さがしもの

猫谷 一禾

文字の大きさ
上 下
27 / 46
高等部のころ

《27》

しおりを挟む


 「剣…様……」

ここ、親衛隊の教室に顔を出したのは本川剣(ほんかわ つるぎ)生徒会の人間だった。
不意をつかれた顔をしているのは夕だった。里葉は状況が飲み込めなくキョトンとしている。

「なぜ?ここに……ご用事でも……」
「お~川口夕。お前だけ?そいつは?1年?」
「あ、はい。そうです…僕のチームの子です」
「へぇ……お前のチームねぇ……」

そう言うとズカズカ入ってくる。大きな人で真上から見下ろされている。

「1年、俺の事知ってる?」
「あ、はい……あの中等部の時にお見かけしました。生徒会の副会長様ですよね……」
「そう、ちゃんと知ってるな。よしよし。ん~中等部の時もいた?1年坊主…」
「……はい、あの僕はあまり目立たないので…」
「そっかぁ?悪くない顔立ちしてんじゃん…何?川口のチームなの?マジで?」

3年S組 生徒会副会長 本川剣、見た目通りの豪快な人だった。

(なんか……めちゃくちゃジロジロ見てくるんだけど…夕先輩も何も言わないし…)

「名前は?」
「へ?……あ、森です」
「ばーか下の名前だよ」
「里葉……です…」

(ば、ばーか!?)

チラリと見た夕は何やら手をおでこにつけて苦悶の表情で俯いている。

「里葉、俺の相手にならね?」
「え、えぇ!?」
「ちょっと、剣様!言いましたよね!?彼は僕のチームです。お手伝いチーム!相手はしません!」
「まじかぁ?俺がしたいっつってんのに?」
「こ、ここ困りますぅ…」
「くくく……焦ってボロ出てるよ里葉」
「え、え、え?なんの事ですかぁ?」
「お前の目、媚び売ってねぇぞ」
「え"……」
「あっはは……まじ良い!おい川口、俺に寄越せよこの子。可愛いがってやるから」
「ダメです!」
「ふぅん…庇うねぇ」

夕も里葉も黙ってしまった。何故かこの男の前では嘘が通用しないのだ。人を見る目が抜群で騙されてくれない。

「里葉は?俺じゃダメなの?親衛隊に入ってるくせに…本当は誰が狙ってる奴がいるのか?」
「僕は…1年の生徒会の皆様が…」
「はぁ?まじ?アイツらかよ……じゃ、あの中じゃ誰?居るだろ」
「いや、皆様が……」
「嘘つけ、剥ぐぞ」

(何だっこの人!!とんでもないなっ)

「あ、あの……」
「ほれほれ、俺に抱かれれば気持ちよくしてやるからさぁ。なんなら里葉一人だけ寵愛してやってもいいぞぉ?」

(江戸時代か!)

「くっ……」
「決まり、俺に部屋に来いよ」
「キイチ様!1年のキイチ様です…」
「……え……貴一?村上貴一?」
「はい、そうです……」
「あーなるほど……まじかぁ……里葉の事気に入っちゃったんだけど…え、無理?試しに俺に抱かれてみない?」
「しません。ごめんなさい」
「まじかよ……あーアイツに操立ててんのかよ…勿体ねぇなぁ」
「剣様、貴一様は大事にされている恋人がいらっしゃいます。それでもお手伝いがしたいという里葉くんのいじらしい気持ちを汲み取ってください」

夕がペラペラ喋り出す。

(ナイスだ僕!前に、何かの時のために考えてて良かった…)

里葉は満足気な顔で息をつく。

「でもさ、気が変わったら何時でも言ってこいよ。里葉、よーく覚えたぜその顔。育てがいが有りそうな面してるのな」

暇つぶしにここに寄ってよかったと言いながら去って行った剣。

「嵐が去って行った……」

出て行ったドアを見ながらボソリと夕が呟く。そして里葉に向き直り頭を下げる。

「ごめん、里葉くん……」
「え、いや夕先輩が謝ることでは…」
「あいつ…剣のバカ…ん"ん"……剣様……あれね……さっきのあれ」
「はい、大丈夫です。冗談ですよね?ちょっと分かりずらかったけど、唐突すぎてびっくりしました」
「あー……本気」
「へ?」
「だから…奴は本気だよ。あれ」
「嘘だ……いやいやそんな、夕先輩ったら」
「変な虫に気付かせちゃったぁ~」

夕は頭を抱えて天を仰ぎ見る、フルフルと顔を振ると悔しがった。

「あ"~僕だけが里葉くんの魅力に気付いてたのにぃ!僕の独占だったのにぃ!!」

キッと涙目で見られ

「しかもごめん~。本当に気を付けて!あれでも人気あるし~。報復する様な親衛隊は剣派にはいないと思うけど…でもでも3年だからすぐ卒業してくから…」

若干支離滅裂になりながら、珍しく夕が謝って来た。予想外のことが起きて軽くパニックなっているらしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無自覚な

ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。 1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。 それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外 何をやっても平凡だった。 そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない そんな存在にまで上り積めていた。 こんな僕でも優しくしてくれる義兄と 僕のことを嫌ってる義弟。 でも最近みんなの様子が変で困ってます 無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...