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高等部のころ
《30》
しおりを挟む振り返った視線の先、知っている顔が見えた。認識してすぐさまカウンター側に顔を戻す。目の前にあるピンク色の液体、氷の入った美味しそうなジュース。そのガラスのコップを両手で掴み飲むふりをする。下を向いて今入って来た人達と視線が合わないようにする。バクバクと心臓の音が聞こえるようだ。
「こんにちは~三井さん」
「いらっしゃいませ」
軽く挨拶を交わしている、慣れているようだ。じんわりと耳が熱い。今はコップを持っていてひんやりしているが、手汗をかいていると思う里葉。
(僕、今日はこんな格好してる……僕のキャラと違うよ~…………あ、そうだった…普段通りの僕で良いんだった……でも…)
緊張で喉が乾いてきた、ストローに唇を付けて一口飲み込む。動機のする胸までスーと冷たいジュースが流れる。甘くて少し酸っぱくて苦味があるピンクグレープフルーツジュースが頭までスッキリさせてくれたみたいだ。
ふぅ
一息つく、挨拶をした後はテーブル席に座ったようだった。ほとんど顔を動かさず彼らを見る。視線を瞳の端ギリギリまで動かして見ようとする。傍から見たら物凄く睨んでいるとしか見えないだろう。数人で来ている彼ら、知っている顔だ。そのうちの一人が仲間との声を交し、椅子から立ち上がりこちらにやって来る。
「三井さん、ジンジャエールとコーラ2つ、後はグレープジュースに炭酸入れたやつお願いします」
「はい、かしこまりました」
里葉は咄嗟に手首を目の下に当てて頬杖のポーズで近付いてきた彼に背を向ける。冷や汗がぶわっと出ていると思った程、心臓が跳ねた。
トントン
前ぶれなく肩を指先で叩かれた。注文をしていた客に間違いない。ピクリと肩が動いたが、どうしたらいいか分からない里葉はそのまま微動だに出来なくなってしまった。
「もしもし、こんにちは。見かけない方かなぁって思うんだけど…初めましてかな?」
「………………はい」
「……えーと…あのね、夏休みに入ったじゃない?それで、防犯って意味でも新規のお客さんには声を掛けるようにしているんだ。俺はハクってチームのオータっていうの。君の名前を聞いても良い?」
(や、ややや山岡くん!!やっぱり山岡くんだ!!どうしよう、何も考えられない……)
「…………あ、里…………」
(バ、バカバカ!何普通に名乗ろうとしてんの?僕は!しかも背中向けたままって……どんな奴だよ)
「サト、か。よろしくね。このお店はどうやって知ったのかな?」
「え…………」
(あれ?チーム?……チームって言った?さっき山岡くんチームって言ってたよね…あれ?僕最初にこの店入った時に不良とか思ってたよね…え?山岡くんも不良なの?風紀なのに!?あれ?でも、防犯とか言ってる…そもそも、なんで僕はバレないようにしてんの?悪いことしてる訳じゃないのに……ゆ、夕せんぱ~~い……)
里葉はグルグル考えが次から次と浮かんでパニックになっていた。
「えーと、もしもし?」
「あ、し、知り合いの…紹介…」
「あぁなるほどね~」
「はい、ジュースお待たせしました」
「ありがとうございます」
注文をしていた客、央歌は受け取るとすぐに戻ろうとはしなかった。央歌と一緒に店に来た数人の会話が聞こえてきた。思わず里葉と央歌もそちらの会話を聞いてしまう。
「夕さん、留学したんだって?」
「あーそうそう。ちょっと寂しいよなぁ」
「おぉ……俺の知り合いもピーピー言ってたな」
(…………え"…………この声…………)
ソ~っともう一度見ようとする。しかしドキドキして上手く見れない。
(ここまで来て、今さらやぁ!とか出来ない。なんで最初に僕だって、里葉だって言わなかったんだよ~僕のバカ)
「おーい!注文来たから運ぶの手伝って~ススム」
(やっぱり進っ!!)
近くに進が来る音がする。二人はグラスを持ってテーブルに戻って行く。
「ふっ」
頭の上から笑い声が聞こえた。視線を上げるとカウンターの向こう側から三井と呼ばれていたオールバックの大人の男性がこらえきれずに口に手を当てて笑っていた。
「百面相……」
一瞬、なんの事か分からなかった里葉だったが自分の表情の事を指されていると気が付いて顔に熱が集まるのが分かった。
「っ………………」
「知り合いだった?」
「…………は、い…」
「ここに来ている事、内緒にしてるのかな?」
「そうじゃ……ないですけど…」
自分でも分からないのだ、説明なんて出来ない。
カランカラン
またドアが開いて鐘の音が聞こえた。
「いるか?ハクはこっち集まれ」
新しい声が聞こえて今度こそソ~と背中越しに覗き見る。
「!!…………」
(ふ、風紀委員長……)
そこに居たのは中等部のあの事件の時に保健室に来た風紀委員長だった。ざっとメンバーを見ると誰も彼も風紀のメンバーだった。
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