛いさの方が好き」
少しの間を置いてゆっくりと歩き出し、唯一がそろりと聞く。
「前から聞きたかったんですけど、先輩って同性が好きなんですか?」
「ん~俺さ前にテレビかなんかで見たんだけど、人間ってお母さんのお腹に居る最初の最初は皆女の子なんだって」
「え"?何の話ですか…」
「いいから聞いて聞いて、それでね、お母さんのお腹の中で大きくなってくでしょ?その途中に男の子のシンボルが出来てきたり、女の子になったりするんだって。DNAで最初から違うのかも知れないけどさ進化の過程を通って人間らしい形になってくんだって。凄くない!?」
「いや、だからなんの話しを急に…」
「だからさっ性別ってそんなちっさい事気にしなくて良いかなぁって。要はさ、心臓が動いてて血液が流れてて臓器が動いてて、人間なんでしょ?人が人を好きで、それこそ何が悪いの?」
「皆がその考えだと人類いなくなっちゃいますよ」
「大丈夫大丈夫、女好きはいっぱいいるから。俺はおっぱい無くても大丈夫だから」
「良さげな話だったのに、なんか最低ですね」
少し沈黙が続く。
「あの、どこまで付いてくるつもりですか?」
「もちろん!家の前までだよ」
唯一は困り顔でチラリと彗の顔を見る。
(この人、傷つかないのかな…僕ってこの人の好きな人な訳だよね…こんなに断られ続けてるってのにメンタルどうなってるんだろ)
「あのー…もうすぐ家着くので、本当に大丈夫です。ここまでで…ありがとうございます」
立ち止まって、曲がりなりにも送ってもらってしまったのでお辞儀をしておく。
「だから家の目の前までだって言ったでしょ」
「いや、なんか逆に怖いので…ここで」
「ゆいちゃん、俺って生徒会長もこなしちゃってるでしょ?生徒の住所一覧とか先生に見せて貰えるんだよね~」
にこりと笑う狼。
「個人情報の漏えいだ!」
「って訳だからレッツゴー!」
結局、唯一でも総長様には勝てないのであった。
一方、本人的には無事逃げれたと思っている緋縁は寮の部屋に帰りついていた。今は洗面所の鏡の前にいる。噛まれた首を確認したかったのだ。しかし、前から見ただけでは絶妙に見えない場所だ。うなじに近く、耳の下辺りにあった。丁度今の緋縁の髪の長さだと隠れる位置だった。
(ちっくしょ~こんなに付けやがってぇ)
会うと絆されそうになる。やはり日高皇輝という男は危険だ。緋縁は男の恋人を望んでいなかった。
(ほんと、予想外!イキナリ噛み付く?無いわー)
しかし、ホッともしていた。唯一に会えたし皇輝からまたしても逃げられた。
(あれ?でも何であそこにいたんだろう…今日の黒龍の集まりは1番街の筈なのに……)
緋縁は首を押さえながら疑問に思った。
(イチ……大丈夫だったかなぁ…)
11
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。
かるぼん
BL
********************
ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。
監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。
もう一度、やり直せたなら…
そう思いながら遠のく意識に身をゆだね……
気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。
逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。
自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。
孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。
しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ
「君は稀代のたらしだね。」
ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー!
よろしくお願い致します!!
********************
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる