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高等部のころ
《26》
しおりを挟む武通学園、高等部。
本日は入学式、里葉たちは高校1年生になった。
進と央歌は風紀で活躍し、頼もしい姿に変わった。
里葉もあれだけ小柄だと言われていたが、成長期が来てなんとか平均辺まで背が伸びた。目立つこと無く、何時でも笑顔でニコやかに、を心情に無事卒業出来た。1年生の時に忠告を受けていた手島匠は夕の言った通りになっていた。2年3年と学年が上がるたびに横柄になり女王様か何かかと思うほど威張っていた。しかし今日からまた意趣返しをし上級生に媚びを売るだろう。
(また夕先輩とお話が出来るんだ)
里葉は嬉しかった。ちょっと変わり者の夕だが、一緒にいて楽しいし信頼できたからだ。
「あれ?森って寮の部屋一人?」
「あー本当だ……余りものだぁ」
親衛隊の仲間との会話だった、里葉は身に覚えが合った。理事長が気を使ったのだろう。
(中等部も結局3年間、進と同室だったし…今度は一人余りもの…皆と一緒にしてほしいのに…あ、でも僕の自意識過剰だったら恥ずかしいな……本当にたまたまなのかも…)
理事長を疑ったが、こんな細々した事まで発言するだろうかと逡巡する。
「あ、森!見て見て生徒会の皆様だよ~」
「あ~本当だぁカッコイイね」
いつものようにニコニコと笑顔で対応する。
「生徒会の皆様に会えるのも嬉しいけど、僕は中等部の時にお世話になった夕先輩に会えるのも楽しみ!」
珍しく、里葉からウキウキとした言い方で話しかけられた親衛隊の仲間は影のある笑顔になってしまった。
「森…まだ聞いてなかった?」
「え?」
「夕先輩……留学するみたいだよ」
「え!?……うそ……」
「まだ本決まりじゃないみたいだけど……ちょこっと小耳にはさんだ。森、慕ってたもんね」
「夕先輩……いなくなっちゃうの?」
上昇していた気分が一気に下降した。突然の知らせに戸惑い、思わず笑顔を無くし情けない顔をしてしまう。
「あ、森っ……泣かないでよ?そんな顔しないでよ……僕が虐めてるみたいな気分になるよっ」
「ごめん……でも…僕、ショックで……」
「そうだよね」
「僕、夕先輩にちゃんと聞いてみる」
入学式の後、里葉は親衛隊の活動が許されている教室に来ていた。
「夕先輩!」
「あー里葉くん~入学おめでとう~」
「ありがとうございます。夕先輩、留学しちゃうって本当ですか?」
「おぉ!もう耳にした?情報収集が早くなったね」
「感心してる場合じゃないですよ!いなくなっちゃうんですか?」
「うん、まぁ夏からだから1学期中はいるよ」
「そんな……僕、夕先輩と1年間一緒だと思って楽しみにしてたのに…」
「あはー里葉くんってば可愛いんだからっ」
グリグリと頭を撫でられた。里葉はされるがままで夕の好きにさせていた。俯いたままブツブツと言う。
「僕……本当に楽しみにしてて……だから中等部の2年間も頑張れたんですよ……高等部に行ったら1年間はまた夕先輩といっぱいお話できるって…」
「……何それっ!キュンと来ちゃうじゃない!!ヤバいよ里葉くん~可愛すぎぃ~」
グリグリグリグリ頭ごとかき混ぜられる。
「いたっ夕先輩…ちょっと痛いです」
「だって~里葉くんが可愛いこと言うからさぁ~。あ、その後は?進展あった?」
「ある訳ないですよ。相手は風紀ですよ…」
「時々さぁ連絡は取ってたけど、まじまじと見る機会無かったから…はい、里葉くんそこに立って」
「え?……はい」
「ふんふん、順調に育ってるね~安心したよ」
「たまに会う親戚じゃ無いんだから…」
「いつもニコニコ笑顔は振りまいてる?そんな可愛い拗ねた顔晒してない?もぅなんか…色気出ちゃって……え?経験した?」
「何をですか!」
「え?未経験でそんな色気してんの?大丈夫?」
里葉は久しぶりに会った夕が通常運転で嬉しかったが、やっぱり呆れてしまった。
「僕……その…時々言われる、色気…ってやつ……よく分かんないんですけど。あります?」
「あるある~うーん…なんて言ったらいいか……まとう雰囲気って言えばいいのかなぁ……とにかく色っぽいの!分かる?」
「分かりません」
「だぁ!こういう子だった!!」
2年前のような押し問答がくすぐったく感じる里葉。二人きりの教室のドアが開けられる音がした。そこには、およそ想像もしていなかった人物が顔を出していた。
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