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すべてのはじまり
《12》
しおりを挟む4日目、目が覚めたら既に日が傾いていた。
また例の倦怠感だ、明け方まで抱かれ、行為の数々が残像となって頭の中によぎるとゾクリと寒気がする。作りかえられた気分だ。未知の世界に無理矢理引きずり込まれ、愛を囁かれる。緋縁は自分の身体をぎゅっと抱きしめた。ベットには1人きりだった。すぐ側に暑いくらいの温もりがないことに物足りなさを感じて嫌気がさす。自分の考えにゾッとする。これでは本当に身も心もコウの物になってしまったかのようだ。
(怖い…コウは、アイツは危険だ…)
ムクリと起き上がる、見慣れてしまった自分の格好、大きめのコウの服。外に出るには恥ずかしいがそんな事言ってられない。でも何か策を考えねばアイツから、ここから逃げられない。
寝室を出るとリビングにコウがいた、一人暮らしだというのに部屋が幾つあるのか、そう言えばコウは誰なのか。総長以外に何も知らないことに気づく、それは緋縁も同じなのだか。
(あ、金持ちなのは想像つくな)
「…起きた、いつ帰れるの?」
「おはよう、ここに住んだら?」
(シャレになんねぇ~)
「は、ははは…ははっ…」
乾いた笑いしか出ない
「とりあえず、夏休みだろ?しばらく居ろ」
(来た、そろそろ個人情報聞いてくると思ってた、拉致られた時、身分が分かるものは何も持っていない、スマホもロック掛けてるし俺がサキ以外の事は分かってないはず、きっと俺の返事を最優先してたはずだから。ガードに入ってない事も知らないはず。とりあえず今日は大人しくし過ぎないで様子をみよう…)
「ん~…でも俺帰りたい、つかせめて服返して欲しい、スースーしてお腹痛くなりそう」
「…俺のズボンを履けばいい…ブカブカで可愛いだろうな…よし、待ってろ」
(よし、馬鹿でよかった…下さえ履けばサイズなんてどうでもいい、)
ブーブーブースマホのバイブが鳴っている
「何?…あー…俺必要?…あー…ちっ」
(これは、チャンス到来!?)
「はい、これ、裾何回折れば歩けるかな?ふっ」
「!…どうも…どっか行くの?」
「今、チャンスだと思った?行かないよ」
(は?いやいや、思っきり呼ばれてるでしょ)
ブーブーブー
「…ちっ…」
「呼ばれてるじゃん…行けば?俺もう1回寝る、ダルくて外行けないし」
「お前がそんなに素直なたまか?」
「どうぞ、ご自由に想像して下さい!ダルいしこんな服だし黒龍の総長様を怒らせるなんて馬鹿な真似しませんけどっ…それに…返事したし…俺ってコウ…さん…の…こ、こ、恋…」
(駄目だっ恥ずかしくて言えない!信じさせる作戦なのにぃ…)
「…なんだ?今すぐ抱いて欲しいのか?」
「な、なんでそうなる!で、出掛けても居るってだけじゃん!呼ばれてるんでしょ!さっさっと行ってください…帰るまで居ればいいんでしょ…」
(くっそー…こんなの慣れないに決まってる~)
「はぁ~行きたくねぇ…サキがどんどん可愛くなってくのに、おちおち出掛けてる場合じゃないだろ…」
(いや、行けよ…)
「速攻で帰って来る、待ってろ…ちゅっ」
両手で顔を包まれ上を向けられる、そして当たり前に落ちてくる唇。恥ずかしくて恥ずかしくて赤くなる緋縁、思わず俯いてしまう…
(…より信じさせる為に、今日は体もダルいし、本当に寝ようかな…)
「ちゃんと、待ってるから、いってらっしゃい」
「っ!?はっ!…くそっなんだそれ!」
(え、えぇ!?)
驚いて上を見るとコウの顔が仄かに赤くなっている、緋縁の言葉は効果絶大らしい。ツキン…緋縁の胸が知らない感情を訴えてきた。
「あ…いや…うん…」
見ていられなくて目を逸らす。
「ゆっくり寝てろ、流石に無理させすぎた自覚はあるから」
コクン、言葉につまり頷くだけになってしまう。
「じゃ、行ってくる」
後ろ髪引かれながらコウが部屋から出ていく、バタンと玄関の音が鳴り、ガチャンッ鍵も閉められた。ほぅっと力が抜けた緋縁はペタンと床に座り込んでしまう、手には受け取ったコウの大きいジャージのズボン。無意識に唇を指先で触っていた。
(っは!やばい俺!乙女行動じゃね?…そうだ、俺のスマホどこだ?……なんか…寝よ…)
そのまま、毒気を抜かれた緋縁はベットに戻って寝てしまった。
ガチャガチャッ…キーバタン
気づいたら寝入っていたらしく玄関のドアの音がした。キー寝室の扉が開かれる
「サキ…いた…はっ…サキ…ふぅ」
スタスタとベットに近づく、そしていつもの様に髪を撫でる。
「寝てるのか?…サキ…」
髪に唇が押し当てられる、寝起きのぼぅっとした頭でされるがままの緋縁。何と言って良いか迷うが、ここはこれに間違いない。
「おかえり」
「…ただいま、サキ」
ぎゅぅっと抱きしめられる、暑いくらいの温もりだ。
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