さがしもの

猫谷 一禾

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中等部のころ

《23》

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 同じクラス同じ委員の進と央歌は仲が良く、お互いの寮の部屋を行き来していた。

(あ、山岡くん…今日も部屋にいる)

里葉が部屋に帰ってくると迎えてくれる事が度々あった。その度に里葉の胸は高鳴るが、バレないように必死だった。幸いポーカーフェイスと言うよりニコニコしているのでバレにくい。何より恩人であるので、ある程度の好意は常識の範囲以内である。

「おかえり~里葉くん」

キュン

「ただいま~今日も一緒にいるんだね」

(おかえりってさ、おかえりってさ……)

「山岡って、里葉に愛想良いよな…」
「……そうなの?」

(うそっ…本当に?)

「そう見える?…でも確かに、里葉くん可愛いし、進の同室だしね。友達の友達には良い印象じゃなくちゃ」
「……あ、そうだよね~。山岡くんは常識人だからね~あー僕は勉強しなきゃだから…」
「またぁ?しょっちゅうやってるよな。勉強好きだよなぁ」
「……うん。まぁ……」
「なんの勉強してんだよ、里葉って。余計な雑学なんかやってるから学校の成績今一つなんだろ」
「……ふふ…いいでしょ別に。そこまで恥ずかしい成績じゃ無いんだから…」
「真面目にやれよ~」

里葉は二人に見えないように背中の服を握りしめた。二人は風紀の話など里葉が会話に入れない話を始める。自室に入り机に向かう、俯いた顔は何も映していなかった。ぼんやりと教科書を見つめる。

(やらなきゃ……A組から落ちちゃう……でも……このままで良いのかも…成績で目立っちゃダメだし…っていうか無理な話なんだけどね…)

できて当たり前の人たちの言葉は鋭いナイフみたいだと落ち込む、小学校時代の悪意のない暴言を思い出す。

(山岡くんもそっち側の人なんだよね…)

自分は彼らと対等ではないと日々の生活の中でまざまざと見せつけられているようだった。里葉は能力が低い訳ではなかったが、周りにいる人種が出来すぎるのだ。その中でA組に在籍している事は誇れる事であって、恥ずべきことではない。しかし里葉は人より劣っていると思い込んでいたので焦っていた。

(こんな僕が…山岡くんの事好きって知られたら……ダメだダメだ!)

高みを望む人と生活を共にする里葉にとっては親衛隊は居心地が良くなっていた。誰彼がカッコいい、誰と誰が怪しい、この化粧水が良い、などとおよそ女子の会話のようだが気が抜けて丁度良かった。軽く聞き流せばいい話題が多く、ゴシップを聞いている感覚だった。劣等感は何とか気持ちに折り合いをつけて、騙し騙し傷つかないように過ごせていた。

恋心

これだけが里葉を苦しくさせていた。進に会いに部屋によく来るので、沢山会える。嬉しい半面哀しくなる。”君には興味がないよ”そう言われているのと同じだった。

(遠くから眺めているだけなら良かった……なんでこんな近くにいるんだろ…)

央歌の声が、表情が、仕草が、里葉の視線を離さなくさせる。彼を知れば、見れば、魅力に捕らわれる。吐き出してしまいたい想いは一人で抱え込むしかない。心許せる友達はいない、進になんて絶対に言えない。本人に伝わらなくても、自分を見てくれなくても良い。せめてこの想いを声に出してただ聞いてくれる人がいれば良いのに、と望んでしまう。


「里葉くん……大丈夫?」

声をかけてきたのは生徒会室の掃除中、夕先輩だ。

「え?こっちは終わりました」
「うん。そうじゃなくてね…何か心配事でもあるのかな?って……」
「…………」
「今なら誰もいないよ。僕は口硬いからさぁ」
「……夕先輩…僕……好きな人がいて……」
「あーなーるほど!そうか、そうか…で?誰?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。

「面白がってますよね……」
「そりゃ面白いよ~でもさぁ…話すだけでも楽になる事ってあるじゃない?」
「はい……」
「誰?誰?」
「……風紀の人です」
「ありゃ~そうなんだぁ…あ!だから…苦しい片想いしてるからかぁ」
「ダメでしょ?親衛隊は…」
「確かにね~……でもその彼とどうにかなりたいの?里葉くん的に」
「……考えた事なかったです…嫌われたくない、とか……僕を見て欲しいなぁとか…」
「まだまだ可愛い恋なんだね…ふふ」
「夕先輩……」
「僕が里葉くんの気持ちの受け皿になってあげるよ~隊員の健康も管理しなきゃ!僕はお手伝いチームのリーダーですから」

ふっと笑えた里葉は、確かに心が軽くなるのを感じた。
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