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すべてのはじまり

《14》

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  シン……

静かになった部屋に1人きり、部屋に1人なのだ。チャンスは今だ、スマホも手元に戻った、体の調子も良い、走れそうだ。玄関を開ければ外に出られる、あの男から逃げられる。

(こんな形で逃げたらコウは怒るだろうか、怒るだろうな…でもすぐに忘れるかも、諦めが早いかも。あっという間に興味を無くすんじゃないかな)

今すぐに出ていけばそれでお終いだというのに、緋縁は躊躇している自分に気づきたくなかった。

(嫌われるかも…あの温もりを感じることはもう無いんだな…熱烈な愛の告白なんて初めてされたな…)

そして、はっと現実に意識を戻す。今この部屋にいること自体が異常であると認識しなければ、と考えを戻す。大きな作戦を考えねばならなかったかもしれないのに、この状況は棚からぼたもちだと。信じさせて裏切る行為に罪悪感を感じるが、元々酷いことされたのは自分自身であったはずだ。それに、ここにずっといるのは何にせよ良くない、客観視出来ない。一度離れてみてゆっくり考える必要はあるはずだ。
どうにか、こうにか、理由を並べ立て緋縁は部屋から出る決心をした。

(まずは地図でここがどこら辺か調べて、歩いて帰ろうスマホさえあればどうにかなる)

玄関に立ち、ドアに手をかける。心臓はバクバクしている。もし、すぐ近くにいて見つかってしまったら、と最悪な想像をしてしまう。

(くそっもうどうにでもなれっ!)

ガチャン鍵を開けてガチャッドアを開ける。周りには誰もいない。施錠しないまま無人になる部屋には目をつぶる。恐る恐る外へ出る。ここは5階のようだ、窓から見える景色で何となく予想はしていた。エレベーターは怖いので階段を使う。キョロキョロしながらエントランスを抜けて歩道に出る。幸い靴はすぐに見つかったので裸足ではない。スマホの画面を確認しながら家へと走る…
逃走に成功したのだ。

  こうして、7日間の監禁生活が終わった。


  ほんの30分後、コウは部屋に戻った。鍵が開いている。気が緩んでいた。

「サキ、帰った」

あの可愛い声で<おかえり>と聞きたい。しかし、何も反応がない。ガランとした雰囲気だった。嫌な予感がしてきた。

「サキ?…サキ!…サキ!!」

全ての部屋をみて回る、そして靴箱を開ける、驚愕に目を開く。

「くそっ!アイツっ…サキィ!」

バタンッ

急いで部屋を出る、マンションの周りを走って探す、電話を掛けて相手が出るまでイライラする。

『はい…「おいっ!誰か来いっ呼べっ!人探しだ。早くしろっ今すぐだっ!」
『…分かった』プツ

(くそっくそっくそっっ!本気でいなくなりやがった、ガードに戻ったのか?くそっ誰彼構わず締め上げて吐かせてやるっサキ、サキ、許さねぇぞ俺様から離れるなんて、逃がさねぇっ)

コウは大きな勘違いをしたままだった。緋縁がガードというチームに入っていると思っていたのだ、ここを当たればすぐに身元がわかり見つかると思っていた。ゆっくり緋縁を知ろうと、今日の夜にフルネームを吐かせるはずだった。緋縁はギリギリ逃げられる時に逃げたのだった。

「サキーー!」

コウの声が虚しく響く、この後人を使って探し回ったが緋縁は見つからなかった。もちろんガードに当たったが、総長直々に入っていないと確認も取れた。煙のように消えしまった愛しい人、コウは荒れに荒れたのだ。緋縁は夜の街にいっさい近づかなかったので見つかるはずがなかった。

(サキ、どこに居る、出てきてくれ…サキ)


  緋縁は家に着いた後、また寝込んでしまった。気が抜けたのだ、そしてとにかく今度会ったら殺されると思って安全に身を隠す場所として寮を選んだ。学校と家の往復、勉強に次ぐ勉強、そして度々体調を崩しながらも必死だった。
元々、家から少し離れた繁華街に通っていた為同じ学校の生徒はいなかったのも幸いし、見つかることなく晴れて高校生になれた。安全なはずだった。安全だったはずなのだ、まさか、まさかまさか校門で見かけるとは…悪縁に泣く緋縁だった。


  緋縁が逃げてからコウは改めて部屋を調べた。緋縁が着ていた服は残されていた、しかし無くなっていたものがあった。コウの黒いパーカーだった。アタマからすっぽり被り、見つからないように逃げたのだろう。想像して可愛いと思ってしまった。

(フード被んの好きだな…服、洗わなきゃよかった…サキ…サキ……)

コウが好きだった緋縁の髪、似ている子を見つけるのは、あと半年後…
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