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高等部のころ
《34》
しおりを挟む「サト……勿体ないねぇ…」
「え?……どういう……」
「オータ!呼び出し。行くぞっ」
意味深な発言の意味を知りたいのにテーブル席にいる仲間からお呼びがかかってしまう。
「あーぁ…残念……ここまでだよ。もう少し話したかったのにね?サト……」
「あ……そう、なの?」
「ふふ……また会おうね。楽しみにしてるから」
「!!」
(た、楽しみにしてるから!?)
軽く手を振りながら仲間の元に歩いて行く。
「ススム~邪魔しないでよ~」
「俺じゃないよ、ボス様だよっ」
(わぁぁ……進だっ…絶対うるさく言うよ…)
「誰と話してたんだよ?」
「えぇ?…内緒だよ」
「ナンパか」
「ふっ……ご想像にお任せします」
(うわっうわっ……こっち見てる。なんだよ、見るなよなぁ)
「なんかさぁ黒龍の奴らが煩いみたいで…」
「黒龍?」
「そう、総長が暴れてるらしい」
「はあ!?暴れてる?」
「近づきたくなくても…呼ばれちゃったから…俺らの総長に…」
(総長、総長!?え?総長!?)
漏れ聞こえた会話に驚愕する里葉。
(は?だって……総長なんて響き…現実で聞くこと本当にあるの?総長って……暴走族とかのでしょ?え、え……山岡くんとか進も?本当に??)
すっかり困惑している里葉は混乱の無限のループに入り込んで一人ワタワタと視線が定まらずにいた。
カランカラン
「ありがとうございました」
鐘の音が聞こえて央歌や進たちが外に出ようとしている。外に出る階段を登りながら進は央歌と話していた相手が気になり振り返って一瞥した。何か引っかかった感覚がした。
(ん?なんだ、この感覚…あそこに座ってるやつ…なんだ?俺が、知らない奴……だよな?)
「オータ、お前が話してた相手って俺の知り合いじゃないよな?」
「えー?……それより今は黒龍でしょ?」
「まぁ確かに……」
最後にドアを閉める直前もう一度振り返って、カウンターに座る後ろ姿を見る。
(あれ?あの服、どっかで見たような…)
バタン
確認する前にドアは閉じられてしまった。視界が遮られると自分のやるべき事へと考えを切り替える。
(はぁ……行った……いなくなった…毎回進と一緒に来るのかな山岡くん)
明らかにほっとした表情の里葉にカウンター向こうから様子を伺っていた三井は顔を綻ばせる。
「サトくん、秘密にしたいことがあるなら周りに注意してね」
「え!ひ、秘密?ですか……」
「そうそう、誰が見てるか分からないからね」
「はぁ……僕、分かりやすいですか?」
「俺から見たらね、ここからならお店の中全体を見れちゃうし」
「そうですよね……あの、さっきまでいた人達って……よく来るんですか?」
「あぁハクの子達ね、最近はよく見るよ。特にサトくんと話してたオータくんは誰かを探してるみたいにキョロキョロしてたよ」
「探してた?」
「ぷっ……サトくんの事だよ…話してみて気がつかなかったかい?」
「え、え、え、僕を…探してたんですか?」
「サトくんの興味を引こうと必死だったでしょ…そんなジュースなんて掛けちゃって…大人っぽい雰囲気を作ってもまだまだ子供だなぁって思っちゃったんだけど…」
里葉の顔が赤くなった。
「あら……そこで赤くなっちゃうの……」
両手で頬を隠す里葉の行動は微笑ましいが、三井の目には危うく写ってしまう。
(だって……さっき僕に興味なんてないって思ったばっかりなのに…ここで会っただけで興味持って貰えるなんて…嬉しいに決まってるよ…)
「サトくん……君が秘密にしたい事の優先順位をつけた方がいいかもなぁ…」
「優先順位…ですか……」
三井はカウンターから身を乗り出してコソコソ言ってきた。
「この店の中で誰かに見つからないってのは難しいと思うよ。だから自分の気持ちを隠す方に専念したらどうかな?」
「!?」
「ごめんね。俺はこんな仕事してるし何となく分かっちゃうんだよ。ポーカーフェイスを磨くか、打ち明けてしまうか、どうだろう?」
「み、み、三井さん…何を……」
「嘘つくの下手だって、さっきオータくんにも言われたばかりでしょ?」
「う"っ……」
「俺はどこまでも中立の立場なんだけどね……サトくんには手を貸したくなるんだ。夕くんにも頼まれてたし…」
「夕先輩………はい、考えてみます」
「よし、素直な事は良いことだよ」
さすがにちょっと悔しい気持ちの里葉は拗ねた顔をしながら反論してみた。
「……僕の、その…普段の嘘くさい笑顔も…ある人の忠告を聞いて始めたことなんです。それに笑顔だと…気持ち誤魔化しやすいから…」
「確かに、的確なアドバイスをしてくれたみたいだね。サトくん、無表情だと顔の造作が引き立って君の持つ雰囲気と相まって色っぽくなるんだよ。後、癖なのかなぁ…時々流し目してるでしょ。あれ…俺は傍から見てるからいいけど…真面に見ちゃったらくラリと来る奴多いよ。武器になるから」
「…………僕の話じゃないみたいです…前から言われてるんですけど…あの…僕って…その……本当にい、色……色気なんてあるんですか?」
「無自覚かい!」
三井に突っ込まれてしまった。
「いや、そんな気はしてたけどね…危なっかしい子だね…君は」
「か、鏡見ても自分じゃ分かりません!」
恥ずかしくて手で顔の半分を隠してしまう里葉。
「手っ取り早くナイトを探してはどう?」
(出た、その単語……)
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