19 / 46
中等部のころ
《19》
しおりを挟む開けたドアから顔を覗かせたのは、いつかも助けてくれた風紀の彼、山岡央歌だった。央歌は目の前の出来事にかぁっと頭に血が上っていくのが分かった。
「なにやってるんですか!?」
「っち……マジかよ…」
「その子からどいて下さい!」
「……お前……一人?他はいないの?」
「うっ……んん……」
上体を起こそうとするが、鈍い痛みと今だに里葉に覆い被さっている3年が邪魔で起き上がれない。
「お前邪魔、これから俺たちお楽しみだからさ…出てってくんなぁい?」
「合意に見えません!泣いてますよね!?」
「うるっせぇな……無理矢理が好きなのよ、この子はさ…親衛隊だし?」
「や……たすけ……」
聞き終わるより早く央歌の体は動いていた。上級生である3年の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、チビ……調子にのんなよ…俺に勝てるとでも思ってんのっ?」
言い終わるかどうかで殴りかかって来た。襲いかかってきた3年は、自分より体格が劣る1年の風紀を甘くみていた。まだまだ成長途中の風紀の彼、しかしただでは転ばないのが彼、山岡央歌だった。殴りかかって来た腕を取り勢いそのままに投げ飛ばしてしまっていた。
「あ、すみません。結構しっかりと投げてしまいました…」
「ひくっ」
ノロノロと上半身を起こしていた里葉はその光景をじっと見つめていた。
「大丈夫か?」
見上げれば、息を乱した央歌が手を差し伸べて来ていた。一度投げ飛ばしただけだが息を乱している。彼が緊張していた証拠だ。里葉は手が震えて上手く動かない、自分はこんなに恐怖を感じていたのだろうかと動揺が走る。フワリと背中に手が添えられる伸ばしかけた手はギュッと握られていた。近づいた顔を見れば自分の頬に温かな雫が流れているのを感じた。瞬きをすればそれだけ流れる。
「立てそう?……顔色が悪い……」
里葉はほぅっと息を吐き出し呆然と央歌の顔を見つめ続けた。里葉の手を膝に置いてやり央歌の指の背が頬を撫でる。
「もぅ大丈夫だから」
ドックン
里葉の心臓が締め付けられた。ドクドクドク…と煩く胸を叩いてくる。央歌の顔から視線を外せない。
「山岡、大丈夫か?」
教室の外から声が掛かった。
「現行犯です!」
「何!?あっ!お前…」
央歌に投げられた3年は腰を打ち付けたようで今だに座り込んでいた。
「くそっ!」
「お前……既にペナルティ貰ってるだろ…今回は覚悟しとけよ」
そう言われながら連行されて行く。
「山岡、被害者の保護頼んだぞ」
「はい!」
里葉は俯き、自分の胸の下あたりの服を握りしめていた。頭が働かない、心臓の鼓動が煩い、耳が熱くなってきた。
「保健室に行こう?」
「う、うん……」
立ち上がろうとしたけれどカクンッと膝から力が抜けて上手く立ち上がれない。
「里葉くん?」
「……ご、ごめ……」
(これ、腰が抜けたってやつ?…しかもナチュラルに名前呼ばれてるし…)
「肩貸すよ。それともおぶって行こうか?」
「いい!立てる、立つ!」
恥ずかしくて体が一気に暑くなる。
(うわっ……ドキドキする……なんだよ…これ…)
里葉は央歌に肩を貸してもらい、腰には手で支えて貰いながら保健室に向かった。央歌は終始優しく、里葉を気遣ってゆっくりと進んでくれた。
里葉は手に汗をかくわ顔が暑いわ恥ずかしくて俯くしか無かった。胸のドキドキがずっと聞こえて央歌にも聞かれないかヒヤヒヤした。ピッタリと密着して歩く姿が窓に映りなおさら心臓が煩く騒ぎ出す。
(ヤバい……僕……変だ……)
こんな状況で仕方がないが、笑顔は到底出来なさそうだった。
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる