さがしもの

猫谷 一禾

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中等部のころ

《21》

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 1時間程保健室で休んでから寮の部屋に帰って来た。そこには、仁王立ちで待っている進がいた。里葉は回れ右をして保健室に戻りたくなった。

「よぅ……おかえり…」
「どーもー…進さん…」
「俺が、今まで、どこに、いたか、分かるか?」
「さぁ……どこでしょう?」
「り、じ、ちょ、う、し、つ…」
「あぁ…親子で会ってたんだ…」
「ちなみに、兄貴も居たから」
「おぉ…親子水入らず」
「里葉っ!!」
「っ……もぅ…なに~……」
「俺の忠告を無視してだなぁ!」
「無視はしてないよ…ちゃんと気を付けてたよ。あの3年生が異常だったんだよ。僕の名前とか行動範囲とか調べててさ…ちょっと気持ち悪いよね」
「うっわ……マジかよ……ってそうじゃなくて」
「僕、変な人にモテるのかな……嫌だなぁ」
「あるかも、独特の雰囲気してるし……ってそうじゃないんだって!」
「なに?」
「親衛隊に入ったり、勝手なことばっかしてっからこんな事になるんだよ!大人しくしてろよ」

里葉はムスッとした表情で言った。

「親衛隊の事は今回、関係ないよね。僕かなり大人しくしてると思う」
「我儘言ってないで、武藤の家の関係者だって言えっていってんの!一番身を守れるだろ」
「また色眼鏡で見られろって?」
「周りに迷惑かけてんじゃねーかよ」
「この学校で被害にあったのって僕1人じゃないじゃん。他にもいるんでしょ、そーゆー生徒……武藤の家とか親衛隊とか僕だからって関係ないじゃん…進は注意されたからそう言ってんでしょ…僕からおじさんたちに謝ればいいんでしょ!悪いことしてない僕が!!」
「この、卑屈やろう!」
「進に僕の気持ちが分かるの!?放っといてよ」

売り言葉に買い言葉で言い合い、里葉は戻ってきたばかりの部屋を出て行ってしまった。進ももう知るか、といった気分になったが目の前から里葉がいなくなってスーッと頭が冷えた。里葉は今しがた保健室から帰って来たばかりだ。連絡がトントン拍子に進み忘れそうになるが、里葉が被害に遭ったのは今日の話だ。

(マズイ!俺また頭にきて…)

進は進なりに自分の言動の反省をしていたはずだった。こういった時に頼りになるのが央歌だ、進はまたしても小言を言われる覚悟をしてスマホを取り出した。


「何やってんの?」

目の前には呆れ顔の央歌。流石にバツの悪い進は部屋で正座をして待っていた。

「あのね……里葉くんは被害者だよ?しかも殴られちゃってんだよ?部屋を飛び出した?…はぁ」
「返す言葉もありません。助けてくれ……」
「理事長には?意地になって謝りに行ったんじゃないの?」
「………怖くて聞いてない」
「バカっ!」


そして、央歌の予想通りに里葉は理事長室に来ていた。勢いでここまで来たのは良いが、最後のドアをノックするまでが躊躇してしまう。しかし、今日の悔しさをぶつけるように息を吐き出し、目に力を入れて軽く握った拳を顔の前まであげる。唇をギュッと結びドアをノックする。

「どうぞ」

穏やかな声が室内から聞こえた。ドアを開けると来るのが分かっていたと言わんばかりの顔で迎えられた。そこには理事長の一と武藤家の長男道雄がいた。

「失礼します」

理事長室は中等部と高等部に2つあるが、今は中等部の方にいた。こちらの部屋の方が少しばかり狭い。

「感心しないなぁ里葉くん……今日は部屋で休んでいなければダメじゃないか」
「すみません」

道雄が困り顔で言ってくる。

「今ね、進のバカから連絡があってね。里葉くんと言い合いをしてしまって、父さんに会いに行くかもしれないと言われて……そんなまさか、と思っていたんだけどね…本当に来ちゃったよ」

いたたまれない気持ちになった里葉は謝るしか出来なくなる。

「すみませんでした。あの、ご迷惑もおかけしてしまって……」
「里葉くん、今回のことは君が謝るべき事ではないよ。全面的に君は被害者だ。進も風紀委員なんてやっている割には注視が足りない」

一がゆったりだが、威厳のある話し方をする。

「やはり…君の保護者は私だと教師たちにも伝えようかと思うんだが…あまり良い事ではないかもしれないが、ある種の人たちには効果的なんだよ」
「………それでも…僕は…」
「里葉くん!俺は心配だよ。君は可愛いんだよ。どうか分かって欲しい」
「……僕は、我儘を言っているのでしょうか……ごく普通に過ごしたいと思うことは…我儘なことなんでしょうか…」
「里葉くん……」

沈黙がその場を支配する。里葉のともすれば泣いてしまいそうな雰囲気に、一と道雄はそれ以上言葉を繋げなくなってしまった。道雄はここまで頑に拒否するとは思っていなかった。

(これなら、進と喧嘩になるかもなぁ)

なるべく里葉の意思を尊重してやりたい一は今日の所は部屋に帰るように諭す。そしてひと言だけクギをさす。

「次、もし何かあったら…流石に黙っていられないからね?自分を大事にするんだよ。分かったね」
「はい、ありがとうございます。すみませんでした」
「道雄、寮の部屋まで送ってやりなさい」
「はい、分かりました」

ニコリと笑顔を向けてくる道雄。

「…それだと、必然的にバレちゃいますよね…」
「あ、さすが里葉くん。魂胆バレちゃった?」
「一人で帰れます。失礼しました」

正直、ヘトヘトの里葉はこれ以上付き合い切れないとサッサと理事長室を後にした。後に残された親子の会話を知らずに。

「はぁ…つれないなぁ…さーちゃん」
「父さん!?…父さんまでさーちゃんって呼んでるんですか?」
「香の気持ちが分からないでもないんだよ…可愛いんだよさーちゃん。本当は理事長室でお茶でも飲みたいところなのになぁ。一人で頑張って立とうとして……健気じゃないか…あんなに小さいのに」
「それ、里葉くんの前で言っちゃダメですよ。口きいてくれなくなりますよ……」
「分かっているよ、だからこうして我慢しているんじゃないか…まったく……」

実は武藤家の両親は小柄で一生懸命な里葉が可愛くて仕方なかったのだ。
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