さがしもの

猫谷 一禾

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中等部のころ

《17》

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 帰り際、夕から言われた言葉を思い返し今の自分の立場を改めて実感する。

〖隊長はね、S組の子たち以外を認めてないの。熱心な親衛隊…30人は特にね、S組以外の子に横柄な態度を取ると思うから〗

ため息が出てしまう。やはりA組からは何としてでも落ちるわけにいかない。既に名簿に名前も記入した。里葉は晴れて親衛隊のメンバーになったのだ。若干投げやりな気持ちが原動力である事は否めないが、一歩踏み出し始めて後戻りは出来ない。今日の雰囲気を見た感じだと、話し方も気を付けなければあの中で浮いてしまう。身を守るためだと割り切り、新たに気合いを入れる里葉だった。

「里葉ぁ!!」

寮の部屋で一息ついている時にドアが大きな音を立てて開けられ、大声で名前を呼びながら進が入って来た。

「お前、このやろ~!」
「おかえりー」
「ふざっけんなよっ!!どういうことだよ!」
「情報が早いね…そんなに怒ってるってことは、もう知ってるんでしょ?」
「なんで既に入ってんだよ!親衛隊!!」
「だから、僕の自由でしょ……」
「親衛隊がどんな目に合うか知ってんかよ!」
「僕、穏健派だもん」
「は?穏健派?」
「えー知ってるでしょ…雑用チーム。あ、お手伝いチームか」
「実情は知らねぇっどんな目で見られるか…知ってんだろ!」
「……僕、そーゆーの慣れてるし…今までと変わらないじゃん」
「なっ……そん……」
「誰にどう思われても良い。ハッキリ教えてくれない進より夕先輩の方が優しかったよ」
「なんだよ……それ……」
「また喧嘩になるし…もういいよ……おじさん達には好きに言って…迷惑かけないからさ」
「心配事増やしてんなよっ…もぅ知らねぇ」

(心配……してたの?……僕のこと……)

里葉は進の思いもしなかった単語にキョトンとしてしまった。

(ふーん……そっか……)

そこまで悪い気はしなかった里葉。

(これで…後はあの声をかけて来た3年生を注意すれば大丈夫。親衛隊に入って色んな情報を知るんだ…)

里葉はその小さな体で戦っていた。


 進はモヤモヤした気持ちのまま、唯一事情を知る山岡央歌の部屋に愚痴りに来ていた。

「山岡、見た?親衛隊の新メンバーの名前…」
「まだ見てないよ。帰るギリギリで差し替えられてたでしょ?親衛隊の名簿」
「はぁ~アイツだよ…」
「え"……まさか……森里葉?」
「そうだよっ」
「あちゃ~……行動早いね……」
「何感心してんだよ…父さんから何かあったら報告しろって言われてるんだよ…兄貴にも…どうすんだよ……煩く言われるの、俺だろ?勘弁しろよ…」
「ははっそれは、頭痛いねぇ」
「めっちゃ他人事……」
「ふーん親衛隊に入っちゃったんだ…」
「穏健派だっつってた…」
「あぁ!なるほど~」
「……穏健派って……なに?」
「あれ?知らないの?純粋に、生徒会が好きで応援してる人たちだよ」
「そうなのか?……つーかアイツぜってぇ生徒会好きじゃないだろ……興味なんかないくせ…」
「そうなんだぁ……面白い子だね」
「だから!興味持つなって」
「だったらここに話に来ないでよ…里葉くんの話ばっかりじゃ興味の一つや二つ持つでしょ…」
「……なに親しげに里葉くん、なんて呼んでんだよ…仲良いのかよ…」
「えぇ~……嫉妬?やっぱり好きなの??」
「違うわっ…変な虫つけんなって煩いんだって」
「……俺……変な虫……」

進の言葉にショックを受けている央歌。

「まぁ……俺も風紀だし……一度助けてるし…注意してみてみるよ。今度はちゃんと顔見て話してみる、だから仲良くしてても嫉妬しないでね」
「執拗い!嫉妬しないから、アイツとは馬が合わないだけなんだよ」

進は里葉が嫌いでは無かったが好きでもなかった。嫉妬といえば嫉妬なのかもしれない。しかしそれは恋愛のそれではなく、家族愛のものだった。深窓の令嬢の様に心配し、どう関わっていいか戸惑っている父親。本質は甘やかしている母と兄、同い年の進としては面白くない。けして蔑ろにされている訳では無かったが、面白くない。その一言につきた。
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